paco Home>授業関連>演習科目一覧(九州大学)>大橋ゼミ第11期(03年度)
シラバス
基本情報
- 授業科目名: 法律演習
- 講義題目: 行政法演習
- 開講学期・単位数・時間帯: 通年・4単位・木曜日4限
- 対象学年: 3・4年生
- 担当教員: 大橋洋一
履修条件
行政過程論の講義を受講していることが望まれます。講義を聞いていない人は,講義テキスト(大橋『行政法』[有斐閣・2002年補訂])を予め読んでおくことを勧めます。
授業の目的
皆さんが将来どのような職業につくとしても,社会で活躍するために是非大学で身につけておくことが望まれる知的技術・知的能力があります。それは,
・解決すべき課題を発見できること
・それに関する情報を多方面から収集できること
・情報の分析・加工を通じて私見を作り上げられること
・同僚の前でわかりやすく,しかも論理的説得力をもって報告できること
・そして同僚との議論を通じて修正・改善された解決策をまとめあげること
の5点にわたります。
これまでの講義は,聴き手として受け身の学習が主でした。ゼミナールにおいては、皆さんが報告者としての役割を引き受け,主体的に上記の能力を積極的に開発してほしいと考えます。行政法に関するテーマが素材となることが多いのですが,それは手段であって,決して目的ではありません。
授業の概要・授業計画
前期は,最新の重要行政法判例の研究を統一テーマに,ゼミ生で協同してして議論します。参加者は個別判例を担当報告し,上記の能力をどのような形で具体的に身につけられるのか,を学びます。合わせて,法律学の基礎理論,行政法の一般理論の復習も丁寧に行います。後期は,各自が自分のテーマを決めて,ゼミ論集の論文作りに挑戦します。
授業の進め方
参加者が研究調査報告を毎回分担し,それを素材にゼミ全員で議論します。
教科書及び参考図書
第一回目のゼミの時に指示します。2003年に公刊予定の大橋他編『行政法判例集(総論)』(有斐閣)を教材に使用したいと考えております。
試験・成績評価等
ゼミにおける研究報告と,年度末に作成するゼミ論集の論文により評価します。
その他
ゼミガイダンスパンフレット
2002年度の活動内容
前期は,4月に文献の検索方法やレジュメの書き方についての指導が1回あり,その後夏休みまでに発表が1人1回ありました。後期はゼミ論文の書き方についての指導が1回あり,その後発表が1人2回あっています。2月初旬にゼミ論文を提出する予定です。
2003年度の方針
来年度は前期に判例評釈を,後期に各自自分の興味のある分野の調査と発表を行います。判例評釈はまだあまり知られていない最近の判決をもとに行政法について学習していきます。公務員を目指す人や,まだ行政法を知らないけれど行政法の最先端の情報を知りたい人にとっては非常に有意義な時間を過ごせるゼミです。なお過去のゼミ活動の詳細については行政法ゼミのホームページをご覧下さい。
ゼミ外活動
コンパなどを年数回行いました。
ひとこと
このゼミでは知識よりも自説・私案を持つことが重要視されます。行政法の知識がない,と諦めずに大橋ゼミで一緒に勉強していきませんか。
- 学生によるゼミ紹介(Web版フォーラム掲載)コーナー: 大橋ゼミ紹介記事
ゼミ活動の概要
前期
- 第1回(4/17) 自己紹介・イントロダクション,ここがわからなかった行政法(1)
はじめに,全員が自己紹介し,その後,大橋先生からゼミのコンセプトに関するお話がありました。その後,いきなり報告に入りました。
○行政指導と救済手段(木村)
第1回目の報告にもかかわらずハイレベルなもので,大変よかったと思います。
○近代行政法と現代行政法(古賀智子)
問題自体がかなり大きなもののため,なかなか簡単には議論がすすみませんでした。 - 第2回(4/24) ここがわからなかった行政法(2)
○オンブズマン制度(梅丸)
差し替えたレジュメではかなりの点が改善されており,よかったと思います。
○行政指導とインフォーマルな行政活動(山口)
学部ゼミのレベルを完全に越えてしまった内容であったと思います。論文を読んで勉強するのはよいことですので今後とも続けましょう。
○通達の法的性質(古賀一)
稚拙でも自分の文章を書くことが大切です。ゼミで思考の方法を身につけてほしいと思います。
○行政計画(清見)
引用方法やその背景にある考え方が理解できれば,ゼミでうるさく言われる文献表記方法の持つ意味が理解できると思います。 - 第3回(5/1)ここがわからなかった行政法(3)
○行政裁量について(田尻)
要件裁量と効果裁量の古典的学説の整理がなされており,自分の設定した課題に対する解答としては十分な内容を持っていたと思います。さらによい報告とするには,課題設定のおもしろさにも配意することが大切です。
○行政裁量論(菅原)
事前配布レジュメよりかなり内容面で良くなっていたと思います。裁量統制の方法についてもう少し詳しく調べてみるとよりよかったでしょう。
○行政行為の公定力(高瀬)
かなり難しい学術論文に挑戦したのは大変よかったと思います。公定力の問題は行政訴訟改革との関係で最近再び議論があるところなので,そういった部分へのフォローがあるとなおよかったと思います。
○行政行為の無効と明白性補充要件説(藤澤)
判例を素材に報告を組み立てているので,具体的なイメージを持った上で抽象論に進むことができていると思います。明白性の意味や歴史的背景に注意して掘り下げるとおもしろい発見がありそうです。 - 第4回(5/8)ここがわからなかった行政法(4)
○法律の留保原則(酒井)
法律の留保と行政活動の柔軟性という問題意識をもう少し正面に出して報告を組み立てるとよりわかりやすい報告になったでしょう。
○本質性理論について(杉野)
学術論文やドイツ法に関する文献を丁寧に読んで報告したのは大変よかったと思います。
○侵害留保説と本質性理論(西田)
本質性理論の「本質」とは何かという問題は非常に重要な視点です。本質性理論に批判的な論文・教科書を多く読んだ上で報告を組み立てるとより深いものになるでしょう。
○公法私法二元論と公法上の当事者訴訟(堀之内)
公法概念のもつ意味を検討した上で当事者訴訟の存在について論じると,新しい視点が生まれたように思います。 - 第5回(5/15)ここがわからなかった行政法(5)
○取締法規と民事取引(中山)
具体例を取り上げて報告を組み立てたり,全体の構成を見通しやすくしたりする工夫が見られる報告でした。判例の取り扱いについてもっと技術を向上させるとよりよい報告となるでしょう。
○取締規定と民事取引(福本)
大村敦志先生の論文を読んだ上での報告だったので,的確な学説の整理ができていたと思います。90条・91条の問題についてと行政上の規制との関係についてより深い考察があればもっとよかったと思います。
○情報公開制度におけるグローマー拒否(宮崎)
3年前のゼミでもかなりもりあがったテーマですが,今回もかなりの関心をあつめました。論文を読んだり具体例を示したりする報告手法は大変よかったと思います。
○情報公開制度と関連制度(野邊)
論点を網羅的に扱ったため,ひとつひとつの内容が相対的に浅めになったのは残念でした。インカメラ手続や文書管理についてより深く調べると,おもしろいものになったと思います。 - 第6回(5/22)自治体条例の新潮流(1)
宮城県行政評価条例を素材に,条例論の基礎から同条例の基本的考え方までを問答形式で解明しました。 - 第7回(5/29)自治体条例の新潮流(2)
宮城県条例の逐条解説の形式で,条文を読んで理解する練習をしました。グループ分けと報告テーマの決定を行い,さっそく各グループで作戦会議が行われました。 - 第8回(6/5)自治体条例の新潮流(3)
本格的なグループ活動が始まりました。当初の予想に反して,時間ぎりぎりまで各班とも活発な議論が展開されました。 - 第9回(6/12)自治体条例の新潮流(4)
今回も熱心なグループ活動が行われました。2コマが終わるのはあっという間のようですね。 - 第10回(6/19)自治体条例の新潮流(5)
台風接近のためできなかったグループもありました。 - 自主ゼミ(6/26)
大学院集中講義と重なったため休講でしたが,自主的にグループ活動している班が多かったです。 - 第11回(7/3)自治体条例の新潮流(6)
A 杉並区防災対策条例(水城・山口・高瀬・酒井)
災害対策基本法との関係や,防災条例に何を書き込むべきかが問題になりました。
B 横浜市廃棄物等の減量化,資源化及び適正処理等に関する条例(中尾・河内・田尻・藤澤)
条例自体が複雑であったため,報告も議論もかなりハードでした。
C 浜松市ユニバーサルデザイン条例(原田・杉野・菅原・中山)
基本施策提示の性格と,市民参加手法を条例化する性格とが同時に存在している,興味深い条例です。
D 横須賀市市民協働推進条例(平田・坂本・野邉・福本)
ヒヤリング調査等を踏まえ,ゼミ論文のような体裁をとった報告でした。本ゼミ初のPowerPoint利用報告でした。 - 第12回(7/10)自治体条例の新潮流(7)
E 宇土市文書管理条例(高口・中泉・木村・宮崎)
現地調査を踏まえたわかりやすい報告でした。情報公開制度と文書管理制度の相互関係についてはもうすこし検討が必要でしょう。
F 川西市子供の人権オンブズパーソン条例(前田・梅丸・堀之内・清見)
オンブズマンの事例として貴重であったにもかかわらず,今年度前期をもって廃止されてしまうことについての詳細な検討があればなおよかったです。
G 羽咋市いきいき市民活動推進条例(時井・古賀・古賀・西田)
NPOの支援の手法として定着する可能性がある基金・登録・施設利用の手法を検討した報告でした。基金方式と税金との関係はなお検討の余地があります。 - ゼミ合宿(9/18-20)
(研修1)ゼミ合宿風景
○大阪高判平成15(2003)年5月21日判例集未登載(O-157国家賠償訴訟)
情報提供としての公表には法律の根拠は不要とし,厚生大臣による公表そのものは適法としたものの,そのやり方に過失を認めて国家賠償請求を認容した興味深い事件です。
○最判平成14(2002)年1月17日民集56巻1号1頁(みなし道路:前田,福本,野邊,高瀬)
これまでの最高裁判決の定式から若干異なった見解を示したようにも見える,処分性に関する新判例です。
(研修2)
○最判平成14(2002)年1月22日民集56巻1号46頁,最判平成14(2002)年3月28日民集56巻3号613頁(総合設計許可:坂本,菅原,田尻,梅丸,古賀智子)
時間切れで都市計画と市民参加の関連の議論が十分できなかったのは残念でした。
○最判平成14(2002)年2月28日民集56巻2号467頁(知事交際費:中尾,杉野,西田,堀之内)
非常に読みにくい判決文で,かつポイントもとりにくい,報告者泣かせの判決でした。
(研修3)
○最判平成14(2002)年1月31日民集56巻1号246頁,最判平成14(2002)年2月22日判例時報1783号50頁(児童扶養手当:中泉,中山,宮崎,藤澤,山口)
行政立法が法律の委任の趣旨を越えるとして無効とされた判決です。婚姻外懐胎児童でずいぶん議論が盛り上がりました。
○最判平成14(2002)年7月9日民集56巻6号1134頁(宝塚市パチンコ店事件:河内,古賀一)
法律上の争訟性をあまりに狭く解した最高裁の考え方に対する批判が提起されました。
(研修4)
○ゼミ論文テーマ決定
後期
- 第13回(10/9) 論文発表①(高口・宮崎・高瀬・清見)
○国立大学法人論(高口)
九州大学もまもなく国立の機関から離れて,一応の独立採算制をとった国立大学法人に切り替わります。公益目的を掲げた法人は様々あり,公益法人や営利法人のほか,中間法人なども存在します。今回はその中でも国立大学法人を取り上げ,国が抱ええている特殊法人や独立行政法人,公社などとの性格の違いなどを考え,国立大学法人化の意義を考える方針が提案されました。
○不登校問題(宮崎)
単に不登校といってもたくさんの要因が挙げられます。学校制度や国の対策などが抱える制度上の問題点などに注意を払って,次回の発表に臨むと良いと思います。
○教育行政(高瀬)
今回の発表では,学習指導要領や教育委員会などについて発表がおこなわれました。大橋先生がご指摘なさったように,どこに問題意識があるのかをはっきりさせると,読み手の興味をひきやすいのではないでしょうか。
○オンブズマン制度(清見)
オンブズマン制度について,多くの参考文献があげられており,独自の調査に期待します。行政相談制度の存在が,どの程度市民に影響を当てえているのかや,最近のオンブズマン制度の流れについてフォローすると良かったと思います。 - 第14回(10/16) 論文構想発表②(福本・古賀一・梅丸・田尻)
○子育て支援(福本)
女性の社会進出や家庭の核家族化に伴い,子どもを育てたくても育てられない夫婦が増えてきています。また,必ずしも子どもを生むことが結婚生活に必要な要素ではないと考える人も出てきました。少子化は社会基盤の維持にとっても深刻なダメージをあたえるものです。少子化にいたる国民の認識など,データの分析もしっかりと行うと良かったと思います。皆さんは,何人子どもが欲しいですか?
○医療制度(古賀一)
救急医療体制についての発表でした。データの評価については論者にとって見解が分かれる事項なので,引用かそれとも自分の見解なのかを明確に示していくと良いと思います。
○高齢者福祉(梅丸)
これまでのレジュメの中で一番レベルの高いものであったと思います。高齢者福祉を考えに当たって,様々な社会保障制度を取り扱われていましたが,テーマを絞ることによって,よりまとまりのある論文になると思います。
○年金問題(田尻)
近年,年金制度改革が盛んに叫ばれています。今回の衆議院選は年金選挙と評されることもあって,年金問題は,現在国が抱える重要な課題です。発表を行う際には,内容をしっかりとレジュメに書いて,聞き手が理解しやすく,そして頭の整理を行いやすいようにを心がけると良かったと思います。 - 第15回(10/23) 論文構想発表③(河内・前田・中尾・酒井)
○性差別の社会構造(河内)
今回の発表では,女性差別の問題を,主にドメスティックバイオレンスの観点から考察を行いました。現行の法制度が,どのような仕組みを用意しているのかや,他の法制度との比較という視点が加えられると,さらによい報告になったと思います。
○労働時間の短縮に向けて(前田)
「労働時間の短縮に向けて」というテーマでしたが,発表ではワークシェアリングが話題の中心となりました。一般にワークシェアリングには雇用創出の効果があるとされますが,その反面,現在の従業員にとっては自らの給料が減るという重大な問題が発生します。差し迫ったリストラによって,全体としての雇用を維持するほうが従業員のためになるといった特殊な状況がない限り,労組との調整が難しいものと思われます。法律の仕組みに論及することも必要ですが,実態は,例えばサービス残業に見られるように,法制度とはかけ離れた運用されていることもありますので,行政の意図したとおりに実態が動いているのかを検証する姿勢が必要だと思います。
○経済行政法の現在的課題(中尾)
経済行政法を行政法学の概念分類などを中心に発表が行われました。内容が高度で学術的であったため,聞き手の理解がかなり不安視された発表でした。聞き手の興味を引く工夫を施すとよい発表になったと思います。
○経済行政(酒井)
大橋先生がご指摘の通り,かなりペースが遅い気がします。経済行政について思いつくままに護送船団方式や独禁法などの話題が提示されましたが,相互に連関したものとは思えません。酒井君がどのような視点で経済行政に切り口を入れるのかという基本的な部分を押さえるようにしましょう。次回の発表に期待します。 - 第16回(10/30) 論文構想発表④(坂本・堀之内・古賀智子・木村)
○現代型地方自治のシステムと理念(坂本)
現在,地方分権に向けて大きな流れができつつあります。縦割り型行政実務の再編を目指し,地方に一定の権限と財源を移譲する試みが行われてきました。それとは,別の角度から住民の目線を行政過程に織り込むために,さまざまな住民自治を活性化させるための施策も行われています。地方分権と住民自治との関係を明らかにすると議論の流れが上手くいくと思いました。
○地域内分権の展望(堀之内)
配布されたレジュメの質が高かったために,事前の質問メールも届いたくらいでした。地域内分権は,人口増加に伴って肥大化した単位行政区(横浜市等)において,住民の意見を上手く反映させるために,一地域内で仕切り直しを行い,それぞれの住民グループでの意見交換を活発化させることで,住民自治を実現しようとする試みです。分権化の流れについては丁寧にフォローしてあると思いますので,具体的にどんな試みがなされてきたのかを検証すると大変読み応えがある論文になったと思います。
○公私協働-第三セクター,PFI事業について(古賀智子)
公私協働は,公共セクターと民間セクターの長所を生かし,公共事業をより経済的且つ効率的なものにしていこうとする試みです。話題の中心がネープルランドの破綻に収斂していきましたが,古賀さんが持つ問題関心を前面に出して今後の論文作成に生かしていけたらよいと思います。
○パブリック・コメント制度(木村)
パブリックコメントは,行政が施策を実行するに当たって,その構想段階から住民の意見を取り入れようとする試みです。今回の発表は手続的側面と現状運用が比較的丁寧にフォローできていたと思います。その一方で,パブリックコメントの意義や問題性についての言及が少なく,現状報告の域に留まっていたので,次回の発表にはもう少し肉付けをして,具体的な問題点の所在や行政立法との位置づけなどを総合的に分析していくと良いと思います。 - 第17回(11/6) 論文構想発表⑤(古賀響子・中泉・中山・山口)
○市町村合併(古賀響子)
市町村合併は,小規模の市町村を統合し一定規模の行政単位を構成することで,地方にこれまで国が有していた権限を下ろすための基盤を整備しようとするものです。確かに合併によりある程度の人口基盤と整備が可能となる面も否定できませんが,財政基盤の確立を強調する合併策は正しい方向性を示しているのか気になるところです。市町村合併は現在進行中ですので,専門誌などを通じてどのような点で問題点が生じているかなど,実態分析を行うことがこれらの議論にスパイスを与えると思います。
○行政評価(中泉)
国が行う行政評価について,今回は専ら制度的な説明が行われました。政策評価法では,個別具体的な政策について各省庁が自己評価を行うことが定められています。しかし,実際に行われている評価が国民に対して分かりやすいものになっているかや,外部評価性を備えない点について疑問を挟む余地がたくさんあります。これらの具体的な問題点について実態を調査し,具体的な改善提案を示すことが必要だと思います。
○政策評価-道路行政について(中山)
今回の発表では,主に道路行政を評価するという視点から,論文の大まかな構成についての試案が提示されました。道路建設に当たっての政治過程とのかかわりや,国土交通省が比較的早期に取り組んできた透明性や公平性の確保の手段などをつぶさに検討する必要があると思います。また,住民にとっての必要な道路を作るにはどのような手法があればよいかについて様々なプランを提示するとよいかもしれません。
○地盤沈下対策(山口)
地盤沈下の基礎知識について,大変分かりやすい解説が行われました。ご本人の地元での出来事ということもあって問題関心の所在ははっきりとしていると思います。地盤沈下をめぐる法規制について,国が定めた法制や地域ごとに定められる条例との関係を明らかにし,様々な角度から行政法学的な分析を試みることが今後の成長の鍵になると思います。 - 第18回(11/13) 論文構想発表⑥(藤澤・杉野・西田・野邊・菅原)
○葬祭場再整備事業問題(藤澤)
葬祭場再整備事業は,福岡市が推進する総工費100億円を支出する全面建替案によって推進されていますが,これに対して全面立替は不要で,リファイン工法によって総事業費を40億円程度に抑えるべきだという反対が唱えられています。議会での対立をベースに問題構造を掘り起こして言ったのには特徴があると思います。次回は,具体的な法律構成や一般化の問題について検討するとよいのではないでしょうか。
○地域交通(杉野)
自動車の普及が著しい中,公共交通の役割が見直されつつあります。渋滞緩和や環境問題を念頭に置いた都市型の交通問題を始め,多くの方の足を確保するための地域型交通問題を総合的に検討するという内容でした。これかは具体的なケースを洗っていくと思いますが,杉野さんらしい足で稼いだ情報を期待しています。
○土地区画整理事業問題(西田)
土地区画整理事業は,不均一な住宅開発によって生じた交通網の混乱を整備するために,地域の人々が共同して組合を形成し,土地の区画を仕切りなおそうというものです。土地区画整理組合は強制加入団体であり,その公共性ゆえに様々な公的規制と権限の移譲が見られます。これらは,公共組合の概念によって整理されている分野ですが,市民合意の手法と行政の関わり方を学ぶ上で大変面白い素材だと思います。今後は,公共組合の性格を検討しながら,土地区画整理事業が予定していた経済実態と現在の経済実態を比較検討し,今後も維持可能なシステムなのかを改めて検討していくと素晴らしい論文になると思います。
○都市交通(野邊)
杉野さんとテーマが類似していることもあって,報告がしづらかったと思います。しかし,私が思うにお二人の着目点はかなり違っていると思いますので,独自の見解にたって論文を進めていく限り個性的なものができるのではないでしょうか。都市交通問題は,都市のあり方とも密接に関連します。これまでの集客型都市システムから,ある程度の地域拡散を当然とした都市システムに移行しつつある今日,都市のあり方と捉えなおし,さらには都市における交通問題を考えることは有意義なことだと思います。
○地方税の徴収問題(菅原)
地方税の滞納率が高い中,地方公共団体がいかにして税金を集めるかが重要な問題となっています。税金を確保するノウハウを持たない団体には権限を委譲しないというドラスティックな見解もある中,地方公共団体が独自に税を確保できるシステムを新ためて考える時期が来ているようです。広域連合体をつくるという方法も一つのアイディアだと思います。地域に密着しているがゆえに税を取り立てにくいなど様々な問題が考えられるので,それらを解決するにはどのような方法が可能なのかをつぶさに検討していくことが期待されます。幸い,菅原さんはアイディアが豊富のようですので,あれこれイメージをしながら問題点を考察し,改善案に生かしていくとよいのではないでしょうか。 - 第19回(11/27) 論文経過発表①(高口・宮崎・高瀬)
○国立大学法人(高口)
論文経過報告第一回目,前回の受けた指摘を丁寧に織り込んでいたところが良かったと思います。国立大学法人になることによるメリットとデメリットはどこにあるのか,そして高口私案である公社案の魅力がどこにあるのかを積極的にアピールすると良かったと思います。
○義務教育における不登校問題(宮崎)
義務教育に関する不登校に絞ったことで,論文の射程が分かりやすくなったと思います。用語法の理解が丁寧なことから,問題関心への的確なアプローチが期待できます。今後は,自分が不登校対策担当大臣になったつもりで,成功事例や失敗事例の共通項を抄出し対策を考えると良いと思います。
○教育行政(高瀬)
前回と比べ,かなり自分の問題関心に引き寄せてきた感じを受けます。ですから,今度はもっと具体的な事例で教育行政の難点を引き出して,自分なりの目線で解決方法を模索すると読み応えが増してくるのではないでしょうか。既存の研究紹介から脱却し,自分の目線で論文を書き始めたとき,本当の意味で読者をひきつける論文になると思います。 - 第20回(12/4) 論文経過発表②(福本・古賀一・梅丸・田尻)
○子育て支援(福本)
前回の発表に比べて調査量も豊富になっており,ターゲットを絞った点で評価できると思います。公営保育所と民営保育所の違いを鮮明にできれば,民間活力の導入論を説得力を持って提示できると思います。育児休業の実態や子育てをしている家庭,ならびに共働きをしている家庭が保育所とどんなかかわりを持っているかをフィールドワーク的に調査するとよいのではないでしょうか。
○小児救急医療について(古賀一)
報告内容は格段によくなっていると思います。問題関心の所在が不明確な点は否めないのですが,成長が垣間見れるレジュメです。物事がどこで滞っているのかをつぶさに分析していくと,さらによりものになるのではないでしょうか。
○高齢者介護―介護制度の現状(梅丸)
報告の仕方など,いつもながら分かりやすい内容に仕上がっていると思います。介護問題に絞りをかけたことで,より書きやすくなっているのではないでしょうか。レジュメでは,高齢者の生活実態が見えてこないので,それらも踏まえて何が必要なのか,生活のどこに障壁があるのかなどについて実態調査を行うと,より読み応えがあると思います。
○これらからの年金(田尻)
前回に比べて前進は見られますが,やや引用資料の信憑性に疑問があります。また,調査量が少ないと思いますので,業界団体が出している対案をつき比べでどこに問題があるのかを考えていくとオリジナリティーが出るのではないでしょうか。 - 第21回(12/11) 論文経過発表③(河内・前田・中尾・酒井)
○ドメスティックバイオレンスについて(河内)
今回は,女性問題からさらにDV問題に絞って検討が行われました。既存の法律制度について触手が伸びている点は評価できると思います。一方,暴行罪・脅迫罪などではどうして対処できないのかが明らかになっているとはいえません。したがって,今後の仕上げとしては,既存の法制度が予定している処罰対象とその方法を丁寧に検討しながらも,DV特有の問題点を解決するにはどのような仕組みが望ましいのかを検討すると良いと思います。
○労働時間の短縮に向けて(前田)
他国の労働短縮制度との比較を試みた点で評価できると思います。しかし,その一方で諸外国の取り組みの社会的背景や制度設計に影響する他の要因がよく分からず,不十分な点も見受けられます。また,雇用創出を目的としているのか,労働時間の短縮を目的としているのかもやや曖昧です。論文の考察対象をもう一度検討して,私論を展開すると良いと思います。
○経済政策システムの行政法的問題(中尾)
論文を書く上でのお作法に落ち度がない点で評価できると思います。その一方で,抽象的な表現が多く,読者に具体的なイメージが喚起されないという問題点もございます。行政手法に着目した性質決定に力点をおくのではなく,何が問題となっているのかを具体的な例を挙げながら分かりやすく説明する試みを続けていくと,読み手に優しい論文になると思います。
○経済行政法(酒井)
格段の成長が見られる点で,大変評価できると思います。経済行政法の総論的な説明に終始したため,酒井君が主に取り上げる電力自由化の問題に検討の目が届かなかったのが惜しまれます。今後の展開としては,電力自由化がもたらした影響を具に実証していくと大変読み応えのある論文に仕上がると思います。 - 第22回(12/18) 論文経過発表④(藤澤・杉野・西田・野邊)
○福岡市葬祭場再整備計画問題(藤澤)
今回の発表では,随意契約の統制に関する法制度と訴訟を行うための法律構成について発表が行われました。全体として詰めが甘いという指摘がなされ,具体的な事実関係のどこを捉えて違法性を主張するのかを丹念に洗いなおすべきだと思います。また,だらしのない委託契約だと一蹴するのではなく,本来規律すべき事項がどんなものなのかを明らかにすることも必要なのではないでしょうか。
○地域交通について(杉野)
地域交通について,前回よりも多くの資料を提示するなど調査の進展が見られると思います。その一方で,杉野さんが目指す地域交通の行く末が曖昧であり,今後の対策としては,もう一度論文の考察対象と考察の動機を丹念に検討するとよいのではないでしょうか。
○土地区画整理事業の現状とあり方(西田)
土地区画整理事業について,公共組合の理解について詳細な検討が行われていたと思います。一つ要望があるとすれば,土地区画整理事業を通して公共組合の考え方を捉え直す作業を是非やってもらいたいと思います。引用文献が物語っているように,田中二郎先生から公共組合の整理や位置づけに関する研究が進んでいるようには思えません。現在の公共組合が果たす役割と性質を西田さんなりに考えてみると,かなりレベルが高い論文になると思います。
○都市交通政策について(野邊)
都市交通政策について,都市から自動車をなくすことを最大の目標とした発表が行われました。アイディアを拾ってきたまでは良いと思いますが,それぞれがどんな長所と短所を有しているのかが明らかではなく,交通政策としてどんな制度を組み合わせるのかといった観点も欠けているのではないかと思いました。今後は,ロードプライシングなどの経済手法を用いた交通量規制などに焦点を置いて,野邊さんがめざす都市交通体系のあり方を提言していくと良いと思います。 - 第23回(1/8) 論文経過発表⑤(中泉・中山・木村)
○政策評価の検討(中泉)
政策評価について,市民参加をベースにした報告が行われました。総務省が提示する事業評価の意義などについて,深く考える契機になったと思います。行政評価自体は多くの行政組織が担っていくものと思われますが,それらがいかに連携してコストパフォーマンスが高い評価システムを構築する方法を考えていくと,エース級の論文になるのではないでしょうか。
○道路行政(中山)
道路行政について,道路とは何かという基本的な問題意識から出発した大変ユーモラスな報告だったと思います。中山さんの報告は,多くの業界紙を活用するなど,調査方法に秀でたところがありますので,今後の活躍が期待されます。今回の報告では,道路行政の透明性確保が最大の焦点となっていますが,道路公団の民営化を目前とした今,行政が公共政策を担う民間会社とどのように連携してくべきかという課題や民間会社の透明性をいかに図るかなど,多くの課題を抱えた道路問題に果敢に取り組んでもらいたいと思います。
○住民参加と地方議会(木村)
近年,行政に参加するための数多くの手法が開発され,行政手続の透明性や住民意思を反映する手法については,先進的な試みが数多くなされてきました。しかし,その一方で民主主義の要とも言うべき議会とのかかわりが不明確になる事態が生じています。本来,住民の意思を反映する最高の立法機関としての議会をよそに,行政が直接住民の意思を吸収しだした今日,行政と議会がどのような関係に経つことが好ましいかについて,深い考察を試みると面白いのではないでしょうか。 - 第24回(1/15) 論文経過発表⑥(古賀響子・山口・清見)
○市町村合併について(古賀)
今回の報告では,合併運動の進み具合や広域行政との比較などが行われました。しかし,おおよそ問題意識がどこにあるのかが不明確であり,合併に積極的なのか消極的なのかもつかみづらい内容になっています。また,参考文献の少なさともあいまって,手身近な情報だけを集めて「提示」した感を否めません。残りわずかの期間ですが,自分が合併についてどんな問題意識を持って取り組もうとしているのかを明確にし,論理の筋道を立てて論文を書いていくことを強く望みます。
○地盤沈下対策(山口)
今回の報告は,地盤沈下対策というよりも水資源公団の問題性に着目した内容だったと思います。地元で発生する地盤沈下への問題意識からダムを開発する水資源公団の組織の問題性にまで跳躍していく姿勢は高く評価できると思います。後は,最後の詰めとして全体として自分が調べてきた関心事をどう書きしたためるかに焦点を置いて,最後まで楽しんで論文の作成に勤しんでください。
○日本オンブズマン委員会(清見)
今回の報告では,行政監察制度の不具合に目を向け,日本に独立行政委員会としての日本オンブズマン委員会を設置しようという考えが提示されました。独自案を提示する姿勢は高く評価できると思いますが,組織として権限をどの程度保持できるのか(許されるのか)と言った問題や,氏名公表などにおける手続き整備の理解が不十分など,実現に運ぶには詰めが甘い点が数多く散見されます。憲法との整合性を考えながら,市民の声を反映するための制度設計を進めてください。 - 第25回(1/22) 論文経過発表⑦(菅原・堀之内・古賀智子・坂本)
○地方税の諸問題(菅原)
今回の報告では,最も滞納率が高い自動車税を捕捉するための具体案を中心に発表・討論が行われました。自動車税を滞納している人の免許更新を拒絶するというアイディアは斬新で面白いものがありましたが,所有者と利用者が必ずしも一致しない現状をどう捉えるのかと言った問題や,地方税を管轄する総務省と免許更新に携わる公安委員会との連絡調整をどのようにするかといった問題など,様々な障壁にぶつかる可能性があります。その一方,調査している文献の専門性などは高い水準に達していると思いますので,最後の追い込みに励んでください。
○地域内分権の展望(堀之内)
今回の報告では,近隣委員会の議論に焦点を当てながら,住民自治を活性化させるための仕組みを考察しました。非常にレベルが高いレジュメであり,調査量,文献の質ともに他者を圧倒する勢いを見せているようです。また,適宜図を挿入することによって,どれくらいの規模で住民自治の再生を考えているのかがよく分かりました。最後の仕上げとしては,地域内文献と市町村合併の議論が相互に矛盾するのではないかといった本質的問題に考察を加えると素晴らしい論文ができると思います。現在の市町村制度の塗り替えではない,新しい制度設計を目指して最後まで頑張ってください。
○第三セクター(古賀智子)
今回の報告では,ネイブルランドの倒産にいたる過程を紹介した後,情報公開の不備になどに着目した意見が出されました。おそらく,ネイブルランドの調査で時間がとられていたと思いますので,最後の仕上げとしては今後似たような問題が生じないようにするためには,どんな方策があるのかを丁寧に論じてくとよくと思います。
○地方自治の課題と展望(坂本)
今回の報告では,行政評価がなぜ必要なといった理由の説明など,最近話題になっている行政の施策について相互の関係を説明しようという試みが行われました。しかし,レジュメなしの報告だったゆえに,議論の流れを追っていくのが大変でした。形を残さないというのは,ある意味自分の主張をごまかせることにもつながるので,聞き手にも優しい報告を手がけると良いと思います。 - 第26回(1/29) 論文発表会
論文発表3分・コメント2分と大急ぎではありましたが,無事論文の提出を迎えることができました。そして,某氏が悔し涙を流しておられたのには感動しました。ゼミ論に向き合う姿勢がなければ,絶対にできないことです。これから論文委員による製本が開始されます。完成品が楽しみですね。
これで,本年度のゼミの記録を終わります。皆さん,本当にお疲れ様でした。それでは,来年度のゼミに向けて頑張りましょう!
学びの羅針盤
この部分は2003-04年度のホームページ管理者を担当した藤澤君が,ゼミの中で出てきた重要なポイントをまとめたものです。
- 判例を読む際には,体系論での位置づけを確認する
判例を読む際には,教科書で述べらているところの「どの問題・論点」に該当するのかを常々確認することが大切です。
漠然と判例を読むのではなく,これまで蓄積されてきた議論を進めるものなのか,新たな分野を拡張するものなのかを検討する必要があります。
何らかの事例に当たった際に,より広い視野にたって物事を論ずるためには,体系論へのアプローチを避けることができません。
また,教科書のどこどこの問題と関係していると把握すれば,より理解が進むものと考えられます。 - 自分の問題関心をしっかりと前面に出すことが大切である
ゼミ発表では,どうして自分がその箇所を発表するのかを明確に意識していることが必要です。発表者でさえ問題関心の所在が分からないものは,聞き手にとっても面白いものとは言えません。
これまで学界が積み重ねていた研究実績を卒なくまとめることも一つの方法ですが,それで終始してはいけません。ゼミ生である以上,自分の問題関心を自分なりの視点を持って分析していけるかどうかが試されています。
発表においては,最初の1分が大切です。この1分で,自分の目線を聞き手に共有させることが発表を成功させるための鍵になります。 - Pioneerの事例を探れ!
Pioneerの事例=先進事例を探ることが大切です。物事を抽象論のレベルで捉えるのではなく,新しい試みを実際に行っている自治体を探し出して,その長所や短所をしっかりと分析してみましょう。
行政法の学習で身に着けた方法(法律の仕組みを考えたり,組織の民主性や住民参加手続きが具備されているかなどを検証する事)を使えば,誰にも負けない最先端の議論が展開できるようになります。 - 現行の法制度の守備範囲を明らかにする。
問題解決をするに当たって,すぐに新法提案に走ってはいけません。これまでの法制度がどこまでを規律しているかを明らかにし,その上で「足らない点」を指摘しながら,解決策として新法を考えるべきです。
このことにより,現行法制度がどのような事柄を前提にしているかを把握することができます。
そして,現行法の守備範囲を踏まえた議論ができるということは,問題関心の所在を明確に持つことができている証拠です。自らの主張により説得力を持たせるためにも,現行法制度の守備範囲を明確にする作業は大切でしょう。 - 制度が前提としている社会をイメージする。
時代の変化と共に,行政法の制度が念頭においていた社会そのものが変化していることが少なくありません。
例えば,土地区画整理事業は土地が高騰し続けることを念頭に置いた仕組みだといえます。しかし,現在に至っては,土地の価格は下がる一方であり,事業資金をまかなうことができるとされていた保留地制度の前提が崩れつつあります。
このように,制度を概観する際には,立法された当初の社会情勢を加味しながら法的仕組みを検討していくとより深く制度設計を学ぶことができます。
ゼミ参加者
- 幹事:坂本純(4年生),山口悠紀(3年生)
- 4年生:古賀響子,河内絵里子,高口健司,坂本純,中泉允博,中尾健太,前田昌宏
- 3年生:梅丸裕子,木村真理子,清見太一,古賀智子,古賀一,酒井宏徳,菅原礼,杉野綾子,高瀬祥子,田尻彩子,中山明子,西田香菜,野邉文香,福本典子,藤澤義貴,堀之内豊,宮崎智恵,山口悠紀