paco Home>HDG>ドイツ語入門>ドイツ語の話し言葉
ドイツ語にも「書き言葉」(Schriftsprache)と「話し言葉」(Umgangsprache)があります。話し言葉の特徴はいくつかあります。
- 発音の省略
- 簡易な表現
- 話し言葉のみで用いられる特定の意味・ニュアンス
- 文の構造
- 話法の不変化詞
日本語と違って,ドイツ語の場合には,ニュースのような比較的固いドイツ語の中にも話し言葉が使われます。
Und so bleibt der Ausstoß von Kohlendioxide &Co in letzten Jahren hoch. (さらに二酸化炭素などの排出は,近時高い水準のままである。)[Tagesthemen, 19. Mai 2015, 22.20 Uhr]
発音の省略(Verschleifung)
ドイツ語の発音の省略にはいくつかのパターンがあります。英語やフランス語のように省略形(he's ; t'aime)が書き言葉に登場することはほとんどないため,省略のパターンを予め理解していないと,ドイツ人が何と言ったのかつかめないことがしばしばあります。
[1] 発音の同化(Assimilation)
- haben - habm
- haben wir - hamma
[2] 母音の欠落(Vokalausfall)
- ein - 'n ; eine - 'ne
- komme - komm ; bleibe - bleib
- werde es - werds ; geht es - geht's
[3] 子音の欠落(Konsonantenausfall)
- nicht - nich ; mal - ma ; nun - nu
- herein - rein ; heraus - raus
ドイツ語では一般に母音の欠落が多く,子音の欠落は例外的な現象とされます。nicht-nichがその典型です。
[4] 声門閉鎖音の欠落(Knacklautausfall)
- habe ich - habbich
声門閉鎖音は,母音から始まる音節で前の音節と区切るために声門を閉じる際の音で,例えば Beamte (Be|amte) や erinnern(er|innern) に含まれます。話し言葉では,発音の同化と同時に声門閉鎖音の欠落が起こることがあります。
[5] 母音の縮減(Vokalredukution)
- Wusstest du das? - Wussteste das? (duのuの音がe[短く弱い音]に変わる)
- Kommse doch rein! - Kommen Sie doch herein! (Sieのieの音がe[短く弱い音]に変わる)
簡易な表現
[1] 会話でよく用いられる短い表現
ドイツ人の会話を聞いているとしばしば出てくる短い表現として,以下のようなものがあります。
- Na endlich! (ようやくだね)
- Na und? (だからどうしたの?)
- Na, hör mal! (なんて馬鹿なことを!)
- Nanu! (驚いた!)
- Eben! (私もそう思う,そうだね,それを言おうと思っていた)
- Und zwar? / Nämlich? (それで?)
- Je nachdem. (状況によるね)
[2] sein + 前置詞・副詞 の表現
seinと前置詞(da+前置詞)・副詞を組み合わせて決まった意味を表す表現があります。
- Ich bin draußen/drin. (私は外に/中にいます)
- Ich bin dabei. (一緒にやります)
- Ich bin durch. (終わりました)
- Ich bin weiter. (先に進んでいます)
- Ich bin dafür/dagegen. (賛成/反対です)
[3] haben + 代名詞 + 副詞・前置詞等 の表現
habenを使った短い表現として次のようなものがあります。
- Ich habe es dabei. (持ってきたよ)
- Ich habe es satt. (うんざりだ)
- Ich habe nichts auf. (宿題はないよ)
- Ich habe nichts dagegen. (反対しないよ)
- Ich habe es raus! (わかった!)
[4] kommen + da+前置詞 の表現
kommenを使った短い表現として次のようなものがあります。
- Ich komme nicht dazu. (それをやる時間がない)
- Ich komme nicht dahinter. (なぜそうなったのか分からない)
- Ich komme nicht darauf. (やっぱりやりたくない・気に入らない)
- Ich komme nicht drumherum. (やりたくないけどやらなければならない)
話し言葉のみで用いられる特定の単語・意味
日本語と同様に,ドイツ語でも書き言葉のみで使われる単語と,話し言葉のみで使われる単語があります。また,両方で使われる単語でも,書き言葉と話し言葉で意味が違うことがあります。
[1] 話し言葉のみで使われる単語
得る・獲得するという意味の一般的な動詞としてbekommenがあります。同様の意味で書き言葉のみで使われるのがerhaltenです。また,話し言葉のみで使われるのがkriegenです。
Ich habe das von meinem Freund gekriegt. (友達からこれをもらいました)
うまくいくという意味の書き言葉寄りの動詞としてgeliegenやschaffen,話し言葉で使われる動詞としてklappenやhinkriegenがあります。
Das ist mir gelungen. (私にとってうまくいきました) = Ich habe es geschafft.
Kriegst du's hin? (うまくいった?)=Hat es gut geklappt?
このような例として,以下のような単語があります。
- mitkriegen 偶然わかる・見る(=sehen, beobachten)
- -r Kram がらくた・品物(=Dinge, Zeug)
- knipsen 写真を撮る(=fotografieren)
- -e Pappe 厚紙・ボール紙(=Karton)
[2] 話し言葉で特定の意味を表す単語
「列」「シリーズ」という意味を表す-e Reiheは,口語では異なる意味・ニュアンスを持ちます。
Das machen wir alles der Reihe nach. (私たちはそれを普段通りにやります)
Jetzt sind die an der Reihe! (今それをやるときです)
Die haben das nicht auf die Reihe gekriegt. (うまくいきませんでした)
文の構造
話し言葉では,動詞の位置が書き言葉と違うことがあります。例えば,weilやwobeiが接続詞で用いられる場合には,undやoderと同じように動詞が節の最後に置かれず,主語等の次に置かれることがあります。同じような現象は,関係詞の場合にも起きることがあります。
話し言葉に特有の現象として,右方向への移動(Rechtsauslagerung)と呼ばれる現象があります。これは,枠構造の外側に文肢が配置される現象です。
Dein Freund kannst auch nach Reichenau mitkommen.
Dein Freund kannst auch mitkommen nach Reichenau.
どちらも意味は同じですが,右方向への移動が起きた場合には,文アクセントは移動した文肢の直前(上記の文章ではmitkommen)におかれ,その後は平板なイントネーションで読まれます(Coda-Akkzent)。
話法の不変化詞
とりわけ話し言葉では,細かなニュアンスを伝える話法の不変化詞(Partikel)がしばしば用いられます。
Ich möchte nach Deutschland fahren.
Ich möchte mal nach Deutschland fahren.
「ドイツに行きたい」という表現で,ドイツ人にとって自然と感じられるのは,下の文章です。ここでmalは「いつか」「そのうち」というニュアンスを表し,具体的な時期を特定することを避ける機能を持っています(過去の文脈で使うと「以前に」「かつて」の意味になります)。もし上の文章をドイツ人に対して言った場合には,"Und wann?"(それで,いつ行きたいの?)というように,どの時点かを聞いてくることが普通です。malを使うことで,時間的な要素をぼかして表現することができます。
malにはこの他,「ちょっと」(=kurz)や「やむなく」(この意味ではnun malを使うことが普通)の意味もあります。また,nicht malの形で「~すらない」(sogarの反対)の意味を表します。
Schau mal, da oben! (ちょっと,その上を見てよ!)
Kann man nicht mal selber feststellen, ob das Buch schon angemahnt ist?
(その本が督促されているのかを自分で確かめることすらできないのですか?)
話法の不変化詞のその他の例として,次のようなものがあります。
- also: 「つまり」「ということは・ゆえに」という意味を表す(先行する内容が必ず必要)
[例] Meinst du also, ich brauche ein Neues?
(ということは,新しいものが必要だというの?) - allenfalls: 「せいぜい・最大でも」(=maximal)や「うまくいっても」(皮肉の意味で)という意味を表す(「万一の場合」「もしかして」の意味では古風な言い方とされ,現在の口語ではほとんど使われない)
Die Verspätung dieses Zugs wird allenfalls etwa 15 Minuten sein.
(この列車の遅れはせいぜい15分ぐらいだろう) - denn: 質問の文脈を明示することによって(「それでは」「それなら」),質問の直接性を和らげたり,丁寧なニュアンスを表したりする(丁寧のニュアンスだけを表す用法は誤用とされる)
[例] Sie sind neu gekommen, gell? Wie heißen Sie denn?
(あなたは新しく来たんですよね? それではお名前は?) - doch: 否定を否定する「いや」という意味と,相手が「当然」知っている・分かるはずだ(そのことを忘れているのはおかしい)という意味を表す
[例] Das soll doch Herr Michel machen.
(これは[あなたも分かっているように]当然ミヒェルさんがやることになっている) - eben: 時間的な意味(「ついさきほど」)を表す場合と,「やむを得ず~するしかない」「(自分がすでに言ったように)やはり」という意味(南ドイツではhaltがしばしば使われる)を表す
[例] Er kommt zu spät. Dann nehmen wir eben ein Taxi.
(彼は来るのが遅すぎる。だからタクシーを使うしかない。) - einfach: 「まさに」「とにかく」という意味を表す(形容詞・副詞としては「簡単に」)
[例] Das hat einfach keine Ahnung!
(とにかく分かりません!) - etwa: 「およそ・だいたい」という意味と(決定疑問文で相手のNeinの返答を予想して)「もしかして」(=vielleichtよりも低い確度)という意味を表す
[例] Wann etwa kommen Sie morgen hierher?
(明日はだいたいいつごろここに来るのですか?)
Wissen Sie etwa, ob er heute in die Uni kommt?
(彼が今日大学に来るか,もしかして知っていますか?) - ja: 自分が直接見たり聞いたりしたものや聞き手にとって新しい情報ではなく,誰かからの伝聞情報であったり,聞き手がすでに知っている場合に「あなたがご存じのように」というニュアンスを表す
[例] Das sind Hausaufgaben. Sie können ja selber oder mit dem Wörterbuch.
(宿題です。[知っての通り]自分の力だけでやっても,辞書を使ってやってもいいです。) - immerhin: 最善でもないが最悪でもなく,「まあいいんじゃないの」「少なくとも」というニュアンスを表す
[例] Heute kommen nur 10 Studenten in der AG, obwohl 20 angemeldet! Naja, immerhin!
(20人の学生が来ると言っていたのに,今日はゼミ(Arbeitsgemeinschaft)には10人しか来ていない! うーむ,まあいいんじゃない!) - langsam: 「次第に」という意味を表す(形容詞・副詞としては「ゆっくり」)
[例] Wir kommen jetzt langsam zum Schluss.
(そろそろ終わりにしましょう) - ruhig: 「どうぞ(心配なく・安心して)」という意味を表す(形容詞・副詞としては「静かな」)
[例] Nehmen Sie das Heft ruhig mit!
(このパンフレットをどうぞ持っていって下さい) - schließlich: 決め手になる理由を示し,「結局のところ」という意味を表す
[例] Ich werde die Küche nicht putzen, schließlich habe ich die nie benutzt.
(台所は結局のところ全く使っていないから,私は掃除しないよ) - schon: 「すでに」という意味と「確かに・一応はそうだが」という意味を表す(「確かに」の意味でzwarを使うのは,後ろにaberがある場合に限られる)
[例] Music hören mag ich schon, aber nicht dieser einfach lauter Ton!
(音楽を聴くのは確かに好きだが,こんな単なるうるさいだけの音は嫌いだ) - sowieso: 「そのこととは関係なく」という意味を表す(deshalbの反対,「それにもかかわらず」はtrotzdem,条件の成就にかかわらず「いずれにせよ」はjedenfalls)
[例] Es wird morgen regnen, aber ich gehe sowieso nach Freiburg.
(明日は雨みたいだが,私は天候にかかわらずフライブルクに行く) - tatsächlich: (自分はそう思っていなかったのに)「実は・本当は・やっぱり」という驚きのニュアンスを表す(wirklichは本当に事実であるという意味を表し,自分はそう思っていなかったというニュアンスを持たない)
[例] Heute morgen hatten wir tatsächlich die Klausur!
(今朝実はその科目の筆記試験があったんだよ) - überhaupt: 「概して・一般に」という意味と(疑問文で)「そもそも」(=前提を問う)という意味を表す(übrigensは「そういえば」(=付加的な話題に一時的に転じる),疑問文でのeigentlichは「ところで」(=新しい話題に入る)という意味を表す)
[例] Was ist überhaupt Ihr Forschungsthema?
(そもそもあなたの研究テーマは何ですか?) - wohl: 「きっと・おそらく」という意味(「きっと」という意味ではsehr wohlを使うこともある)と,(補足疑問文等で,相手が答えを知らないことを予測して)「まさか...ではないですよね」という意味を表す
[例] Er kommt noch nicht! Er wird wohl den Bus verpasst haben.
(彼がまだ来ていない! 彼はきっとバスに乗り遅れたのだろう)
Ob Herr Michel wohl weiß, dass wir hier sind?
(ミヒェルさんは私たちがここにいるなんてまさか知らないよね?)
話法の不変化詞と形容詞・副詞の2つの意味を持つ単語の場合,文アクセント(Satzakzent)がその語にあれば副詞,置かれなければ話法の不変化詞(直後の名詞に置かれれば形容詞)の意味になります。文アクセントの有無によって意味が変わる単語は,話し言葉ではしばしば使われますが,文アクセントを表示できない書き言葉では使用されない傾向にあります。例えばallerdingsは,文アクセントがあれば「確かに」,なければ「尤も」という意味になりますが,書き言葉においては文アクセントを表示できないので,書き言葉で出てきたときはもっぱら「尤も」の意味で使われます。