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paco Home>ernst>2013年10月

例解 行政法

10月25日に東京大学出版会『例解 行政法』を出版させていただきました。本書は,近時刊行がなされてこなかった行政法各論を中心とする単著の基本書で,第2部において4つの参照領域(租税法[税法]・社会保障法・環境法・都市法)を取り上げています。また,第1部では行政法総論の概要(行政過程論・行政救済論)をコンパクトに説明しています。本書の構成や刊行に至った経緯については,本書の「はしがき」「本書のねらいと学習方法」に書かせて頂いています。

行政法を学び始めた学部2年生の頃,行政法は難解でつかみどころがないという印象を持っていました。そう感じた理由はおそらく2つありました。1つは,行政法総論の全体像を把握するのが難しいということでした。当時は行為形式論で行政過程論を説明することが今ほど一般的ではなく,基本書によって行政法総論の目次自体がばらばらでした。体系論をどのように組み立てるか自体に論争があるのは理論的には興味深いですが,行政法を勉強し始めた学部生にとっては何やら敷居が高いように感じられました。もう1つは,行政法の授業を聞いても具体的な行政法規を読解する力が付いた実感が涌かなかったことです。行政法の授業では具体的な行政法令の共通要素を取り出して説明するため,具体例としてある法制度のごく一部がしばしば切り出されます。その部分のみは理解できますが,そのしくみが埋め込まれた法制度が全体としてどうなっているのかはよく分かりませんでした。

本書は,こうした初学者の段階での経験を踏まえ,行政法を分かりやすく説明するのはどうすればよいか試行錯誤する中で生まれました。第1の,全体像の把握については,自分自身が学習していた当時には高木光先生の『ライブ行政法』や石川敏行先生の『はじめて学ぶプロゼミ行政法』があり,こうした入門書の力を借りて行政法の全体像を何とか把握し,基本書を曲がりなりにも読み進めることができる基礎的な知識を得ていました。これらはいずれも現在においても秀逸な入門書ですが,どちらも改訂がなされておらず,現在の初学者には勧めづらくなっています。そこで本書第1部では,行政過程論・行政救済論の現在の輪郭をなるべくシンプルに説明することにしました。また図解を多用し,行政法の複雑な構造をなるべく視覚的に捉えてもらえるように工夫しました。頁数の制約から詳しい説明をすることはできませんでしたが,この点については現在出版されている行政法総論の基本書との併読を前提に執筆しています。

第2の,具体的な行政法規の読解力を獲得するには,いくつかのステップが必要になります。まず,行政法規の文法というべき行政法総論の知識が必要です。しかしそれだけでは読解力は身につきません。英語の読解においても単語・イディオムの理解に加え,テキストの背景知識を知っておくことが重要であることは,しばしば指摘されます。行政法規の読解もそれと同じであり,単語・イディオムにあたる個別法分野の概念・基本用語の理解や,背景知識にあたる個別法分野の基本原則・基本構造・典型的な法的しくみの理解が求められると思います。本書第2部ではこうした諸要素を4つの分野にわたって説明することで,具体的な行政法規の読解力の獲得を図ろうとしています。

本書は2006年度以降に九州大学法学部・同法務学府(法科大学院)・京都大学法科大学院で開講してきた授業の実践をまとめたものであり,試行錯誤の中間総括としての性格も持っています。行政法総論だけでなく,4つの法分野もカバーすることは困難な作業であり,思わぬ誤解もあろうかと思います。お気づきの点をご指摘頂ければ大変ありがたく存じます。また,本書の刊行を区切りとして,新たな授業実践にも取り組みたいと考えています。

本書の刊行にあたり,東京大学出版会の山田秀樹さんに大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

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