受動態(Passiv)とは「...される」という受け身の意味の文のことです。ドイツ語では様々な受動態の表現方法がありますが,最も基本的なのはwerden+過去分詞(Partizip II)で表される動作受動(Vorgangspassiv)と,sein+過去分詞で表現される状態受動(Zustandpassiv)の2つです。
動作受動(Vorgangspassiv)
Er schließt die Tür.
→ Die Tür wird [von ihm] geschlossen.
動作受動の作り方は基本的には英語の場合と同じです。能動態の4格目的語を受動態の主語とし,werdenを第二位に人称変化させて置き,もとの動詞を過去分詞にして文末に置きます。能動態の主語は動作主の場合にはvon+3格,手段の場合にはdurch+4格で表しますが,必ずしも明示する必要はありません。
[中級] 3格・4格をとる動詞の受動態
3格と4格をとる動詞の場合,4格目的語を主語に受動態をつくり,3格はそのままにします。3格目的語を主語とするwerdenによる受動態はドイツ語にはなく,この場合には後述のbekommen受動文をつくります。
Dieses Gesetz verbietet den Autounternehmern Massenentlassungen.
(この法律は自動車製造企業に大量解雇を禁止しています。)
→ Massenentlassungen werden [durch dieses Gesetz] den Autounternehmern verboten.
動作受動の時制
動作受動の時制はwerdenを変化させることで表現されます。
- 現在形: Ich werde gelobt.
- 過去形: Ich wurde gelobt.
- 未来形: Ich werde gelobt werden.
- 現在完了形: Ich bin gelobt worden.
- 過去完了形: Ich war gelobt worden.
- 未来完了形: Ich werde gelobt worden sein.
動作受動も未来形も助動詞はwerdenですが,未来形の場合には文末に不定詞が置かれます。werdenはsein支配なので,完了形の場合にはseinとともに使われます。助動詞としてのwerdenの過去分詞はgewordenではなくwordenであることに注意が必要です。
[中級] 非人称受動
英語では能動文で目的語がある場合だけ受動文が可能ですが,ドイツ語の場合には4格目的語がない能動態を受動態に書き換えることができます。この場合には主語がない文になり,主語が空位になるときは穴埋めにesが用いられます。動詞は3人称単数の変化になります。このような表現をすることによって動作主の存在が薄くなり,行為に焦点が当てられることになります。ドイツ語の受動態は,行為や動作に注目する表現であって,英語のように他動詞の場合だけ受動態を作ることができるとは考えられていません。
Mein Freund hilft mir. → Mir wird geholfen.
Man tanzt heute. → Heute wird getanzt. (= Es wird heute getanzt.)
状態受動(Zustandspassiv)
Die Tür wird [von ihm] geschlossen.
Die Tür ist geschlossen.
受動態はもともとその動作を行った人よりもその動作にフォーカスする表現です。werdenを使う受動はまさにそのための表現です。これに対してsein+過去分詞を用いる状態受動は,動作ではなくその結果としての状態を強調する表現です。
上の例文のwerden受動では「ドアは(彼によって)閉められました。」という意味で,動作主が明示されていようといまいと,閉められたという動作を表現の中核にしています。これに対しsein受動では「ドアは閉まっています。」という意味であり,閉めた人あるいは閉めた動作とは関係なく,現在ドアが閉まっているという状態を言い表すのに用いられます。ただし意味的には,誰かによってドアが閉められた結果として現在ドアが閉まっている状態にあるというニュアンスを表現することになるので,動作受動の内容も同時に表していることになります。
状態受動の時制
状態受動の時制はseinを変化させることで表現されます。
- 現在形: Die Tür ist geschlossen.
- 過去形: Die Tür war geschlossen.
- 未来形: Die Tür wird geschlossen sein.
- 現在完了形: Die Tür ist geschlossen gewesen.
- 過去完了形: Die Tür war geschlossen gewesen.
- 未来完了形: Die Tür wird geschlossen gewesen sein.
[中級] 話法の助動詞と受動態
話法の助動詞と受動態が同時に用いられる場合には,必ず話法の助動詞が定形となります。「この文はすぐ修正されねばなりません。」という意味のドイツ語は,上が正しく下が誤りです。
○ Der Satz muss sofort korrigiert werden.
× Der Satz wird sofort korrigiert müssen.
[上級] その他の受動表現
以上の2つが受動態の代表的な表現方法ですが,ドイツ語では他にも受動態を表現する方法がいくつかあります。
- bekommen/erhalten+過去分詞
Sie hat die CD geschenkt bekommen. (彼女はCDをプレゼントされました。)
Ich habe Gepäck geschickt erhalten. (私は荷物を送ってもらいました。)
bekommen/erhalten受動は英語風に言えばSVOOの構文をとっている場合に間接目的語(~に)を主語とする形の受動文です。もともとは「プレゼントされたものとして受け取る」「送ってもらったものとして授けられる」という意味ですが,それが受動の機能を表しています。ドイツ語は英語と違ってこうした場合に間接目的語を主語とするwerdenの受動文を作ることができません。bekommen受動は,動作の受け手を主語にする形であり,bekommenの本来の意味がそこに反映されています。 - haben+過去分詞
Ich habe das Manuskript gedruckt. (私はこの原稿を印刷してもらいました。)
このhaben受動も上のbekommen/erhalten受動と考え方は類似しています。 - sein+zu不定詞
Die Grundrechte sind zu beachten. (基本権は尊重されなければなりません。)
この表現は法律関係のドイツ語でしばしば登場し,受け身と義務を同時に表現します。 - 機能動詞構造
Das Gesetz kommt zur Anwendung. (この法律は適用されるようになっています。)