paco Home>授業関連>演習科目一覧(九州大学)>大橋ゼミ第7期(99年度)
シラバス
基本情報
- 授業科目名: 法律演習
- 講義題目: 行政法演習
- 開講学期・単位数・教室・時間帯: 通年・4単位・205・火曜日4限
- 対象学年: 3・4年生
- 担当教員: 大橋洋一
授業の概要
行政法総論の分野における①近時の重要判例,②基本論文を素材として,基本原則,行政の行為形式論に関する研究報告を参加者に担当してもらう。基本的な法律解釈能力の養成に加え,近時の行政法制度改革を素材に,立法論,法政策論についての理解も深めたい。
ゼミの具体的テーマについては,参加者の希望を尊重する。
授業の進め方
参加者の研究報告を皆で議論することとしたい。問題発見能力,文献収集能力,論理的構成力に加えて,人前でわかりやすく話をすることのできる能力を向上できるようなゼミにしたい。角松ゼミと協力しつつ,運営する。
教科書及び参考図書
第一回のゼミの時に,指示する。
試験・成績評価等
ゼミにおける研究報告と,年度末に作成するゼミ論集の論文による。
その他
履修条件:研究報告と議論にひたむきに取り組むこと。
行政法1部の受講は条件としない。
ゼミガイダンスパンフレット
昨年(1997年度)&今年(1998年度)のテーマ
昨年度は,前期を判例評釈に,後期は行政法関係の時事問題及びゼミ論準備に当てました。今年度は前期,行政法に関係する現代的問題(住民参加・消費者保護・行政改革と省庁設置法)の検討を行い,後期は判例評釈とゼミ論準備を行っています。テキストを離れ現代的な問題に取り組むのがゼミのコンセプトです。
ゼミの雰囲気
ゼミは1人または2~4人のグループの報告者がレジュメに基づいて報告を行い,それに対し質疑応答・討論が展開されます。討議では先生の丁寧なコメントや,院生・留学生からの意見も交え,自由な雰囲気の中で楽しく議論が進みます(今年度は院生5人[研究者1・アドバンスト1・留学生2・社会人1]が参加しました)。
公務員を目指す人はもちろん,たとえまだ行政法を知らなくても,現在進行中の問題に関心がある人にとっては,興味深くかつ旺盛な知的好奇心を満たすことでしょう。なおゼミ活動の詳細は行政法ゼミのホームページで公開しています。
イベント&ゼミ論
イベントとしてはコンパを年3回程度行っています。また実務家の方を迎えて講演会を開いています(今年度は福岡県庁の方や不動産鑑定士の方などからお話を伺いました)。ゼミ論は行政法に関係するトピックを自主的に選択し,ゼミ報告などを通して,後期末に提出するようになっています。社会に出てから必要な論理的文章を書く構成力や表現力を身につけるのにゼミ論文は役立ちます。入学時に小論文を書くよりは卒業時にまとまった論文を書く経験をする方が重要だと考えられます。
ゼミ活動の概要
前期
1999年度前期のゼミテーマは「行政行為論を学ぶ」でした。下記のゼミ活動と併行して,4年生による3年生へのサブゼミ(行政法総論の内容)がありました。
- 民間の営業活動に対する行政監督(福原・橋本)
行政法では古典的かつメジャーな「営業規制」ですが,最近の規制緩和を背景にその存在意義が厳しく問われています。阿部泰隆先生の『行政の法システム(上)新版』を教材にして行政と営業規制の問題について検討します。 - 行政行為の種類(水谷・山口)
行政行為の分類学は古くから多くの学者によって語られ,現在でも公務員試験などでは重箱の隅をつつくような問題がでています。一方で行政手法論・法的しくみ論といった,行政行為不要論も登場し,分類学は危機に立たされています。分類学には意味があるのか,現代的意味を付与できるのかが大きな問題となるでしょう。 - 行政行為の効力(内野・水原)
行政行為論で最も大切にして最もよくわからない「公定力」をはじめとする行政行為の効力を扱います。取消訴訟の排他的管轄といった訴訟法の問題も視野に入れながら検討を要する分野といえるでしょう。 - 行政行為における行政裁量(野中・平田)
行政裁量は主に訴訟との関係で問題となりますが,他の論点とも絡み合った問題です。訴訟中心に偏らず,裁量権行使をどのように適正化するかといったアプローチも必要となるでしょう。 - 行政行為の無効・瑕疵(荒川,森岡)
古くは公定力の限界として,あるいは行政裁判所-司法裁判所の管轄の線引きとして論じられてきた瑕疵の重大明白説をはじめ,諸論点が多い無効・瑕疵論をあつかいます。 - 行政行為の取消・撤回(井上,吉本)
取消と撤回の違いに始まって,法律の根拠の要否,受益的行為の場合,さらには行政法関係における行政行為一極集中現象に対する肯否まで含まれる行政行為の取消・撤回を扱います。 - 行政行為の附款(森,宮島)
公務員試験では論点となる行政行為の附款論が行政行為論の最後です。附款の機能に注目しながら限界論などが扱われるものと思われます。
後期
1999年度後期のゼミではゼミ論文執筆に向けての報告が中心になりました。その前に
- 行政契約論(with判例評釈)(原田)
後期のゼミ第1回は,前期の行政行為論をうけて,もう一つの代表的な行為形式である行政契約について報告します。なぜ行政契約という行為形式が成熟しなかったのか,それに対してわが国ではどのような行政上の契約が用いられているかを検討し,行政契約の共通の特性に関する仮説を提示してそれを検証します。判例評釈では保留地処分が住民訴訟の対象となるかが問題となった最判平成10年11月12日民集52巻8号1705頁を検討します。
続いてゼミ論文の構想発表がありました。
<都市・建築法>
- 都市計画法と住民参加(白浜)
①都市計画におけるとくに地方の主体性
②公共事業推進の主体性
③住環境確保のための地域住民の主体性 - 欠陥住宅・造成地問題(原田)
①はじめに(欠陥住宅・造成地問題の現状,住宅法の枠組み)
②民法による解決法(契約責任,不法行為責任)
③災害対策手法(急傾斜地崩壊災害防止法)
④開発建築規制手法(都市計画法,建築基準法)
⑤新しい規制手法(住宅の品質確保の促進等に関する法律,消費者法と行政法)
<環境法>
- 産業廃棄物の不法投棄(清田)
①産業廃棄物処理の歴史
②排出者責任原則と結果責任
③マニフェスト - 環境アセスメント(荒川)
はじめに
1. 環境影響評価法の意義
環境法の中での位置づけ
閣議アセスからの改善点
2. 環境アセスメントの実際
環境影響評価法と条例・要綱との関係
日本の環境アセスメントの性格
3. 現行環境アセスメントの問題点と改善策
アセスの信頼性の確保
住民の参加機会の拡大
計画段階でのアセスメントの導入
4. これからの環境アセスメントのありかた - 産業廃棄物処理場設置問題(橋本)
①産業廃棄物の状況
②産業廃棄物処理場建設に対する住民側の懸念
③廃棄物処理法の改正点
④改正法に基づく設置手続
⑤改正法における問題点...住民参加
⑥住民投票とその法的拘束力
⑦廃棄物処理法の改正案 - 一般廃棄物処理場問題(吉本)
①一般廃棄物とは
②廃棄物処理場設置に対する市民の反対意見
③一般廃棄物の状況(久留米市)
④現在の状況
⑤問題点
⑥私見
<原子力行政>
- 日本の原子力安全行政(水谷)
①問題意識
②茨城県東海村臨界事故ドキュメント
③日本の原子力安全行政の崩壊
④世界的な原子力政策の流れ
⑤日本の原子力政策の今後
⑥今後の論文の行方 - 臨界事故から考察する原子力行政における規制のあり方について(宮島)
①事故の概要
②事故の原因
③事故の原因と規制体制の不備との関連性
④私見
<社会保障>
- 保育所問題(野中)
①はじめに
②エンゼルプラン・緊急保育対策等五カ年事業のねらい
③エンゼルプランとは
④緊急保育対策等五カ年事業とは
⑤緊急保育対策等五カ年事業による改善と問題点
⑥補助金について
⑦エンゼルプランと五カ年計画の課題 - 介護保険(平田)
①問題意識
②介護保険制度の必要性
③これまでのしくみと問題点
④介護保険制度の目指すもの
⑤介護保険制度のしくみ
⑥問題点
<行政改革・情報公開・規制緩和>
- 酒類販売免許(井上)
①酒類販売免許制度について
②酒販制度の合憲性
③規制緩和との関係
④エピローグにかえて - 情報公開法と自治体条例(福原)
①福岡県の情報公開制度
②情報公開法の制定
③条例と情報公開法との比較 - 行政機能の民主化(森)
①問題の着眼点
②これまでの「審議会」論
③行政改革に係る審議会等の整理合理化
④パブリック・コメント手続について - 行政機能のアウトソーシングと効率化(森岡)
①はじめに
②アウトソーシングとは
③独立行政法人
④特殊法人
⑤国立大学の独立行政法人化問題 - 警察の情報公開(山口)
①問題意識
②警察(しくみ・組織・階級),神奈川県警不祥事
③情報公開法制
④警察組織の問題点
<自治体財政>
- 第三セクターの破綻から学ぶPFI法の問題(内野)
①第三セクターとは
②第三セクターの歴史
③第三セクターの抱える問題(自治体によるコントロール,情報公開,職員派遣)
④第三セクターの破綻
⑤PFIとは何か
⑥英国版PFIについて
⑦日本版PFIについて
⑧第三セクターから学ぶPFI法の問題点 - 住民賛成手段としての住民訴訟の役割(水原)
①住民訴訟とは
②住民訴訟の使われ方とその背景(環境住民訴訟,第三セクター)
③他の住民参政手段と住民訴訟との関係
最終的に提出された論文題目は以下の通りでした。
- 白浜真治『誰が「まち」をつくるのか』
- 清田 明『改正廃棄物処理法による、産業廃棄物処理責任の明確化』
- 原田大樹『規制行政の構造転換』
- 荒川久美子『環境アセスメントについて』
- 井上雄司『規制改革「未来予想図」~酒類販売免許からの考察~』
- 内野美穂『第三セクターとPFI-第三セクターからの教訓』
- 野中早智『児童福祉としての保育所制度』
- 橋本ゆかり『産業廃棄物処理場設置問題』
- 福原夏美『情報公開法に見るこれから情報公開制度のあり方』
- 平田亜紀子『介護保険制度導入に寄せて』
- 水谷直人『日本の原子力安全規制~臨界事故を素材として~』
- 水原菜穂子『住民参政手段としての住民訴訟の役割』
- 宮島伸一郎『臨界事故から考察する原子力行政における規制のあり方について』
- 森 義和『政策決定過程の民主化』
- 森岡 智『国立大学の独立行政法人化』
- 吉本真祐『適正廃棄物処理行政を目指して』
- 山口圭介『現代警察制度論』
ゼミ参加者
- 幹事:原田大樹(4年生),内野美穂(3年生)
- 4年生:白浜真治,清田明,原田大樹
- 3年生:荒川久美子,井上雄司,内野美穂,野中早智,橋本ゆかり,福原夏美,平田亜紀子,水谷直人,水原菜穂子,宮島伸一郎,森義和,森岡智,吉本真祐,山口圭介