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このページでは,主として九州大学法学部1・2年生を対象として,法学部における行政法科目(講義・演習)の概要について説明します。
「行政法」とは何か
行政法は国・自治体の行政機関が行っている活動を規定している法令群の総称で,「行政法」という名前の法律は存在しません。また六法(憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法)の中には行政法は入っていません。しかし六法科目でないことから行政法は重要ではないと考えるのは早計です。六法科目は確かにこれまでの司法試験を受けたり法曹を目指す場合には重要で,逆にこれに含まれていない行政法を勉強することはある意味で時間の無駄であるかもしれません。しかし,行政法は次のような目的を達成するには必ず勉強しなければならない科目です。
- 将来,行政機関をはじめ公的なセクターで活躍しようと考える場合
行政法は公務員試験では必ず試験科目となっています。また公務員となれば一定程度の行政法の知識が前提となり,日常業務をこなしていくことになります(少なくともそうあるべきです)。 - 法曹専門職(弁護士等)になろうとする場合
制度改革後の司法試験では行政法も試験科目に含まれるようになりました。このため,ロースクールにおける学習においては行政法は憲法と並んで重要な位置づけが与えられています。さらに,2004年の行政事件訴訟法改正などを契機に,行政法の知識が法曹実務の場面で問われることは今後増えていくことが予想されます。 - 行政機関の違法不当な活動の被害を受けたくないと考える場合
たとえ行政機関で働かなくても,あるいは法曹専門職に就かなくても,今日の生活の中で行政法と接触をしなくて済む人はほとんどいません。私たちの日常生活の回りには行政法があふれており,これらの法令の執行にあたり,私たちが行政機関と交渉する機会は必ず訪れます。その時,行政機関が違法・不当なことを行ったために被害を受ける可能性がないとはいえません。その際に行政法を知っていれば泣き寝入りせずに済むかもしれません。 - 世の中の仕組みを理解し,仕組みを変えていこうと考える場合
さきほどの例示からもわかるように,行政法は六法以外の全ての法律と考えてよく,その広汎性と多量性は他の法律科目とは比較できないほどです。逆に言えば,世の中の仕組みを形成しているかなりの部分は行政法が占めているということになります。つまり行政法を勉強することによって世の中の仕組みを理解することができるわけです。さらに行政法を勉強すれば,今あるしくみのどこが問題で,どう変えればよりよい結果がでるかを考えることができるようになります。
九州大学法学部のカリキュラムにおける「行政法」
九州大学法学部では低年次科目として次のような法律科目が配当されています。
- 1年前期…法学入門,コアセミナー
- 1年後期…民法Ⅰ,憲法Ⅰ,刑法Ⅰ
- 2年前期…民法Ⅰ,憲法Ⅰ,刑法Ⅰ,低年次演習
この中に行政法科目は残念ながら存在しません(コアセミナー・低年次演習を行政法教員が担当している場合はあります)。行政法は六法科目に関する基礎的な知識(とりわけ憲法・民法)を前提としている面があるため,低年次科目への配当は行われていないのです。従って本格的に行政法を勉強するのは通常2年後期からとなります。九州大学法学部での行政法科目には次のようなものがあります(特殊講義を除く)。
- 行政法Ⅰ(旧:行政過程論)…行政法Ⅰでは行政機関の行政活動を規律している行政法規(行政作用法・行政組織法)の基礎にある法的考え方や,市民への働きかけの種類(行為形式)を学びます。行政実務に携わる公務員や,社会問題の解決のための制度設計を考える知識を身につけようとする人にとって,この科目はとても重要です。行政法Ⅰは通常,2年後期に配当されています(4単位)。
- 行政法Ⅱ(旧:行政救済論)…行政法Ⅱでは,違法・不当な行政活動により被害を受けた(受けそうな)市民がいかなる救済手段を使ってその被害をとりのぞくかを学びます。具体的には行政不服審査・行政事件訴訟(以上をまとめて「行政争訟」と呼びます)・国家賠償・損失補償(以上をまとめて「国家補償」と呼びます)の4つの分野を勉強します。法曹を目指す場合にはとりわけ重要な科目となります。行政救済論は通常,3年前期に配当されています(4単位)。
2014年度までの行政法科目の開講状況(行政法演習・日本国憲法(全学教育科目)を除く)は次の通りです。
年度 | 開講科目(担当教員) |
---|---|
1996 | 行政法第2部(大橋[行政事件訴訟],角松[行政不服審査・国家賠償・損失補償]) |
1997 | 行政法第1部(角松) |
1998 | 行政法第2部(大橋) |
1999 | 行政過程論(旧カリ:行政法第1部)(角松) 行政法特殊講義(行政組織法)(大橋) |
2000 | 行政法特殊講義(行政法総論)(大橋) 行政救済論(旧カリ:行政法第2部)(角松) 行政システム論(地方自治法)(木佐) 低年次演習Ⅰ(角松) |
2001 | 行政過程論(木佐) 行政システム論(都市法)(大橋) 低年次演習Ⅰ(大橋) |
2002 | 行政過程論(大橋) 行政救済論(角松) 行政システム論(地方自治法)(木佐) 低年次演習Ⅰ(角松) |
2003 | 行政過程論(木佐) 行政救済論(角松) |
2004 | <学部> 行政過程論(角松) 行政救済論(木佐) <法科大学院> 行政と法(大橋) 公共紛争処理と法(角松) |
2005 | <学部> 行政法Ⅰ(旧カリ:行政過程論)(木佐) 行政法Ⅱ(旧カリ:行政救済論)(大橋[行政事件訴訟],角松[行政不服審査・国家賠償・損失補償]) 地方自治法(田中) 低年次演習Ⅱ(年金問題に学ぶ行政法・社会保障法入門)(原田) <法科大学院> 行政と法(大橋) 公共紛争処理と法(角松) 公共法Ⅲ(大橋) 地方分権と司法分権(木佐) |
2006 | <学部> 行政法Ⅰ(原田) 行政法Ⅱ(田中) コアセミナー(低年次演習Ⅰ)(安全な住居で暮らす方法)(原田) <法科大学院> 行政と法(大橋) 公共紛争処理と法(木佐) 公共法Ⅲ(大橋) 地方分権と司法分権(木佐) |
2007 | <学部> 行政法Ⅰ(原田) 行政法Ⅱ(田中) コアセミナー(低年次演習Ⅰ)(「借金」の法律学)(原田) <法科大学院> 基礎行政法(旧カリ:行政と法)(大橋) 応用行政法Ⅰ(旧カリ:公共紛争処理と法)(木佐) 応用行政法Ⅱ(旧カリ:公共法Ⅲ)(大橋) 公法総合演習Ⅱ(旧カリ:地方分権と司法分権)(木佐) |
2008 | <学部> 行政法Ⅰ(田中) 行政法Ⅱ(原田) 低年次演習Ⅱ(情報公開判例を読む)(村上) <法科大学院> 基礎行政法(旧カリ:行政と法)(村上) 応用行政法Ⅰ(旧カリ:公共紛争処理と法)(木佐) 応用行政法Ⅱ(旧カリ:公共法Ⅲ)(村上) 公法総合演習(木佐・村上ほか) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
2009 | <学部> 行政法Ⅰ(田中) 行政法Ⅱ(勢一) 低年次演習Ⅱ(情報公開判例を読む)(村上) <法科大学院> 基礎行政法(村上) 応用行政法Ⅰ(木佐) 応用行政法Ⅱ(村上) 公法総合演習(木佐・村上ほか) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
2010 | <学部> 行政法Ⅰ(原田) 行政法Ⅱ(村上) 地方自治法(田中) <法科大学院> 基礎行政法(村上) 応用行政法Ⅰ(木佐) 応用行政法Ⅱ(村上) 公法総合演習(村上・田中ほか) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
2011 | <学部> 行政法Ⅰ(村上) 行政法Ⅱ(原田) 地方自治法(田中) <法科大学院> 基礎行政法(原田) 応用行政法Ⅰ(村上) 応用行政法Ⅱ(村上) 公法総合演習(村上・田中ほか) 発展演習・地方自治法(田中) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
2012 | <学部> 行政法Ⅰ(原田) 行政法Ⅱ(村上) 地方自治法(田中) <法科大学院> 基礎行政法(村上) 応用行政法Ⅰ(原田) 応用行政法Ⅱ(村上) 公法総合演習(村上・田中ほか) 発展演習・地方自治法(田中) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
2013 | <学部> 行政法Ⅰ(村上) 行政法Ⅱ(原田) 地方自治法(田中) <法科大学院> 基礎行政法(村上) 応用行政法Ⅰ(木佐) 応用行政法Ⅱ(村上) 公法総合演習(村上・田中ほか) 発展演習・地方自治法(田中) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
2014 | <学部> 行政法Ⅰ(深澤) 行政法Ⅱ(村上) 地方自治法(田中) <法科大学院> 基礎行政法(村上) 応用行政法Ⅰ(木佐) 応用行政法Ⅱ(村上) 公法総合演習(村上・田中ほか) 発展演習・地方自治法(田中) 公法訴訟実務(木佐ほか) |
「行政法」に関係する演習(ゼミ)
上記の行政法に関する講義で行政法に対する関心を持った場合には,さらに深く勉強するための演習(ゼミ)が学部3・4年次に開講されています。
- 大脇ゼミ…前身の大橋ゼミから数えると,九州大学の行政法演習としては最も長い歴史を持ちます。前期は年度により異なりますが1つのトピックに関して報告・討論を行い,後期は各自がゼミ論文を作成する過程で報告を行うというスタイルをとっています。
- 田中(孝)ゼミ…2005年度より開講されました。田中先生は九州大学着任以前は札幌市職員として行政実務に携わられながら,行政法・地方自治法・政策法務に関する著作を多く発表されてきました。
- 鈴木ゼミ…一番新しいゼミで,2021年度から開講されます。