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第13回 国道43号訴訟

判例報告の4回目はDグループによる国道43号訴訟の報告が行われました。レジュメに写真が入っており,状況をイメージしやすかったです。

報告と議論で論点となったのは,受忍限度論の考え方と供用関連瑕疵の考え方です。いずれも直前の行政法IIで取り扱われた内容ではありましたが,具体的な事件を詳しく検討することで,教科書に書かれている内容をより実感を持って理解することができるようになるのではないかと思います。

第12回 伊方原発訴訟

判例報告の3回目はCグループによる伊方原発訴訟の報告でした。全階のテーマ報告に引き続き力の入った報告で,伊方原発訴訟に関する論点をほぼ網羅し,それぞれについて緻密な検討がなされていました。

質疑の中では,裁判所による行政判断の審査のあり方,原子力委員会の審査の手続の適切性が主として議論されました。

第11回 国立マンション訴訟

判例報告の2回目は,Bグループによる国立マンション訴訟でした。事前レジュメ以降は神戸大学の角松先生もメーリングリストで議論に加わられ,論点や立場が明確な報告となりました。

報告者の報告は同事件に関する公法系の研究者の評釈に依拠していたため,景観と財産権規制に関する民事法と行政法の違いの部分が強調される方向でした。これに対しては質疑の中で,絶対的所有権観とはどういう意味か,互換的利害関係論が民事法に適用できないのは何故かといった点が議論されました。

第10回 紀伊長島町水道水源条例事件

2巡目の報告は,各テーマに関連する重要な判例の検討です。その初回となった今回はAグループによる紀伊長島町水道水源条例事件の報告が行われました。

報告では,事業者に対する配慮義務がなぜ出てきたのかが中心に取り扱われました。ただ,判決文から離れた議論が目立ったので,次回以降の報告グループはもっと判決文を丁寧に読む方が良いと思いました。議論の中では今回の条例が「後出し」なのか「ねらい撃ち」なのか,対応する先例は何なのかなどが特に取り上げられました。

第9回 生物多様性保護と自然公園法制

記念すべき最後のテーマ報告は,小磯君・安井君・丹下君・加藤君のグループによる自然保護法制の報告でした。

問題設定は「曽根干潟を守るにはどうすればよいか」でしたが,これに対する方策として説明されたのが環境アセスメントと生態系保護,自然公園法制,市民訴訟・団体訴訟でした。いずれも詳細にわたって調査がなされており興味深い内容でした。

議論の中では,アセスメントの改善可能性や市民訴訟・団体訴訟の制度化に必要な基礎理論の理解に議論が集中していました。

第8回 環境メディア法制と公害紛争

今回は,木下君・前原君・イモQ君・福地君のグループでの環境メディア法と公害紛争に関する報告がありました。

報告ではまず日本の大気汚染防止などの公害対策のあり方が説明され,次に中国からの黄砂や汚染物質の九州地域への飛来とその問題点が説明されました。その上で,国内法と国際法の観点から中国の公害問題を解決する方向性を検討するという内容でした。

質疑の中では,国際的な環境保護のしくみ(京都議定書・ヨーロッパにおける大気汚染防止の枠組など)や日本で発展した環境技術の中国への移転の可能性などが議論されました。

第7回 エネルギー法制と地球温暖化問題

今回は,秋吉さん,甲斐さん,礒部さん,田代さんにより,エネルギー法制についての報告をしていただきました。

報告は,まず始めに日本におけるエネルギー法制を見たのちに,その中で特に原子力発電について関連法制度から現行法上の問題を指摘し,最後に,原子力発電所を維持する場合と廃止する場合のそれぞれの問題点について,住民参加や再生可能エネルギーの活用などによって解決をはかるべきとの主張がなされました。

議論では,原子力発電所の設置許可は行政法学上の許可か特許かといった問題や,住民投票に拘束力を持たせることについての憲法などからの問題点の有無などが話し合われました。また原子力発電所の立地選定において,日本では文献調査への応募さえ1件しかない点をあげ,フランスやドイツではなぜ原子力発電所の立地選定がうまくいったのかが検討されました(上山)。

第6回 景観法制と建築紛争

今回は,棚町くん,上野畑くん,上山さん,栄留くん,李さんのグループより,景観法制の報告をしていただきました。

内容としては,都市景観に関する法制の歴史的経緯を見たのち,景観法のしくみ(景観計画,景観地区)を説明し,最後にヨコ(私人間)の意見調整をする場として,公聴会,ワークショップなど設けるために法律レベルのルール策定をするべきという主張がありました。

議論としては,合意形成の手段として,公聴会などが本当に有効なのかどうかが話し合われました。公聴会以外にも,土地区画整備事業における組合方式など,ほかの手法に何かならうことはできないのかといった意見が出ました。また,景観計画と景観地区ではそもそも対象にしている場所の広さ,それに影響を受ける私人の数などに差があるため,それぞれに適した意見調整のやり方があるという点も指摘がされました。

景観法,都市計画法など,参照すべき法制度が多い分野でしたが,しっかりと調べられていたと思います。次回以降も,これ以上を目標に頑張っていきましょう(安井)。

第5回 循環管理法制と廃棄物処理問題

本日からグループ報告になります。授業等で大変だとは思いますが,報告のほうも頑張っていきましょう!
記念すべきグループ報告第1回目は,中山くん,阿部さん,鵜篭くん,小木野くんによる廃棄物処理に関する報告でした。

思い返してみれば,われわれも普段生活する中で,多くの廃棄物を出しています。1枚あたり30円(30リットル)の福岡市のゴミ袋は,一人暮らしの私の家でも減るのがなかなか早いものです。ご実家にお住まいの方はなおさらではないでしょうか。

報告の内容は,そんな家庭で出る廃棄物(一般廃棄物)ではなく,工場などで出る産業廃棄物に関するものでした。排出業者に関する問題,処理業者に関する問題に対応するためにマニュフェスト制度や許可制の採用などが廃掃法関連の法制度の整備で行われ,しかし住民参加の制度が不十分であるために本来優良な処理業者等にも住民の反対が集まるという分析から,住民参加の充実を主張していました。

それに対する議論としては,住民参加の方式として公聴会を提案していたことに対し,私のいたグループでは,ほかの制度を選択する余地はないかなどが話し合われました。

初回のグループ報告としては,すばらしいものをしていただいたと思います。このままハードルがあがっていくかと思うと,最後に報告するグループの一員としてはまさに戦々恐々ですが,この報告に負けないように頑張ります。ほかのグループの方も,今回の報告に負けないようなすばらしいものを期待します。なお,原島さんからもご指摘ありましたが,次回からはお互いに,もうひとつのグループに対する「適正配慮」をして,白熱した議論ながらも声は控えめでお願いします(もちろん私も気をつけます)(安井)。

第4回 環境法と環境政策の基礎

今回から環境法の具体的な内容に入りました。今回は事前に配られた予習課題に従って,環境法の重要な内容と報告テーマの前提となる事項の説明が行われました。とくに最初のグループは準備時間が限られてしまっていますが,今日の内容も踏まえて魅力的な報告を準備して欲しいと思います。

第3回 行政法Iの復習(2)

前回に引き続き今回も行政法Iの復習の報告がありました。報告者と報告テーマは以下の通りでした。

・インカメラ審理(加藤)
・行政調査(福地・イモQ)
・明白性補充要件説(丹下)
・裁判所による行政裁量の審査(小木野)
・代替的作為義務(田代)

いずれも行政法総論の中で理解が難しい問題ですが,この機会に理解を深めて下さい。

第2回 行政法Iの復習(1)

今週は,「行政法Ⅰの復習」ということで,3年生からそれぞれのテーマに関する報告をしていただきました。

報告の内容は,以下の通りです。
・阿部さん:行政裁量
・礒部さん:法律と条例の関係
・上野畑くん:行政行為と行政契約
・上山さん:契約正義論
・鵜篭くん:権限禁止濫用原則
・栄留くん:行政指導

阿部さんの行政裁量については,行政の活動を覊束行為と裁量行為にわけ,さらに後者を覊束裁量(法規裁量)と便宜裁量(自由裁量)にわけるという学問上のゼロサム的な分類は裁判上とられておらず,実際は行政の裁量の度合いの問題,つまり審査の幅の問題として表れていると見る方がよいのではないかということが話にのぼりました。

磯部さんの法律と条例の関係については,条例とひと口にいっても①法律の委任に基づく委任条例,②とくに法律の委任なく制定される自主条例があり,とくに①の委任条例が問題となるテーマです。従来の法律先占論の相対化が公害問題に端を発するなど,環境法ともかかわりの深いテーマですので,難しいながらしっかりと押さえたい論点です。

上野畑くんの行政行為と行政契約の区別については,①法律根拠の要否②規律力の有無③公定力の有無で区別するとあります。行政行為で行うのか,行政契約で行うのかについては,実務上のメリット・デメリットがあり(土地収用の例などは典型です),レジュメで述べられているように選択的関係となりやすく,論点としては重要なものだと思います。

上山さんの契約正義論の報告については,恥ずかしながら私は初耳のもので大変新鮮でした。契約正義論は,行政法規違反の契約の効力を私法上も無効とする余地を広げようとするもので,消費者保護などの場面で活躍しそうな論理ではありますが,行きすぎると私的自治の原則に抵触するなどの問題点には注意が必要そうです。

鵜篭くんの権利濫用原則については,比例原則との対比として,比例原則が量的規制なのに対し,権利濫用原則が質的規制ではないかという結論が提示されました。権利濫用原則は,とある目的のための法制度を異なる目的のために流用するという場面で特に問題となるので,確かに質的な規制といえる部分は多分にあるように思われます。目的の流用という側面から考えると,法律の目的規定違反による違法判断(つまり,単純な法解釈)でカタがつくということも考えられるという点も先生からご説明いただきました。

栄留くんの行政指導については,私のいたグループでは,石油カルテル事件との関連から,行政指導の適法性と違法性阻却事由との関係性の方に話がいきました。行政指導は,柔軟性のある行政の活動でありメリットも当然あるわけですが,このカルテル事件のような不透明性があるということは留意しておきたいものです。

以上6名の報告がありましたが,どの報告も水準が高く,良い報告だったのではないでしょうか。次回も同様に,3年生による行政法Ⅰの復習の報告があります。4年生も行政法Ⅰについては記憶があいまいな部分が多い(私だけ?)と思われますので,一緒に復習ができたらと思います(安井)。

第1回 オリエンテーション

記念すべき第1回は,ほかの講義・ゼミとおそらく同様に,オリエンテーションを行いました。
昨年から大幅に顔ぶれも変わった(思わず教室を間違えていないか確かめに行ったほどです)ので,気分も新たに頑張っていきたいと思います。

今回は,報告担当及びゼミ役員を決めました。ゼミの役員の方も,(幸運にも?)役員とはならなかった方も,ゼミの一員として,報告を頑張っていきましょう。私としては,はからずも昨年サボってしまった広報委員のおつとめを,今年こそはしっかり行っていきたい所存です。

また,モデル発表として「比例原則」について,私から報告をさせていただきました。内容としては,主に,比例原則と裁量統制の関係性が議論となりました。
①行政に裁量権がない場合は司法の判断が優先される(実体的判断代置)ため,「比例原則違反イコール違法」の判断ができる一方で,
②行政に裁量権が認められる場合は基本的に行政の判断を尊重し,どうしても認めることのできないほど程度のひどいものにかんして裁量権の逸脱・濫用という形での統制を行うため,比例原則違反の程度が問題となります。
また,行政に裁量がないということは,法律にしっかりと要件・効果が書いてある(ただし立法裁量はある)ということなので,法律による行政の原理の問題となり,比例原則の問題としてとらえにくいという点も先生からご説明いただきました。

さて,第1回のゼミは欠席者も出ず,とりあえずは幸先の良いスタートを切れたのではないかと思います。さしあたってはゼミの仲間の顔と名前を覚えることを目標に頑張っていきましょう。次回は,3年生による行政法Ⅰの復習に関する報告があります。良い報告を期待しています。

それでは,今年も1年よろしくお願いします(安井)。

第28回 ゼミ論文発表会

提出されたゼミ論文の要旨は以下の通りです。

○大相撲問題(内田)

2008年に始まった新公益法人制度に伴い,既存の法人と同じく日本相撲協会も2013年までに新たな公益法人制度に移行する必要が生じた。しかし,野球賭博問題をはじめとした多くの問題を抱える相撲協会は,公益性が認められず新たな公益法人を設立できなくなるおそれがある。長い歴史を持ち,日本の国技たる相撲を効果的に維持発展していくためには,新たな公益法人に移行するこ とが望まれる。本論文では,協会が抱える様々な問題の原因となった相撲界の諸制度を分析し,新たな公益法人へ移行する妥当性を検討し,公益認定のために協会が改善すべき主なポイントについて考察を加えている。第1,2章では相撲協会の仕組み,諸制度の概要およびその問題点について論じ,年寄株の高騰や部屋制度,維持員制度などの相撲界特有の制度が,暴力団が相撲界に関与する原因であると結論付けている。第3,4章では現行の公益法人制度と新しい公益法人制度を概観し,新しい公益法人に移行することによるメリット,逆に一般社団法人・財団法人に移行することによるデメリットについて論じ,協会が新しい公益法人へ移行する必要性を述べている。第5章ではそれまでの検討を踏まえて,協会が公益認定を受ける際の主要な点について検討している。そして,本場所事業費などの事業費が「公益目的事業」として認められること,そのためには行政庁の裁量の観点から暴力団との関係根絶が必要であると結論付けている。

○地域主権改革と地方財政(前原)

地域主権改革によって2000年に地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(以下,地方分権一括法という。)が制定され事務の配分において劇的な改革がなされた。しかしながらこれを担保する財源の移譲は非常に限定的なものにとどまっている。「一括交付金」はこれを改善するために掲げられたものであるが,これについても不十分である。現在の地方財政において地方交付税の占める役割というのは非常に大きい。交付税額が増加傾向にあるとともに,地方財政の依存傾向も強まってきている。交付税額の決定は基準財政需要額と基準財政収入額の差額である。この算定基準が地方財政を拘束し,地域主権と逆行する結果となっているというのが批判の的になっている。 地域主権の実現のためには権限と財源の移譲がセットで行われることが必要である。自分たちが行うことについては自己の財源でまかなうことが最適な在り方である。しかしながら,実際にこのようにすれば徴税力の地域間格差非常に大きい日本において頓挫する地方公共団体も現れてくる。そこでこのギャップを修正することが地方交付税である。ここでは国の裁量が及ばないようにする必要がある。そこで,交付税額が機械的に確定できるような算定基準を導入すべきである。財源保障の観点と財源調整の観点を両方含んだ算定基準である。この財源的裏付けにより本当の意味での地域主権が出来上がっていくのである。

○虐待する親へのケア・支援(久保田)

平成21年度,児童相談所における児童虐待の対応件数は,44,210件にも上った。多くの子どもたちが,児童相談所によって保護され,親と離れて生活している。この子どもたちを再び親元に帰すことを,家族再統合という。 家族再統合の実現には,親へのケア・支援が欠かせない。虐待をする親は,親自身の虐待体験,周囲からの孤立,子育て不安といった様々な悩みを抱えており,これらを解決しなければ,子どもを家庭に帰しても,虐待が再発するおそれがあるからである。 しかし,多くの親が,虐待の事実を認めず,ケア・支援を拒否してしまう。ケア・支援を実施するにしても,その技術が確立されていない,児童相談所の慢性的な人手不足でケア・支援まで手が回らないといった問題がある。そのため,家族再統合をあきらめなければならないケースが多い。 この現状を変えるためには,①家庭裁判所が親にケア・支援を受けるよう命令できるようにすること,②ケア・支援モデルを作成すること,③児童相談所職員の増員とその専門性を確保し,さらには,関係機関との連携を強めることによって虐待対応全体を改善していく必要があるだろう。

○「悪魔ちゃん」事件と名づけ(安井)

昨今の親の価値観の多様化に伴い,子の名の多様化が見られる。その中で,一時社会の耳目を大いに集めた「悪魔ちゃん」事件(東京家裁八王子支審平成6年1月30日)のように,子がその名によって人格を害されるおそれも出てきた。本稿は,そのような社会情勢のもとで,どのような命名の制限が望ましいかについて論じるものである。 現行の戸籍法は,子の名には常用平易な文字を用いることとしている(戸籍法50条1項,同法施行規則60条)。活字等の公的福祉に着目したもので,ほかの観点からの制限は,現行法上採られていない。しかし,「悪魔ちゃん」事件をみていると,現行法の制限に加え,子の福祉の防衛という観点の制限も必要であると思われる。 命名の制限には,①意味の制限,②文字の制限,③読みの制限があるが,①と②の制限を行うことが妥当である。それにより,子の福祉を担保し,かつ公共の福祉に適合することができる。その具体的方法として,行政が,子又は公の福祉に反する名の受理を拒否できる根拠となる一般条項を定め,また,現行法の文字制限の枠組みを維持した制度が望ましい。 現行法より厳しい制限を課す制度であるので,当事者救済として,家事審判による不服申立て制度(戸籍法121条)や,国家賠償制度をより活用する必要がある。また,子が戸籍のない状態を作らないために,出生届を「名未定」として受理する取扱いが,名について問題のある出生届についてはされるべきである。

○年金支給開始年齢と定年年齢を接続させるために(木村)

日本では急速な高齢化に伴い,年金制度改革が行われ,年金支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられることとなった。そこで,高齢者雇用政策に変化が迫られることなり,平成16年「高年齢者等の雇用の安定に関する法律」(以下,高年法という。)が改正され,65歳までの雇用の確保が事業主に義務付けられることとなった。高年法の影響は大きなものがあり,定年制を設けない事業所が2割強,雇用確保措置をとる事業所が9割を占めるに至ったのである。しかしながら,高年法は雇用確保措置の導入はもたらしたが,60歳以降継続して雇用を行う者の選定基準を設けることを許容しており,実態として,希望者全員の雇用がなされているわけではないのである。 この状況の解決策として本稿では,高年法9条2項に雇用確保措置を行わない場合には法違反を行ったことに伴う制裁的効果として,定年制の定めのないものとみなすか65歳定年を実施したものとみなす私法的効果を有する規定を設けること,また,継続雇用の選定基準設定にあたっても65歳までの雇用確保という高年法の基本目標,理念・目的,高年法9条1項にいう希望者全員雇用の原則を踏まえるならば,基準対象者の選抜は整理解雇に準ずるものとして整理解雇が有効とされる4要件を踏まえて手続的規制を明確にすることを提案する。

○非正規雇用者と住宅のセーフティーネット(とろろ)

本稿は,現在日本増加している非正規被用者について,住宅のセーフティネットとしてどのような施策が必要かを検討するものである。 非正規被用者は,正社員と比べて相対的に賃金が低いために住居の確保が難しく,また不安定な雇用形態から,職を失うことが住居の喪失に直結しやすい。日本では,2008年末の「年越し派遣村」が注目を集めるまで,住居に焦点をあてたセーフティネットは構築されてこなかった。その背景として,日本の住宅政策や企業福祉が,正規被用者を中心に据えていたことが挙げられる。住宅政策は,中間層の持家取得を促すことに重点をおいて行われたため,低所得者向けの公営住宅や民間の賃貸住宅に関する施策が手薄であった。また,正規被用者と非正規被用者,大企業と中小企業で大きな差があった。すなわち,非正規被用者は,賃金が安いことに加えて,住宅政策や企業福祉の恩恵を十分に受けられないことから,正規被用者に比べて住居の確保が難しくなっているのである。 「派遣村」以降,従来セーフティネットとして考えられてきた雇用保険と生活保護の間を埋める「第二のセーフティネット」と呼ばれる各種補助制度が創設された。しかしながら,これら第二のセーフティネットは,失業,離職していることがその主要な要件である。そのため,不安定な非正規被用者として働いている人に直接には機能しない。非正規被用者が,生活保護に陥る前に使える制度が必要である。その対策として,筆者は,①民間賃貸住宅の買い上げによる公営住宅数の増加・公営住宅の入居条件を緩和させること②就労しているか否かを問わない家賃補助の創設が必要だと考える。

○地上デジタル化問題(権藤)

日本では2011年7月24日に地上デジタル放送が完全実施され,アナログ放送が一斉に終了する。その目標として「電波の有効活用」をして周波数を空けるということがあるという。他にはゴースト(二重映り)がなくなること等がメリットとして挙げられている。地上デジタル放送視聴のためにはテレビやチューナー購入など国民は負担を負うが,このことに対しては不満の声も上がっている。総務省は低所得者層等を主な対象とした支援を行っており,独自の取り組みを行っている自治体もある。この地上デジタル 放送完全移行の経緯を見ると,法律としては2001年に施行された電波法改正法が挙げられるものの,その条文には「地上デジタル放送化」や「アナログ放送終了」という言葉はなく,直接的には周波数割当計画によってアナログ放送終了が決められたのだと言える。手続きという面からこの地上デジタル放送完全移行について考察すると,法律の留保原 則に従っているのかどうかが問題となる。重要事項留保説の立場をとるとこれは「アナログ放送の終了」が国民に大きな負担を強いることにより重要事項であるから,法律の留保原則に抵触していることになる。また同時に内容の面から考察すると,周波数割当計画の変更公示から10年というアナログ放送の終了期日の設定は,テレビの性質等やデジタル放送が開始された時期を考慮すると短いように思われる。国は更なる支援を行う等して国民の負担を減らすか,法律を改正してアナログ放送終了の期日を延長すべきである。

○福岡市とオリンピック招致(林田)

本稿では,オリンピック のもつコンセプトに着目した。時代により推移してきたオリンピックのコンセプトのから,福岡オリンピックの意義について考えたい。第1章では,これまでのオリンピックの変遷をそのコンセプトから見ていき,そして今回の福岡案について紹介する。福岡案では福岡の中心から近い場所にメイン会場を設けるとしたが,その対象となったのが須崎であった。須崎埠頭の再開発が進まなければ福岡案の成立は難しい。第2章では,その福岡案の正否の鍵となる須崎埠頭の問題について個別に考える。第3章では私見として,各オリンピックのコンセプトに照らした福岡オリンピックについて論じる。また,21世紀型のオリンピックの開催というコンセプトを表した福岡案が20世紀型のオリンピックから抜け出せられたのかをみていく。

第27回 ゼミ論文経過報告10

通常のゼミの形式では今回が最後となりました。

・「『悪魔ちゃん』命名事件と名づけ」(安井)では,一般条項を設けて子の福祉を害する場合には届出を拒否できるという私案が示されました。最終的な訴訟の局面をより深く検討することが今後の課題となります。

・「地上デジタル放送移行に伴う問題の考察」(権藤)では,地デジの決定過程と負担の問題を中心に議論を整理していく方向性が提示されました。まだ調べ切れていない部分があるので,時間との戦いになりそうです。

第26回 ゼミ論文経過報告9

新年初回のゼミとなった今回もオープンゼミでした。

・「大相撲改革」(内田)では,新しい公益法人制度に相撲協会が移行する際の問題となりそうな論点が取り扱われました。条文上の要件との対応関係をもう少し詰めるべきだとの意見が出されました。

・「年金型生命保険二重課税問題」(福嶋)では,還付手続の問題が主として議論されました。国家賠償の利用可能性や,源泉徴収の法関係の解明が今後の課題となります。

第25回 ゼミ論文経過報告8

今週はオープンゼミで,多くの見学者を迎えて報告者は緊張していたようです。

・「地域主権確立のための地方交付税改革」(前原)では,前回までとは違って地方交付税の改革の議論が中心でした。地方交付税制度の問題点を把握する際に,それが制度の問題なのか運用の問題なのかを区別して議論した方がよいとのアドバイスがなされました。

・「オリンピックと福岡市の再開発」(林田)では,前回までの方向性と転換して,オリンピック招致の際に議論されていた福岡市の再開発問題が中心になりました。都市計画や市街地再開発に関する法的しくみの分析が不十分であることが問題点として指摘されました。

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