ドイツ語の語順は文の構造(定形の位置)で学んだように,動詞定形が第二成分となればよいという原則しかないように見える。しかし実際にはドイツ語の文肢配列にはさらに規則性が見られる。ここで必要になる知識が定形要素と枠構造である。
ドイツ語の語順は定形が2番目(決定疑問文では1番目)が原則である。他の部分の語順については英語ほどの規制はないとはいえ,次のような原則に注意しなければならない。それは,ドイツ語では重要な要素ほど定形動詞の遠くにおかれる傾向があるということである。特に文末におかれる成分のことを「定形要素」と呼ぶ。ここでは定形要素が文尾に来ている文を簡単に確認してみよう。
ある種の動詞と名詞が一定のペアで使われることがある。
Er fährt gut Ski.(彼はスキーが上手である。)英語でも方向を示す副詞句はたいてい最後にくる。
Ich fahre nach Kitakyushu. (私は北九州に行く。)このような構造を枠構造とよぶ。
助動詞がある場合,定形要素は動詞の不定形である。
分離動詞はドイツ語やオランダ語などにみられるものであるが,似たような使い方をする動詞は英語にもある。たとえば
Check it out!(確認して!)
I will see him off. (私は彼を見送るつもりだ。)
など,他動詞の句動詞の場合,目的語が動詞と前置詞ないし副詞の中に入る現象がある。
ではドイツ語の分離動詞について例文をみてみよう。
Die Schule fängt um 8 Uhr an. (学校は8時にはじまる。)動詞は不定形で書くとanfangen(はじまる)である。この動詞は英語の「句動詞」にあたるものである。つまり最初のanは,もともと接触状態を表す前置詞で,これが接頭語になっている。fangenは,捕まえる・姿勢を立て直す,という意味の動詞である。前置詞と動詞のくっついた熟語だと考えるとわかりやすい。不定形のときはくっついているが,使われるときは接頭語(前綴り)が分離して,最後におかれる。
助動詞の場合,英語では次のようになる。
I must go to school. (私は学校へ行かねばならない。)
助動詞は動詞の前に置かれ,動詞は原形不定詞となるというのが英語のルールだった。ドイツ語では動詞が不定形になるのは同じで,おかれる場所が文末になる。つけくわえると,(やっかいなことに)助動詞にも人称変化がある。
Ich muss Deutsch studieren.(私はドイツ語を勉強しなければならない。)枠構造はドイツ語の特色のひとつである。辞書を引くときには動詞だけ見るのではなく,その文の最後に短い単語が残っていないか確認する癖をつけるとよい。
中級以上のドイツ語になるとよく登場するのが機能動詞とよばれるものである。機能動詞は日本語のサ変(サ行変格活用)動詞,つまり「○○する」の「する」に似ている。機能動詞自体に本来は意味があるのであるが,特定の名詞や前置詞句と使われることによって動詞本来の意味が失われ,動詞自体は単に「○○する」の「する」の意味しか持たなくなるのである。例えば
Die Richter entscheiden den Streit. (裁判官達はその紛争を判断する。)の2つの文の意味はほぼ同じである。判断する・決定するという意味を表す動詞entscheidenは機能動詞treffen(本来は当てる・出会うという意味)と動作名詞Entscheidung(決定すること)とが結合した機能動詞構文で言い換えることができる。このとき機能動詞と動作名詞が枠構造を形成しており,論文などの硬い文章ではこのような構造が好まれる傾向にある。このような機能動詞構文の意味を調べようとする場合には,動作名詞の方で辞書を引いた方が意味がわかることが多い。
最終更新日: 2005年4月1日
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