paco Home>授業関連>演習科目一覧(九州大学)>角松ゼミ第1期(00年度)
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基本情報
- 授業科目名: 法律演習
- 講義題目: 行政法演習
- 開講学期・単位数・時間帯: 通年・4単位・火曜日4限
- 対象学年: 3年生
- 担当教員: 角松生史
授業の概要
行政法に関するいくつかのテーマを取り上げることによって,行政法的手法が現代社会において果たしている役割を多面的に検証する。
前期は学術論文・判例などの読み方,文献の調査収集の方法,発表の仕方など,行政法(あるいは法律学一般)研究に必要な技法の修得を主たる目的とする。後期はゼミ論文準備のための報告を中心とする。
なによりも重視することは,自分の頭で考え,喋り,書くことである。
なお本ゼミは大橋ゼミと密接に協力しつつ運営する。対象学年は3年であるが,4年の受講を必ずしも拒まない。
授業の進め方
参加者の報告を素材に全員で議論する。報告者以外も質問・意見で活発に参加することが期待される。
教科書及び参考図書
開講後適宜指示する。
試験・成績評価等
平常点及び「ゼミ論集」所収の論文によって評価する。
その他
後期に時間変更(木4)がありうる。確認が必要な人は角松まで連絡されたい。
ゼミガイダンスパンフレット
来年度の方針
「批判」がこのゼミのキーワードです。
成文法典であれ,裁判例であれ,学術論文であれ,いわゆる「教科書」であれ,「法」は常にことばによる言説の形をとってみなさんの前に現れてきます。みなさんはそれら言説に十分に向き合っているでしょうか。その「ことば」を発したのは誰か,それが向けられた相手は誰だったのか,どういう状況でそれら言説は発せられたのか,そのようなコンテクストの下に言説を位置づけるという作業を行っておられるでしょうか。それとも,それら言説を cut and paste することに自らを限定し,話者の権力に自らを委ねておられるでしょうか。
このゼミは前半で,行政法のいわゆる「基礎理論」に関わるそういった「テクスト」たちとおつきあいしていきたいと思います。それが裁判例になるか,論文になるか,いわゆる「教科書」になるかはまだ決めていません。それらのテクストを「話者」の意図に従って論理的に再構築した(十分に力量がある方は,意図的な脱構築ももちろん歓迎しますが)上で,「批判」する実践を試みて頂きたいのです。常に内在的な理解から出発し,その上で視点を転換して外から批判する。そしてその「批判」もまた直ちに,コンテクストを解剖された上で更なる批判に曝される,そういった「場」を目指していきたいと思います。正直言って,いままでの私自身のゼミナールにおける実践からすればあまりに遠い目標ではありますが,志は高く持っていきたいのです。
後期は,「テクスト」を自分で作成する作業=ゼミ論文執筆へ向けての報告を中心に据えたいと思います。前期で批判的に検証した行政法学の方法を土台に,現代社会のさまざまな問題へのご自分なりのアプローチを,自分にしかできない「テクスト」の作成を目指していただければと思います。その過程でももちろん,社会現象を,あるいはそれを捉えようとして(ひょっとしたら捉えそこなっている)言説たちを「批判」する作業が必要とされます。できあがった論文以上にその過程で,みなさんが有意義な体験をされることを望んでいます。
なお,本ゼミは,同じ行政法ゼミである大橋ゼミナールと密接に協力しつつ運営されます。志望人数やそれぞれの志望動機なども勘案しつつ,どのような協力形態が可能か検討していきたいと思っています。大橋ゼミとの役割分担で,本ゼミは原則として新3年生の受講を想定していますが,4年生の受講を拒むものではありません。また,前期は火曜4限の予定ですが,後期は変更(おそらく木曜4限)もありえますので,予めご了解下さい。
その他
「行政(国・地方自治体)で働きたい(=公務員になりたい)」「行政が大嫌い!行政とケンカしてやるっ!」と意気込んでいるあなた。このゼミはおすすめです。というのも行革の裏話に詳しい大橋洋一教授をはじめとするExcellentな教授陣の指導であなたの行政関連の知識が飛躍的にアップすることを約束します。かくいう私もこのゼミのおかげで新聞などマスコミで昨今叫ばれている話題(行革,福祉,ごみ問題など)に詳しい知識を持てました。行政法の授業を取っている,いないは全く関係ありません(私も行政法第二部を落としています)。肩肘はらずに気軽に飛び込んできてください。We'll welcome you!
ゼミ活動の概要
前期
- 第1回(4月18日)行政法の基本構造
行政法の全体像を描くこと,今後の行政法のモデルを提示することを中心に議論が行われました。 - 第2回(4月25日)行政法の一般原則(森)
法律の留保の議論を整理した上で,予算と法律の関係,本質性理論の持つ意味などについての検討が行われました。 - 第3回(5月9日)行政過程における法律と条例の役割(水谷)
条例の法的性質や条例の制定範囲をめぐる検討が行われました。 - 第4回(5月16日)民事法と行政法の関係(井上)
いわゆる「公法と私法」の問題について,今後の方向性を示すとともに,民事法と行政法との差異についてどのような例が適当かが検討の中心となりました。 - 第5回(5月23日)行政情報の公開(宮島)
グローマー拒否をめぐって議論が沸騰しました。情報公開法と個人情報保護法を中心とした議論が行われました。 - 第6回(5月30日)行政手続法(内野)
「感受性」という言葉がキーワード?というのは冗談で,行政手続法によって改善された点と今後の課題は何かということを中心に検討が行われました。 - 第7回(6月6日)市民参加(水原)
地方議会改革の具体策をめぐって質問が集中しました。新しいテーマだけに不確定なことが多いですね。 - 第8回(6月13日)監査制度・オンブズマン・政策評価(森岡)
従来から存在している監査制度(地方自治体の監査委員,国の行政相談など)についての有効性をめぐり議論が行われました。 - 第9回(6月20日)行政の行為形式論について(山口)
行政法総論のなかでも中心的部分を占める行政の行為形式論についての議論が行われました。検討の中心課題は行為形式論の将来像でした。 - 第10回(6月27日)行政立法と行政計画(末石)
行政立法では法規命令と行政規則の二分論について,行政計画では行政立法との違いや行為形式の性格についての論議がなされました。この日,ゼミ写真撮影も同時に行いました。 - 第11回(7月4日)行政行為(森・宮島)
行政行為であって行政処分でないTypeA問題が議論されました。実体法的分類論や準法律行為的行政行為の位置づけなどわかったようでわからない,わからないようでやっぱりわからないテーマが多いです。 - 第12回(7月6日)行政契約(水谷・内野)
場の設定か,教科書的説明か...どっちがいいのでしょう? - 第13回(7月6日)行政指導(井上・水原)
行政指導のメリット・デメリット,今後のあり方についての議論がされました。
ゼミ論文ブレーンストーミングが行われました。 - 特別企画:星に願いを2000(7月7日)
行政法ゼミは怪しい集団ではありません。 - 第14回(7月12日)行政上の義務履行確保(古典的手法)(森岡・山口)
行政上の義務履行確保の現状と改善策についての検討が行われました。 - 第15回(7月12日)行政上の義務履行確保(新しい手法)(末石)
最近流行の氏名公表や給付拒否の効果と統制についての議論が行われました。
後期
- 第16回(10月17日)ゼミ論文テーマ決定,判例評釈提出
後期の日程が決定しました。次回からは判例評釈です。 - 第17回(10月24日)判例評釈①
学校作文開示請求事件(水谷,宮島)…永遠のライバル?テーマの競合の多い二人の見方の差異が興味深かったです。
荒川民商事件(末石←森)…行政調査の判例として知られる事件です。
非嫡出子住民票記載事件(内野←末石)…角松先生も評釈を書いた事件だけにいろいろおもしろい話が聞けました。 - 第18回(10月31日)判例評釈②
三菱タクシー運賃変更認可申請却下事件(山口,井上)…規制緩和との関係もあるタクシー運賃をめぐる事件を扱いました。
逗子市監査請求記録公開拒否事件(水原,森岡)…二人の見解が大きく異なっていて非常におもしろい対決でした。
二風谷ダム事件(森←内野)…様々な論点を含む有名判例ですね。 - 第19回(11月7日)
農業政策と行政法(内野←森)…米の生産調整や減反を素材として行政法的考察を加えようと言う意欲作に期待。
行政評価(宮島←末石)…まもなく始まる国レベルの行政評価についての詳細な報告でした。行政監察と行政評価のちがいはどこにあるのだろうか? - 第20回(11月14日)
ストーカー規制法を読む(水谷←内野)…行政手続,行政刑罰の点で非常に興味深いストーカー規制法に関する報告でした。僕は1割。
IT革命(森岡←水谷)…IT革命を批判的に見ることも大事。でもデジタルディバイドされないようにしましょうね。水谷君お疲れ。
年金制度(山口←水原)…大きく揺れている年金制度がテーマです。今回のゼミ論では唯一の社会保障法ですね。 - 第21回(11月28日)
地方財政(水原←山口)…地方分権で積み残しとなった地方財政,財政分権問題を扱います。
市町村合併(森←宮島)…市町村を1000にするという政府の行革大綱案をにらみながら市町村合併の是非について考えるものです。
志免町給水拒否事件(末石←森岡)…志免町給水拒否事件判決を素材にまちづくりの手法と水道について扱います。ゼミ論としては近年めずらしい事例研究タイプとなるのでしょうか? - 第22回(12月5日)
農業政策と行政法(内野)…今回は米の生産・流通問題に絞った報告でした。次第に行政法っぽくなってきた?
ストーカー規制法を読む(水谷)…桶川事件を素材にストーカー規制法の効果について検討しました。宿題は来世紀に持ち越し。 - 第23回(12月12日)
行政評価(宮島)…行政評価のチェック機関論がでてきたところで,昨年の原子力安全委員会の議論を思い出しました。
IT革命(森岡)…論点が出そろってきた感じです。次は突っ込んだ報告を。
年金改革(山口)…企業年金や401Kが素材として登場。次の課題は国家論のようです(社会保障をやるとどうしてもこういう議論の方向になってしまいますね...。) - 第24回(12月19日)
地方財政(水原)…補助金・地方交付税・地方税の3つをキーとして住民自治の観点から地方財政を眺めるという意欲作。就職先のことは気にせずに(??)がんがんやりましょう。
市町村合併(森)…市町村合併に伴う窓口減少を出張所の数で見るという方法がユニークでした。僕は毎朝香椎出張所の近くを通っているはずですけど,今まで存在を知りませんでした(福岡市民ではないから無理もないか?)。
志免町給水拒否事件(末石)…実際に現場を訪れたときの写真を報告で利用するとはさすがです。初の写真入りゼミ論? - 第25回(1月9日)オープンゼミ
ストーカー規制法を読む(水谷)…今回の発表は警告の基準を独自に作成するというものでした。すると警告が本当に行政指導なのかが再び論議に...。
農業政策と行政法(内野)…世界の農業政策と日本の農業政策史は興味深かったです。専門用語が多すぎるとの指摘も。 - ゼミ紹介(1月10日)
大橋ゼミからは幹事の(歳時記を愛する)内野さんと,副幹事の(ゼミの未来を背負う(とプレッシャーを掛けてはいけませんね,しかもネット上で)末石君が登場します。角松ゼミからはI君不在のため角松先生自らご出馬されます。今年度とは戦略を変更して合併はしないことを前提とする募集となりますが,効果の程は...? - 第26回(1月16日)
IT革命(森岡)…今回のテーマはネット事業者と規制の関係だったのでかなり行政法的なものになっていました。論点が多岐にわたるのでまとめるのは大変そう。
行政評価(宮島)…前回に引き続き行政監察と行政評価の違いが再び問題に。行政評価の実施で行政監察は後退するのか?それとも...。
年金問題(山口)…女性と年金の問題では民法家族法との関係が出てくることになって,この問題の広がり,深さを改めて知ることになりました。 - 第27回(1月23日)
地方財政(水原)…自治体が「つぶれる」の意味をめぐっていろいろと議論が...。地方交付税交付金は廃止できるのでしょうか?
市町村合併(森)…豊富なデータでの分析は非常に興味深かったです。結論はどちらに?
水道行政とまちづくり(末石)…市町村優先の都市計画か,県知事にも役割を期待するのか,難しいところです。
ゼミ反省会…ゼミ論で疲れる前にやっておいたほうがよいですね。 - 第28回(1月30日)
ゼミ論文提出…今年は昨年の反省に立って?徹夜組はわずか二人でした(その二人は辛そうだったなあ)。
提出されたゼミ論文のタイトルは次の通りでした。
- 内野美穂:「日本の米政策-食糧法下の米問題-」
- 水谷直人:「ストーカー規制の実現」
- 水原菜穂子:「地方財政を通して地方分権を考える」
- 宮島伸一郎:「監察・評価制度への評価,提言」
- 森義和:「市町村合併の具体検証」
- 森岡智:「IT革命-民間主導への転換-」
- 山口圭介:「年金危機の行方と未来」
- 末石裕光:「水道行政を通して街づくりの在り方を考える-志免町給水拒否事件を参考にして-」