ドイツ語の発音は簡単だ。なぜかんたんかというと,次の3つの理由があるからである。
1. ドイツ語の発音そのものがかんたんである。
鼻濁音などが多いフランス語,舌を出すthで有名な英語,有気音と無気音を区別する中国語…,などなど我々日本語を話す人間にとって難しい発音が外国語には多いなか,ドイツ語だけは例外!のどひごrの発音をのぞき(しかもこの発音はできないならそれでもかまわない!)ドイツ語の発音は日本人にとって容易である。英語のうまい日本人は少ないが,ドイツ語のうまい日本人はたくさんいるという説も有力に流布されている。
2. ドイツ語のアクセントは基本的に第1音節にある。
続いてアクセント。基本的に第1音節にアクセントがあるという決まりがある。ただし,外来語(ドイツ語以外に起源を持つ言葉,これが結構多い!)はこの原則があてはまらない。だからアクセント問題というのは英語と同様,存在するのだ。
3. 発音はローマ字読みがほとんど。綴り字と発音がほぼ対応している。
これは英語と大きく違います。英語ではoneと書いてなぜか「ワン」と読む。wもないのにワという音になる。このようなことはドイツ語にはない。ドイツ語では基本的にローマ字読みすればOKである。たとえばHausは「ハウス」と読み,家という意味になる。もちろんすべてがローマ字読みではないが,綴り字と発音がほぼ対応しているので発音の規則を覚えれば初めて見る単語でもなんとか発音できる。
1. オーウムラオトの発音
オの口をもうすこしとがらせて,エと言ってみよう。オとエの中間のような音が出る。これがオーウムラオトの音である。
例 schn (美しい) h
ren
(聞く) k
nnen (できる)
2. ウーウムラオトの発音
ウの口をもう少しとがらせて,イと言ってみよう。この母音は中国語にもある。
例 bung (練習) k
ssen
(キスする) f
nf (5)
3. chの発音
ドイツ語の発音を特徴づけている音がchである。ドイツ語がわからない人がドイツ語の雰囲気を醸し出すため「イッヒッヒ」などといっているのを聞いたことがあるはずだ。(?)英語ではschool[ク]やchannel[チ]などの音だが,ドイツ語は少し違う。のどの奥から息を吐き出して「ハ」「ヒ」という音になる。
<「ハ」の場合>
a,o,u,auの直後にchがあるときはハの音になる。
例 acht (8) nacht (夜) Buch (本)
<「ヒ」の場合>
前記以外の母音の直後にあるchはヒの音になる。また−igもこの発音になる。
例 ich (私は) mich (私を) dich(あなたを)
4. pfの発音
英語だったらどちらかを黙字にして発音しないで済ませそうだが,ドイツ語では両方とも発音する。(ドイツの「まじめな」国民性がでている?)「プフ」と同時に発音する。
例 pfund (ポンド)
5. rの発音
最初に述べたようにrの発音は実際のところそう気にしなくてもいい。日本語的なラリルレロでも通じるし,巻き舌音でも大丈夫である。しかし標準発音はのどひご(のどちんこ)をふるわせるものなので,このやり方を覚えておいて損はない。かく言う私(原田大樹)もドイツ語を習ってからのどひご音が出るまで10ヶ月はかかった。みなさんもあせらず練習しよう。ポイントは
の3つです。chの発音[x]によくにた体勢で出すことができる。
例 rot(赤) Frage(質問) studieren(勉強する)
ここでドイツ語特有の文字について説明する。
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名前 アーウムラオト
発音 「エー」(日本語のエとほとんど同じ)
例 erk |
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名前 オーウムラオト
発音 「オ」の口で「エ」 例![]() ![]() |
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名前 ウーウムラオト
発音 「ウ」の口で「イ」 例 m![]() ![]() |
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名前 エスツェット(SとZの融合形)
発音 「ス」(英語のsと同じ)
例 hei ![]() |
ここではドイツ語の綴り字と発音の関係について整理してみよう。
<母音の長さの法則>
母音が長くなる場合 |
母音が短くなる場合 |
同じ母音を重ねている場合 例 Tee(お茶) 「母音字+h」の場合 例 Uhr(時間) |
その母音の直後の子音が重なっている場合 例 wissen(知っている) |
<ペアになると読み方が変わる3つのパターン>
ieは「イー」 例 viel(多くの)
eiは「アイ」 例 mein(私の)
eu,uは「オイ」 例 neun(9)
tr
umen(夢見る)
<rの発音>
のどひごrについてはすでに紹介したが,綴り字rがすべてのどひご音になる訳ではない。語末・音節末で長母音の後ろにあるrは「ア」という発音になる。(よかった。)これをrの母音化という。たとえば
Guten Morgen!(おはよう!)
のMorgenの発音は,一般に「モルゲン」と信じられていますが,「モアゲン」となる場合が多い。
<b,d,gの無声音化>
語末・音節末で後ろに母音のないb,d,gは無声音[p][t][k]と発音される。
例 gelb(黄色の) Deutschland(ドイツ) Tag(日)
<s,ss,の発音>
sは無声音の場合と有声音[z]の場合とがある。母音の前のsは濁る。これは英語のsと大きく違う。一方ssとはどんなときでも濁らず[s]の発音である。ドイツ語正書法が改正されるのにともなって,これまで
とつづられてきた部分がssにかわるため,
の活躍の場は狭まりつつある。ちなみにスイスではすでにssのみ用いている。
例 Sohn(息子) Klasse(クラス) Fu(足)
<シュッ!シュッ!シュツ!,はschと語頭のsp,st>
英語でshの綴りは,ドイツ語ではschである。ただし語頭のspとstはシュプ,シュトゥ,と発音する。
例 schn(美しい) Stra
e(通り)
spielen(遊ぶ)
ドイツ語の綴り方の規則である正書法がまもなく変更される。1996年7月1日にドイツ語を公用語とするドイツ,オーストリア,スイス,リヒテンシュタインと,ドイツ系の人々の住むベルギー,イタリア,ルーマニア,ハンガリーの8ヶ国はドイツ正書法改革について合意した。その内容は
1. 短い母音のあとのはすべてssで綴る。
例 einbichen(少し) − einbisschen
ただし長い母音の後のは今まで通り。(例
Fu
)
2. 外来語で,これまでphで綴っていたものをfで綴るようにする。
例 Delphin(いるか) − Delfin
などである。全体として,より規則性のある綴り方に変更されている。1998年8月から移行期間に入り,2005年8月には完全実施される予定になっている。この期間は現在の正書法でも大丈夫だが,なるべくはやいうちに新しい正書法になれておくことが求められる。1997年春に出版された独和辞典にはほとんど新正書法と旧正書法の対照に関する記事が載っているので,確認しておくとよい。
作成者:原田大樹