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ドイツ語とは
ドイツ語はインド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派西ゲルマン語に属する言語で,このグループには他に英語やオランダ語などがあります。英語に似ているというドイツ語の特色は,ドイツ語学習の大きな助けになります。英語の知識を使うと,すぐにドイツ語をある程度理解することができます。これに対してフランス語はロマンス語なので,ドイツ語とはいわばいとこの関係です。ドイツ語との文法上の類似性は英語とドイツ語との関係ほどはありません。
ドイツ語は,ドイツはもちろん,オーストリア・スイスの一部など約1億1000万人が使用する言語です。日本語とほぼ同じぐらいの使用人口ですが,ヨーロッパの中では英語よりも使用人数が多く,なんとロシア語に次いで2番目です。最近では移民の影響があってトルコなどでも使えるようです。
ドイツ語は日本語に比べて非常に論理的な構造を持つ言語です。ドイツと日本の長い交流の歴史を反映し,現在でも医学・法律学・哲学・芸術といった分野でドイツ語は広く使われています。ドイツ語を学ぶことはドイツの文化に触れることであると同時に,自分の頭の中の思考様式をより論理的なものにする訓練にもなるのです。
ドイツ語の文字
ドイツ語の文字は基本的に英語と同じですが,英語にない文字が4つあります。それはa,o,uの上にテンテンのついたアーウムラオト(ä)・オーウムラオト(ö)・ウーウムラオト(ü)(それぞれ大文字もあります)とssと同じ音のエスツェット(ß)(ギリシャ語のβとは違います)です。ウムラオトは日本語の「エ」に近い音が混ざると考えるとよいです。äは日本語の「エ」にほぼ近い音,öはアとオの中間の音,üはイとエの中間の音です。なおßはシャーフ・エス(scharfes s)と呼ばれることもあります。またスイスではこの文字は用いられず,すべてssで表記されます。
発音で気をつけるべき点は2点あります。1つは「s」です。ドイツ語のsは基本的に濁る音[z]で発音されます。濁らない[s]の音はssまたはßのときに出てきます。もう1つは「f」「v」「w」です。ドイツ語ではfとvが[f]の音で発音され,wが[v]の音になります。
A/a (アー) |
B/b (ベー) |
C/c (ツェー) |
D/d (デー) |
E/e (エー) |
F/f (エフ) |
G/g (ゲー) |
H/h (ハー) |
I/i (イー) |
J/j (ヨット) |
K/k (カー) |
L/l (エル) |
M/m (エム) |
N/n (エヌ) |
O/o (オー) |
P/p (ペー) |
Q/q (クー) |
R/r (エル) |
S/s (エス) |
T/t (テー) |
U/u (ウー) |
V/v (ファオ) |
W/w (ヴェー) |
X/x (イクス) |
Y/y (イプスィロン) |
Z/z (ツェット) |
Ä/ä (エー) | Ö/ö (エー) | Ü/ü (ユー) | ß (エスツェット) |
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[中級] ßの使用ルール
- 長い母音・二重母音の後はß: groß, Spaß, außer, draußen
- 短い母音の後はss: dass, wusste, Stress, Pass, passiert
- 大文字で書く場合には必ずSS
[中級] 通話略語
名前のアルファベットを確認する際に,以下のような言い方をする場合があります(日本語でも例えば「田んぼの田です」のような言い方をします)。覚えておく必要はありませんが,知っておくと驚かずに済みます。
- A wie Anton
- B wie Bertha
- C wie Cäsar
- D wie Dora
- E wie Emil
- F wie Friedrich
- G wie Gustav
- H wie Heinrich
- I wie Ida
- J wie Julius
- K wie Kaufmann
- L wie Ludwig
- M wie Martha
- N wie Nordpol
- O wie Otto
- P wie Paula
- Q wie Quelle
- R wie Richard
- S wie Samuel
- T wie Theodor
- U wie Ulrich
- V wie Viktor
- W wie Wilhelm
- X wie Xanthippe
- Y wie Ypsilon
- Z wie Zacharias
- Ä wie Ärger
- Ö wie Ökonom
- Ü wie Übermut
ドイツ語の発音
ドイツ語の発音の特色
ドイツ語は日本人には発音しやすい言葉だと言われています。その理由は次の3点あります。
- 発音はローマ字読みがほとんどで,綴り字と発音が対応関係にある
英語との大きな違いがここにあります。ドイツ語ではローマ字読みすれば正しい発音になることが多いです。たとえばHaus(英語ではhouse)は「ハウス」と読み,家という意味になります。もちろん残念ながらすべてがローマ字読みではないですが,綴り字と発音の対応関係が明確なので,次で説明する発音の規則を覚えれば,初めて見る単語でも(辞書で発音記号を調べなくても)ある程度発音できます。 - ドイツ語の発音そのものが(英語やフランス語よりは)簡単である
鼻濁音のあるフランス語,舌を出すthで有名な英語,有気音と無気音を区別する中国語など,日本語を話す人間にとって難しい発音が外国語には多いですが,ドイツ語にはそのような音があまりありません。日本人にとって難しい音は,のどひごをふるわせる「r」,同じくのどひごを強い息が通過する「ch」,そして「m」と「n」の違いの3つですが,これらがあまりできなくても多くのドイツ人は理解してくれます。そのためドイツ語ではいわゆるカタカナ発音でも英語よりは通じる傾向にあります。また英語・フランス語と比べてドイツ語は音を比較的省略しない(どんなに早く発音しても音と音をつないで別の音にはしない)傾向にあるので,これも日本人にとっては発音しやすい理由と言えるでしょう。 - ドイツ語の単語のアクセントは基本的に第1音節にある
ドイツ語のアクセントは基本的に第1音節にアクセントがあるという決まりがあります。ただし,外来語(ドイツ語以外に起源を持つ言葉)はこの原則があてはまりません。
日本語にはないドイツ語の発音とそのポイントをまとめてみましょう。
- ö の発音
オの口を少しとがらせた状態で「エ」を言うと,オとエの中間の音が出ます。これがöの音です。 - ü の発音
ウの口を少しとがらせた状態で「イ」を言うとこの音になります。 - ch の発音
のどの奥を少し開いた状態で,のどひごに強く吐息をあてて「ハ」「ヒ」という音を出すとこの音になります。舌の位置や息の通り道は後述のrの発音のときと極めてよく似ています。a,o,u,auの直後にchがあるときはハの音(発音記号では[x])になります。それ以外の母音の時にはヒの音(発音記号では[ç])になります。また綴り字-igも標準ではこの発音になります(ただしこの綴りをイック[-ik]で発音する人もかなりいます)。
語頭のchも基本的には同じルールですが,南ドイツでは[k]で発音する人が多いです(例:China→[ki:na])。 - pf の発音
ドイツ語では律儀にもこの両方の子音を発音するので「プフ」という音になります。 - r の発音
日本人にとって最も難しいのがこの音です。英語のrの音とは全く違います。むしろフランス語のrとほぼ同じです。日本語のラ行の音でもほとんどのドイツ人は理解してくれますが,正しくはのどひごをふるわせる音です。あまりのどを大きく開けずに(むしろ閉じる感じで)のどに力を入れない状態で息を強く吐くとこの音が出ます。英語のrとの違いは,のどを開けないことと,舌先を下の歯茎につけることです。うがいの音でもあるので,まずはうがいをする感覚でやってみるとよいかもしれません。
なおrのうち語末・音節末で長母音の後ろにあるものは母音化します。例えばMorgen(朝)は「モルゲン」ではなく「モアゲン」と聞こえます。また工業地域として日本でもよく知られているルール地方(Ruhr)は「ルーア」と発音されます。ここでのrはaの母音を弱く発音する感じの音になります。 - m と n の発音
日本語の「ン」に当たる音はドイツ語には[m]と[n]の2種類あります。基本的には,唇を閉じる音が[m]で,唇を開けたまま出す音が[n]です。音の選択は基本的に文字と一致しますが,弱音のen(例えばMorgenのen)はあたかも[m]のように唇を閉じて発音されることがあります。
綴り字と発音
ドイツ語では基本的にローマ字読みすれば正しい発音になります。ただし,以下の綴りの場合には決まった読み方を覚えておく必要があります。
- 母音の長さ
アクセントがある母音は長く発音されます。同じ母音を重ねている場合(Teeなど),母音字の後ろにhが来ている場合(Uhrなど)には母音が長く発音されます。これに対し,母音の直後の子音が重なっている場合(wissenなど)では母音が短くなります。
[中級] 母音は長く発音されるときには口の緊張が強くなります。長母音の際には口をよりはっきり開くように発音するとうまく発音できることが多いです。 - 二重母音字の発音
2つの母音字が続くと,音がローマ字読みとは異なる場合があります。
eiは「アイ」と発音します。英語のmostに当たるドイツ語meistは「マイスト」と読みます。
ieは「イー」と発音します。英語のmanyに当たるドイツ語vielは「フィール」と読みます。
eu/äuは「オイ」と発音します。そのためEuropa(ヨーロッパ)は「オイローパ」と読みます。
auは「アオ」と発音します。車にあたるドイツ語Autoは「アオト」と読みます。 - b,d,gの無声音化
語末・音節末で後ろに母音のないb,d,gは無声音[p][t][k]と発音されます。ドイツの都市名によく見られる-berg(「山」の意味)は「ベルグ」ではなく「ベアク」と読まれます。 - schと語頭のsp,st
英語ではshの音「シュ」はドイツ語ではschの綴りになります。また語頭のsp,stのときにもこの音が出てきます。
ドイツ語文法の特色
ドイツ語文法の特色を一言で表すとすれば,英語と日本語の文法の双方の特色を持っているということです。全ての文型で動詞が2番目の要素に来るのは英語と同じですし,助動詞の使い方や時制の考え方,形容詞・副詞の比較表現など,ほとんど英語と同じ文法事項がたくさんあります。しかし英語との決定的な違いは,語順のルールが比較的緩やかだということです。英語は語順で意味を決めますがドイツ語はそうではないからです(むしろドイツ語で語順は意味的に大事なものとそうでないものを区別するのに使われます)。
ただ,ここで大きな問題が出てきます。先ほどの意味を決める手がかりが「語順」ではなく,初学者の恐怖の的「変化形」だというのがドイツ語の大きな特色です。名詞や代名詞は格とよばれる,日本語で助詞にあたる意味を表すための変化をします(正確には名詞などの前に付く冠詞・冠詞類が主としてその役割を果たします)。その変化の系統が大きく3つに分かれるので男性名詞・女性名詞・中性名詞といい分けています。さらに形容詞が前につくと変化の形は微妙に変化します。名詞の複数形は英語やフランス語のようにsをつけるだけ,という訳にはいかず,複数のパターンがあります。
これだけではありません。動詞は主語によって変化し(人称変化),時制によっても変化します。英語でおなじみの現在・過去・過去分詞はドイツ語にもあります。ただし過去形は書き言葉としてしか用いず,会話では主として現在完了形を使います。英語ではあまり見かけなくなった再帰動詞も現役活躍中です。受動態は英語よりも発達していて,自動詞でも受動態を作ることができます。さらに英語の仮定法等にあたる接続法もあります。
しかし変化形が多いことにともなう利点もあります。変化形が多いので主語や動詞を取り違う危険性が少ないのです。いいかえれば正確に意味を伝えることができます。変化を一旦頭に入れてしまうと,むしろ変化形ではっきりと文の成分を認識できることは,読解の上でのメリットになります。
日本語の中のドイツ語
すでに日本語の中にもドイツ語の単語はかなり浸透しています。「アルバイト」はドイツ語の「働く・勉強する」という意味の動詞arbeitenからきていますし,政治用語の「イデオロギー」(Ideologie),経済用語の「カルテル」(Kartell),大学の演習・研究室という意味の「ゼミ」(Seminar),病院の「カルテ」(Karte),「レントゲン」(röntgen),食べ物の「ヨーグルト」(Joghurt),「グミ」(Gummibärchen)などさまざまなドイツ語が日本語の中で使われています。また,日本語の単語であっても元々はドイツ語の概念を翻訳したものであることが,特にドイツの影響を強く受けた専門分野ではよく見られます。