笠木映里 東京大学教授

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ゼミ生から見た笠木先生

笠木先生は華奢で儚げな外見をしたスーパーウーマンです。まさに「才色兼備」という言葉がぴったりとあてはまる先生です。大濠公園でのランニングも趣味とされているそうです。学問に秀で,美しく,運動もできて,欠点はどこにあるのかといつも尊敬のまなざしです(笑)。

  • 丁寧な指導
    社会保障法は複雑なため,私たち学生が勉強する際には,どこから手をつければいいのか,またどのような資料が必要なのか混乱してしまいます。笠木先生はそんな私たちの救世主とも言える存在です。先生の非常に的確なアドバイスと指摘は,ゼミ論に取り組む学生の背中を優しく押し,モチベーションを高めてくれます。
  • 学問に対する情熱
    笠木先生は学生以上に勉強が大好きで,学問に対して誠実な方だと思います。在学中に司法試験に合格したにもかかわらず研究の道を志されていて,自分のやりたいことをしっかりと見つめそれに向かって歩みを進めている姿勢がすごいなと思います。学生としてとても刺激を受けるし,あこがれます。
  • 印象に残る授業
    私たち(17期卒業生)が大学に入って一番初めに受けたのがLPセミナーでの笠木先生の講義だったので,それがとても印象に残っています。当時は難しくて内容まではよくわかりませんでしたが,私たちに新しい世界の扉を開いてくれたのが笠木先生だったのではと思います。
  • 音楽好き
    音楽がお好きなようで,J-POPでもクラシックでも何でもとても詳しいです。特にMr.Chirdrenがお好きなようです。

(ばんちょ,17期ゼミ生)

笠木先生の研究業績

笠木映里先生は2003年に東京大学法学部をご卒業後,同大学大学院法学政治学研究科の助手に着任されました(指導教官は岩村正彦教授)。3年間の助手任期満了後,2006年4月からは九州大学に助教授として着任され,2008年から2年間はパリ・第十大学で在外研究に従事されていました。

笠木先生の研究分野は社会保障法の中でも特に医療保険です。助手論文の「公的医療保険の給付範囲」(法学協会雑誌への連載後,2008年には著書として公刊)では,医療保険の給付範囲という切り口から,医療保険の法制度分析を行っています。医療保険を分析する上では,社会保険という技術に特有の法的問題(保険者自治・被保険者の範囲・保険料の徴収・保険給付など)に加え,医療サービスという現物が被保険者に最終的に提供されるための法的なしくみにも焦点を当てる必要があります。同論文では,日本の問題状況の分析から出発し,現物給付の制度を採用するドイツ法と,現金給付(償還払)のしくみをとるフランス法との比較法分析がなされています。この比較法分析を横軸とすれば,縦軸として選択されているのは給付決定のタイミングという視点です。給付の事前と事後で給付内容の形成や具体化の方法には違いが見られます。このマトリクスのもとで各国の法制度が精緻に検討され,医療保険の本質に迫る非常に興味深い分析がなされています。

助手論文の公刊と前後して,笠木先生のご研究は次の2つの方向へと展開しておられます。1つは,地方自治と社会保険との関係です。日本の医療保険は従来,健康保険組合・政府管掌健康保険・国民健康保険組合・市町村による国民健康保険によって担われてきました。それが近時の改正により,都道府県単位での保険財政のバランス確保(給付費のコントロール)の傾向を示しています(医療計画・全国健康保険協会・長寿医療の広域連合など)。そのため,保険者自治の議論をする場合には地方自治や地方分権の要素を無視できなくなってきており,この両者の関係をいかに整理すべきかが課題となっています。もう1つは社会保険と私保険との関係です。日本でも企業年金の分野で社会保険と私保険の中間的な色彩の制度が見られます。ドイツやフランスでは医療保険における私保険の役割が大きく,これに対する法的規制も見られます。両者の特性を比較する中で,社会保険の本質を明らかにする手がかりが得られることが期待されます。

笠木先生のご研究の魅力は,幅広い視野と法制度の緻密な分析力にあります。社会保障法の中でも医療保険は問題状況の複雑さで群を抜いていますが,今後ともそのユニークな視点で,刺激的なご業績を次々と発表されることと思います。

著作物の紹介

笠木先生がこれまでお書きになった著作を以下に掲載します。笠木先生の研究に興味をお持ちの方は,是非一度手にとってみてください。

著書

  • 笠木映里『社会保障と私保険』(有斐閣・2012年)
  • 笠木映里『公的医療保険の給付範囲』(有斐閣・2008年)

論文

  • 笠木映里「関連諸法との関係からみる生活保護法」季刊社会保障研究50巻4号(2015年)378-388頁
  • Eri Kasagi, Insertion par le travail et aide au Japon - Une comparaison avec la France, Revue de droit sanitaire et social, 2015 n.1, 93-107.
  • 笠木映里「フランスの医療保険財政:最近の動向」健保連海外医療保障103号(2014年)12-19頁
  • 笠木映里「医療制度・医療保険制度改革――高齢者医療・国民健康保険を中心に」論究ジュリスト11号(2014年)10-15頁
  • Eri Kasagi, Family Formation and the Social Law, Japan Labor Review 11-3, 2014, 86-103.
  • 笠木映里「社会保障法と行政基準」社会保障法研究3号(2014年)3-25頁
  • Eri Kasagi, in: Gebauer et al. Eds., Alternde Gesellschaften im Recht, 2014, 125-134.
  • 笠木映里「社会保障における「個人」・「個人の選択」の位置づけ」岩波講座現代法の動態3『社会変化と法』(岩波書店・2014年)187-209頁
  • Eri Kasagi, in: L. Lerouge Ed., Risques psychosociaux en droit social. Approche juridique comparee, 2014, 254-265.
  • 笠木映里「家族形成と法」日本労働研究雑誌638号(2013年)53-65頁
  • 笠木映里「労働保障と健康保険と『過労死・過労自殺』」福祉+α 5号(2013年)117-132頁
  • 笠木映里「『福祉的』性格を有する労働」法政研究(九州大学)80巻4号(2014年)143-169頁
  • 笠木映里他『目で見る社会保障法[第4版]』(有斐閣・2013年)23-44頁
  • 笠木映里執筆:野川忍編『レッスン労働法』(有斐閣・2013年)134-184頁
  • 笠木映里「フランスの民間医療保険」フィナンシャル・レビュー111号(2012年)90-134頁
  • 笠木映里 「医療・年金の運営方式―社会保険方式と税方式」『新・講座社会保障法 第1巻』(法律文化社・2012年)11-30頁
  • 笠木映里「日本の医療保険制度における「混合診療禁止原則」の機能 」新世代法政策学研究(北海道大学)19号(2013年)221-238頁
  • 笠木映里「混合診療問題──平成23年最高裁判決を契機として」法学セミナー57巻4号(2012年)44-48頁
  • 笠木映里「現代の労働者と社会保障制度」日本労働研究雑誌53巻7号(2011年)40-50頁
  • 笠木映里「フランスの雇用政策」季刊労働法232号(2011年)43-53頁
  • 笠木映里「フランスの補足的医療保険(2)」法政研究(九州大学)78巻1号(2011年)1-47頁
  • 笠木映里「社会保障法──学習の手引きとして」法学セミナー56巻4号(2011年)48-52頁
  • 笠木映里「フランスの補足的医療保険(1)」法政研究(九州大学)77巻4号(2011年)663-718頁
  • 笠木映里「医療保険給付」河野正輝他編『社会保険改革の法理と将来像』(法律文化社・2010年)82-89頁
  • 笠木映里「地方分権と社会保障政策の今後」ジュリスト1361号(2008年)138-145頁
  • 笠木映里「フランスの医療制度」クォータリー生活福祉研究17巻1号(2008年)4-19頁
  • 笠木映里「医療制度(特集 フランス社会保障制度の現状と課題)」海外社会保障研究161号(2007年)15-25頁
  • 笠木映里「公的医療保険の給付範囲(6・完)」法学協会雑誌(東京大学)124巻6号(2007年)1309-1403頁
  • 笠木映里「公的医療保険の給付範囲(5)」法学協会雑誌(東京大学)124巻5号(2007年)1046-1141頁
  • 笠木映里「公的医療保険の給付範囲(4)」法学協会雑誌(東京大学)124巻4号(2007年)899-992頁
  • 笠木映里「公的医療保険の給付範囲(3)」法学協会雑誌(東京大学)124巻2号(2007年)490-589頁
  • 笠木映里「公的医療保険の給付範囲(2)」法学協会雑誌(東京大学)124巻1号(2007年)62-166頁
  • 笠木映里「医療・介護・障害者福祉と地方公共団体」ジュリスト1327号(2007年)24-31頁
  • 笠木映里「公的医療保険の給付範囲(1)」法学協会雑誌(東京大学)123巻12号(2006年)2455-2542頁

判例評釈

  • 笠木映里「兼業労働者の過労自殺に係る労災保険給付の給付基礎日額」ジュリスト1455号(2013年)124-126頁
  • 笠木映里「判批(労災保険不支給決定取消訴訟と審理範囲の制限)」宇賀克也=交告尚史=山本隆司編『行政判例百選Ⅱ[第6版]』(有斐閣・2012年)408-409頁
  • 笠木映里「判批(障害を持つ労働者に関する業務の過重性判断 : 国・豊橋労基署長(マツヤデンキ)事件[名古屋高裁平成22.4.16判決])」ジュリスト1442号(2012年)109-112頁
  • 笠木映里「判批(療養費支給の対象)」西村健一郎編『社会保障判例百選(第4版)』(有斐閣・2008年)62-63頁
  • 笠木映里「判批(混合診療)」西村健一郎編『社会保障判例百選(第4版)』(有斐閣・2008年)64-65頁
  • 笠木映里「判批(確定給付企業年金法に基づく規約型企業年金の規約変更)」やまぐちの労働2008年5月号(2008年)8頁
  • 笠木映里「判批(横浜市市立保育所廃止事件第一審判決)」ジュリスト1341号(2007年)188-191頁
  • 笠木映里「判批(障害を有する児童の保育園入園に対する行政庁の承諾の義務付け)」やまぐちの労働496号(2007年)6頁
  • 笠木映里「判批(中嶋学資保険訴訟最高裁判決)」ジュリスト1290号(2005年)139-143頁
  • 笠木映里「判批(B型肝炎ウイルス感染検査事件)」ジュリスト1278号(2004年)147-151頁
  • 笠木映里「判批(福祉施設退所後,私企業に就職した知的障害者に対する行政の関与)」自治研究80巻10号(2004年)126-140頁
  • 笠木映里「判批(関西医科大学研究医事件)」ジュリスト1273号(2004年)194-197頁
  • 笠木映里「判批(田園じんクリニック事件)」ジュリスト1255号(2003年)152-155頁

解説・概説

  • 笠木映里「社会保障法による医療の保障」南野森編『ブリッジブック法学入門』(信山社・2009年)197-212頁

(原田大樹)

    

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