ドイツ語の名詞には性・数・格があり,これらは基本的に冠詞(Artikel)・冠詞類の語尾変化によって表されます。格によっては名詞に変化語尾がつくこともあります。
定冠詞(bestimmter Artikel)の変化
特定のものを指す定冠詞(英語のtheにあたります)としてドイツ語では,der(男性1格),die(女性1格),das(中性1格)が使われます。これらは格や数に応じて以下のように変化します。名詞の語尾変化を伴うこともあります。
名詞の種類 | 男性名詞 | 女性名詞 | 中性名詞 | 複数形 |
---|---|---|---|---|
1格(Nominativ) | der Mann | die Frau | das Kind | die Leute |
2格(Genitiv) | des Mannes | der Frau | des Kindes | der Leute |
3格(Dativ) | dem Mann | der Frau | dem Kind | den Leuten |
4格(Akkusativ) | den Mann | die Frau | das Kind | die Leute |
ドイツの文法書では1格→4格→3格→2格の順番で並べられることが一般的ですが,ここでは日本での一般的な説明方法に従って,1格→2格→3格→4格の順番で並べています。覚えるポイントは次の通りです。
- 男性名詞・中性名詞の2格では名詞に-s(または-es)の語尾が付きます。これに対して女性名詞単数はどの場合でも名詞そのものに語尾が付きません。
- 女性名詞と中性名詞の1格と4格は同じ形です。男性名詞は1格と4格で形が違います。
- 複数形の変化は女性名詞と似ていますが,複数形の3格が冠詞・名詞とも-nの語尾になる点に注意が必要です。ただし複数形で-n,-sを付けるタイプの名詞には名詞語尾の-nは付きません。
- 男性名詞の3格は冠詞語尾が-m,4格の冠詞語尾は-nです。日本人には違いを聞き取ったり発音したりしにくい2つの音なので,慣れるまでは注意が必要です。
- 中性名詞は1・4格が同形という点では女性名詞に似ており,また2・3格の変化は男性名詞と同じです。
[上級] 一部の男性名詞と中性名詞の3格には語尾に-eがつくことがあります(古風な言い方)。
例:der Mann→dem Manne,das Kind→dem Kinde
Ich muss nach Hause gehen.(そろそろ家に帰らなければなりません。)
[中級] 名詞の不規則変化
いくつかの名詞は上に説明したのとは違う変化をします。
名詞の種類 | 男性弱変化名詞 | 男性弱変化+複数-en | 男性弱変化+-s | 弱変化+-s(中性) |
---|---|---|---|---|
1格(Nominativ) | der Student | der Herr | der Name | das Herz |
2格(Genitiv) | des Studenten | der Herrn | des Namens | des Herzens |
3格(Dativ) | dem Studenten | der Herrn | dem Namen | dem Herzen |
4格(Akkusativ) | den Studenten | der Herrn | den Namen | das Herz |
複数形(1~4格) | Studenten | Herren | Namen | Herzen |
1つめと2つめは男性弱変化名詞と呼ばれる変化で,1格を除いて全てに語尾-[e]nが付きます(n-Deklination)。この変化をするのは以下のような男性名詞です。
- 語尾が-eで終わる生物(人間を含む)を表す単語
例: der Deutsche(ドイツ人男性),der Junge(若者) - 語尾が-eで終わらない生物(人間を含む)を表す単語
例:der Mensch(人間),der Bär(熊),der Herr(紳士)(←der Herrは単数2~4格では-n,複数では-enが語尾になります) - 語尾が-ant(-and),-ent,-ist,-at,-oge,-grafで終わる外来語
例: der Patient(患者),der Demokrat(民主主義者),der Jurist(法律家),der Doktorand(博士課程学生)
3つめは男性弱変化名詞とほとんど同じですが,単数2格にだけ-enに加えてsがつくタイプです。der Nameが代表ですが,-eで終わる抽象名詞の男性名詞がこのグループに含まれます(例:Gedanke(アイデア))。
4つめは3つめとほとんどルールが同じですが,男性名詞ではなく中性名詞となるものです。das Herzのみがこの変化をします。中性名詞なので1格と4格が同じ形になることに注意して下さい。
不定冠詞(unbestimmter Artikel)の変化
不特定の名詞を指す不定冠詞(英語のa/anにあたります)として,ドイツ語ではein(男性・中性1格)とeine(女性1格)が使われます。これも格によって次のように変化します。英語と同じく不定冠詞は複数形には付きません。
名詞の種類 | 男性名詞 | 女性名詞 | 中性名詞 | 複数形 |
---|---|---|---|---|
1格(Nominativ) | ein Mann | eine Frau | ein Kind | |
2格(Genitiv) | eines Mannes | einer Frau | eines Kindes | |
3格(Dativ) | einem Mann | einer Frau | einem Kind | |
4格(Akkusativ) | einen Mann | eine Frau | ein Kind |
定冠詞と不定冠詞の変化の仕方の違いは,男性1格と中性1・4格にあります。定冠詞の場合にはここに変化語尾が付きますが,不定冠詞では変化語尾が付きません。
[中級] 可算名詞であっても冠詞が付かないケースがあります。これをゼロ冠詞といいます。例えば抽象的な概念を指す場合や,職業・国籍などを言う場合には冠詞が付きません(例: Ich bin Arzt. (私は医者です。))。
人称代名詞(Personalpronomen)の変化
英語のI-[my]-me-[mine]にあたる人称代名詞も格に応じて以下のように変化します。
1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
---|---|---|---|
ich | meiner | mir | mich |
du | deiner | dir | dich |
er/sie/es | seiner/ihrer/seiner | ihm/ihr/ihm | ihn/sie/es |
wir | unser | uns | uns |
ihr | euer | euch | euch |
sie/Sie | ihrer/Ihrer | ihnen/Ihnen | sie/Sie |
英語では主格・所有格・目的格・独立所有格(所有代名詞)の4つを人称代名詞として覚えますが,ドイツ語の2格は英語の所有格・独立所有格と違い,所有の意味はありません。この意味では後で説明する所有冠詞を使います。
敬称2人称のSieは3人称複数のsieと同じで,変化形も含めて大文字で書き始めます。3人称単数のsieとは3格のところが違うので,十分注意が必要です。
英語では3人称単数のhe/she/itは自然の性を基準に選択されますが,ドイツ語のer/sie/esは文法上の性が基準になります。そのためer=「彼」ではなく,erがものを指していれば「それ」と訳さなければなりません。
冠詞類の変化
ドイツ語においては定冠詞der/die/dasと不定冠詞ein/eineの他に,これらと同じ文法上の働きをする冠詞類と呼ばれる単語があります。これらもやはり名詞の性・数・格に応じて変化します。定冠詞の変化に準じる冠詞類を定冠詞類(dieser型変化),不定冠詞の変化に準じる冠詞類を不定冠詞類(mein型変化)と呼びます。
- dieser型変化: dieser(この),jener(あの),jeder(それぞれの),aller(全ての),solcher(このような),welcher(どのような),mancher(かなりの)
- mein型変化: 所有冠詞(meinなど),否定冠詞(kein)
dieser型変化
名詞の種類 | 男性名詞 | 女性名詞 | 中性名詞 | 複数形 |
---|---|---|---|---|
1格(Nominativ) | dieser Mann | diese Frau | dieses Kind | diese Leute |
2格(Genitiv) | dieses Mannes | dieser Frau | dieses Kindes | dieser Leute |
3格(Dativ) | diesem Mann | dieser Frau | diesem Kind | diesen Leuten |
4格(Akkusativ) | diesen Mann | diese Frau | dieses Kind | diese Leute |
定冠詞の変化とよく似ていますが,違うのは中性1・4格でdiesesとなること,女性・複数の1・4格でdieseとなることです。また定冠詞dasとdesに当たる単語がともにdiesesになるので,中性の1・2・4格はいずれもdiesesになります。
mein型変化
名詞の種類 | 男性名詞 | 女性名詞 | 中性名詞 | 複数形 |
---|---|---|---|---|
1格(Nominativ) | mein Mann | meine Frau | mein Kind | meine Leute |
2格(Genitiv) | meines Mannes | meiner Frau | meines Kindes | meiner Leute |
3格(Dativ) | meinem Mann | meiner Frau | meinem Kind | meinen Leuten |
4格(Akkusativ) | meinen Mann | meine Frau | mein Kind | meine Leute |
所有冠詞は次のようになっています。
- ich→mein
- du→dein
- er/sie/es→sein/ihr/sein
- wir→unser
- ihr→euer
- sie/Sie→ihr/Ihr
unserとeuerは変化語尾が付くと語尾の前のerのeが落ちることがあります。例えば「私たちの(女性の)先生」は本来はunsere Lehrerinですが,unsre Lehreinと表記されることもあります。
所有冠詞が単独で用いられることがあります(冠詞類の名詞的用法)。このときには以下の部分の語尾が変わります。なお2格は通常使われません。
- 男性単数1格: mein→meiner
- 中性単数1格・4格: mein→mein[e]s
指示性が強くなるため,dieser型に近づく特色が見られます。