paco Home>授業関連>演習科目一覧(九州大学)>大橋ゼミ第12期(04年度)
シラバス
基本情報
- 授業科目名: 法律演習
- 講義題目: 行政法演習
- 開講学期・単位数・時間帯: 通年・4単位・木曜日4限
- 対象学年: 4年生(前年度からの継続者のみ)
- 担当教員: 大橋洋一
履修条件
2003年度の私の行政法演習参加者であること。本年度は,前年度からの継続であるため,新規のゼミ生募集は行いません。
授業の目的
皆さんが将来どのような職業につくとしても,社会で活躍するために是非大学で身につけておくことが望まれる知的技術・知的能力があります。それは,
・解決すべき課題を発見できること
・それに関する情報を多方面から収集できること
・情報の分析・加工を通じて私見を作り上げられること
・同僚の前でわかりやすく,しかも論理的説得力をもって報告できること
・そして同僚との議論を通じて修正・改善された解決策をまとめあげること
の5点にわたります。
これまでの講義は,聴き手として受け身の学習が主でした。ゼミナールにおいては、皆さんが報告者としての役割を引き受け,主体的に上記の能力を積極的に開発してほしいと考えます。行政法に関するテーマが素材となることが多いのですが,それは手段であって,決して目的ではありません。
授業の概要・授業計画
前期は,行政訴訟法の勉強を統一テーマに,ゼミ生で協同して議論します。参加者は近時の行政訴訟法改正に関する個別テーマを担当,報告します。報告では,民事訴訟法(具体的には,伊藤眞『民事訴訟法(第3版)』(有斐閣・2004年))をベースにして,民事訴訟の側から見ることにより,行政訴訟の特質及び改善点を考えます。このようにして,行政訴訟法と民事訴訟法の基礎を丁寧に学習することといたします。
後期は,各自が自分のテーマを決めて,ゼミ論集の論文作りに挑戦します。
授業の進め方
参加者が研究調査報告を毎回分担し,それを素材にゼミ全員で議論します。
教科書及び参考図書
第一回目のゼミの時に指示します。2003年に公刊予定の大橋他編『行政法判例集(総論)』(有斐閣)を教材に使用したいと考えております。
試験・成績評価等
ゼミにおける研究報告と,年度末に作成するゼミ論集の論文により評価します。
その他
ゼミ活動の概要
前期
- 第1回(4/12) オリエンテーション
新学期第1回目の今日は,各人がこれから一年の抱負を語ったあと,大橋先生のこれまでの軌跡を伺い,その後,ゼミ運営に関する基本的な事項について話し合いました。残り一年間,最後まで実りあるゼミ活動をしていきましょう! - 第2回(4/22) 訴訟類型と処分性…菅原・西田
行政事件訴訟法は,大きく分けて固有の権利救済を図る主観訴訟と,行政の適正な運営を構成員(住民や有権者)たる資格で争うことができる客観訴訟に分けることができます。現在の行政事件訴訟の実態を見ると,課税処分などを争う取消訴訟を中心に議論が進められており,取消訴訟の対象となる行政処分の範囲を拡大することで,権利救済の範囲を拡大しようとする試みが行われているのです。今回の報告では,行政事件訴訟法の改革についての議論があまり取り上げられていなかったと思いますので,今後行政事件訴訟法がどのような改正の動きを見せるかについて,各自で検討してもらいたいと思います。 - 第3回(5/ 6) 原告適格…杉野・野邊
今回は,誰が原告として行政事件訴訟を提起できるかという観点から報告が行われました。今回の行政事件訴訟法改革では,事実上利害関係を有することになる第三者の法的な立場を,どの程度まで法文上明確化して救済の範囲に取り組むことができるかが議論さています。これまでは,企業側が過剰規制の違法を主張して,自らの権利救済のために行政訴訟を提起するモデルが考えられましたが,規制緩和が進む中で,行政の統制が緩やかになると,これまで行政が保護していた第三者の利益が侵害される可能性が高くなります。そこで,第三者の救済を図るために,どのような人が裁判で行政が下した判断を争うことができるのかを議論する必要があるのです。今回の報告では,紛争管理権などの民事訴訟法の議論が詳しく紹介されていた一方,なぜ原告的確の範囲を広げなければならないか,どんな場合を想定して原告適格拡大論が議論がなされているのかという具体的な典型事例を報告者が提示できないことに,報告が混乱した原因があるようです。より分かりやすい報告を目指すには,発表者自身が具体的なイメージをしっかりと持っておく必要があると思いますので,次回から頑張ってくださいね。 - 第4回(5/13) 狭義の訴えの利益…梅丸
狭義の訴えの利益とは,裁判所において本案判決を受けることによって,適切な紛争解決を図ることができるかという視点から設けられた訴訟要件です。キャパシティーに一定の限界を持つ裁判所が,適正な司法運営を図るために,裁判所に持ち込まれる事案の中から,判決を出すことが当事者にとって「利益」があるのかを判断することで,一定の事案をふるいにかけてしまうのです。では,当事者にとって「利益」になるということは,どの場合をさすのでしょうか?裁判所の視点から見た「利益」の有無が,当事者が想定している「利益」と齟齬している場合,どのように解決したらよいのでしょうか?これが,訴えの利益を考える上での出発点です。今回の発表では,訴えの利益を職権でどの程度まで調査すべきかも大きく取り扱われました。裁判所が判断の基礎となる情報を自らの手で探し出してくることを職権探知といい,当事者の申し出に関わらず裁判所が審理を開始することを職権調査といいます。これらは,裁判所の判断の基礎となる資料を当事者から提出されたものに限定するのか,それとも裁判所が集めてきた資料も含めて判断するのかでさらに分けれますが,訴えの利益は,当事者の申し出に関わらず裁判所が審理を開始するが,その判断の基礎となる情報が当事者が提出した資料に限定されれるというカテゴリーに位置づけられます。大変分かりにくいと思いますが,あれこれと手を動かしながら学んでいってくださいね。 - 第5回(5/20) 取消判決の既判力…福本・山口
今回の報告では,取消判決の性質と既判力の意味について考察を深めるものでした。行政事件訴訟法は,原告が国や公共団体に対して取消訴訟を提起することで,今日行政庁が行った処分を取り消し,違法状態を取り除く建前を取っています。では,取消判決が下されることによって,当事者の権利義務関係はどのように変動するのでしょうか。通説は,取消判決に形成力を認め,取消判決によって当事者の権利義務関係を確定すると考えています。
また,今回は既判力についても考察が行われ,紛争の蒸し返しを避けるために訴訟物の範囲(既判力の客観的範囲)をどう画するか,そして,既判力を第三者に対してどれだけ主張できるのか(既判力の主観的範囲)が問題となりました。既判力の主観的範囲を画する指標としては,当事者が争いうる手段を尽くして判決を仰ぐ機会を得ていたかどうかが挙げられています。理論構成は複雑だと思いますが,裁判所が紛争解決機関としての役割を担う上で避けては通れない問題ですので,しっかり考えていきましょう。 - 第6回(5/27) 執行停止…堀之内
今回の報告では,行政事件訴訟法25条が定める執行不停止制度について学びました。行政事件訴訟では,通常の民事訴訟とは異なり,権利関係を保全するための民事保全法が定める仮処分などが排除されます(行政事件訴訟法44条)。すなわち,判決が出るまでの間,現在の法律関係を暫定的に維持したり,これ以上の侵害が生じないようにするために係争行為を暫定的に禁止することが原則できません。これを執行不停止原則といいます。それでは,なぜ行政処分についてだけ,執行不停止原則が設けられたのでしょうか。ここが,まず問題となります。検討会では,①行政の決定が様々意思決定手続(パブリックコメントなども含む)を経て実施されるものであり,一部不満を持つものが訴訟を提起しただけで執行が停止すれば,行政活動はおおよそ機能しなくなること,また②民事保全法は係争当事者の利害関係のみが保全の必要性を判断する上で考慮されるけれど,行政が公共活動の担い手である以上,行政の行為については行政と原告以外の利害関係者の利害関係も尊重しなければならないことなどが挙げられました。
執行停止制度を考える上で大切なことは,暫定的権利関係の維持ないし暫定的侵害行為の停止が,取消判決の実効性を担保するために機能しているかどうかです。現行法の最大の欠陥は,新規申請型の給付申請が拒否された場合に対応できないことにあります。現行法では,現在存在する法律関係を維持するか,あるいは,これから生じる侵害行為を停止させることしか出ません。すなわち,これから新たに給付措置申請する立場にある者にとっては,これまで給付関係があったわけでもなく,行政の行為を停止してもらうことを望んでもいないないため,執行停止制度使えなかったわけです。この点を解消するため,現在審議中の行政事件訴訟法改正法案では,仮の義務付け制度を創設して現行法の不備を補おうとしています。今回の報告では,改正法案で創設された仮の義務付け制度の保護対象についての検討がかけていたので,各自補足するようにしてください。 - 第7回(6/3) 訴訟審理の方法(職権証拠調べ・立証責任・文書提出命令等)…藤澤
今回の報告では,訴訟審理の方法として,数多くの検討課題が山積する中でも,職権探知主義の導入の可否,ならびに立証責任の分配などのテーマを扱いました。特に,今回の報告の目玉は,行政事件訴訟法で新たに設けられた処分裁決関連文書の送付制度です。原告は,この制度を活用することで,これまで文章提出命令で提出させることが困難であった証拠資料を充実させるための手段をいま一つ入手したことになります。この処分裁決関連文書の送付制度は,釈明処分の特則として設けられたのが特徴で,その理由としては,①釈明処分とは違って,文章提出命令は証拠調べの段階で用いられるものであり,文章提出命令の特則として設けたので遅すぎること。②釈明処分に反しても罰則がないことで緩やかな強制ができること,そして③釈明処分は,職権により行うことができることなどが挙げられています。ただし,この制度は行政処分が介在した場合を前提としており,確認訴訟などには準用されていないため,利用できる領域に制限があることなどが指摘されました。
また,報告後の大橋先生のコメントで,今回の行政事件訴訟法の改革で重要な点として,公法上の当事者訴訟が新たに法定されることを強調されました。この公法上の当事者訴訟の新設によって,行政活動一般の違法確認を行いやすくなり,これまで出訴が困難であった行政計画や行政契約,ならびに行政指導など違法が主張できるとされています。今回の行政事件訴訟改革が,証拠の偏在や追行能力の差異を是正することで,実質的な当事者平等の原則をどの程度実現し,訴訟過程における行政の説明責任がどの程度果たされるのかが期待されるところです。(なお,行政事件訴訟法の改正法案が参議院を通過し,新たに施行されることが決まりました。各自チェックをしてください。) - 第8回(6/10) 取消判決の第三者効…古賀
今回の報告では,行政事件訴訟法が定める第三者効について議論しました。第三者効とは,たとえば,操業許可をめぐって近隣住民が取消訴訟を提起した場合に,それが認容されれば,例え操業主が訴訟に参加していなくても,その判決の効力を操業主に対しても及ぼす力を指しています。勿論,全く参加の機会を与えられなかったものに対して判決効を及ぼすのは,手続保障の観点から妥当ではないので,行政事件訴訟法は第三者再審の訴えを認めて,正当な理由で訴訟に参加できなかったものに対しての救済措置を定めています。
問題は,これらの第三者効の性質をどのように捉えるべきかです。議論では,民事訴訟法の形成力や既判力の考えなどを参考にしながら,行政事件訴訟法が民事訴訟とは違う法律構成をとっているのかどうかを議論しました。また,確認訴訟などには第三者効が準用されていないことから,判決を実効性あるものにするために,利害関係者にどのように触手を広げていくべきかも確認されました。この場合,訴訟告知や第三者の訴訟参加で対応すべきだとされています。第三者効の議論は,判決が当事者の権利関係にどのような影響を与えるのか,既判力をどのように考えるかなどの難しい問題が山積みの箇所ですので,しっかりと復習をしておいてください。 - 第9回(6/17) 取消判決の拘束力…中山・宮崎
取消判決の拘束力とは,取消判決が下されたときには,関係行政庁はその判断に拘束されることを指しています。旧行政事件訴訟法は,義務付けという直接な手法をとる代わりに,行政庁に対して判決を尊重せよという趣旨の「拘束力」を認めるによって,緩やかに判決の実効性を担保するという手法を採用しました。しかし,時代の流れと共にそのような迂回な手法は不便であることなどから,改正議論が進み,新たに義務付け訴訟の法定がなされています。今回の議論では,取消訴訟の拘束力はどこまで及ぶのかや拘束力の意義について議論がなされました。すなわち,拘束力は判決の主文に限定されるのか,判決理由中の判断に拘束されるか等です。また,取消判決の拘束力が及ぶ範囲を広げていくと,たとえば,情報公開法などで違う理由による処分などができなくなるという問題が生じます。取消訴訟には,行政に対して再度考慮させる機能があるとされています。この再度考慮機能や行政の立証活動はどうあるべきかなどの問題もあるため,一筋で解決できる問題ではありませんでした。新法の内容に注意を払いながら,議論していきたい素材です。 - 第10回(6/24) 無効確認訴訟…清見
今回の報告では,無効確認訴訟について検討を加えました。無効確認訴訟は行政事件訴訟法では,例外的な位置づけにあり,出訴要件も厳格なものとされています。これは,抗告訴訟としては取消訴訟を中心におく立場を鮮明にしたものだといえますが,旧行政事件訴訟法の出訴期間が3ヶ月と短かったことから,この無効確認訴訟の活用に流れ込んでいた嫌いがあります。今回の改正では,取消訴訟の出訴期間が6ヶ月に変更され,不変期間の定めも正当な理由による例外が認められたことから,この傾向は少なくなることも考えられます。しかし,行政不服審査法の改正は行われていないため,不服審査前置主義を採用する分野では,依然60日間の間に不服審査を申し出なければならず,なおも無効確認訴訟の活用に流れる可能性を孕んでいます。無効確認訴訟が旧来どのような場合に活用されてきたのかを考え,第三者効が準用されない結果どのような結果が問題が生じるのかを考えてみると良いと思います。 - 第11回(7/1) 不作為の違法確認訴訟,法定外抗告訴訟…高瀬
今回の報告では,不作為の違法確認訴訟と,今回の改正で法定化された義務付け訴訟と差止訴訟について検討を加えました。今回法定化された義務付け訴訟は,①第三者が行政庁に規制権限の発動を求めるタイプ(規制権限発動型)と②申請に対する不作為について一定の作為を求めるタイプ(申請型)の二つに分かれます。規制権限発動型と申請型の大きな違いは,まず,併合提起の要否です。規制権限発動型については,直接単独で義務付け訴訟を提起することになりますが,これに対して,申請型の場合には,取消訴訟や不作為の違法確認訴訟を併合して提起しなければなりません。この違いは,行政の不作為は違法だと判断できるが,具体的な作為について,どんな作為が妥当かについては不十分な心証形成が得られない場合に顕在化します。申請型の場合には,法律上,義務付けの判断を留保した形で取消判決や不作為の違法確認判決を下して,行政庁の判断を再度仰ぐことが可能になります。しかし,規制権限発動型の場合にはこの制度がないために,具体的な規制権限の発動内容まで心証形成を得られない場合にどのような判断がなされるのかがよく分かりません。二つ目の違いは,原告適格についての判断の違いです。申請型の場合には,申請者が原告適格を取得するという点で極めて分かり安いものになっていますが,規制権限発動型は重大な損害が及ぶことなどを要件としているためにハードルが高いものになっています。これは,第三者の利害に口出しをすることになることから,出訴権者に絞りをかけたのもだとされています。
このように,たくさんの課題を抱えた分野ではありますが,法律の条文を精読して新しい問題について考えていくとよいのではないでしょうか。 - 第12回(7/8) 当事者訴訟…木村
前期最終回は,当事者訴訟についての報告です。今回の行政事件訴訟法の改正では,第4条の公法上の当事者訴訟が確認訴訟であることが明文によって確認され,確認訴訟の活用が期待されています。検討会の段階では,手っ取り早い救済手段として当事者訴訟が注目されていましたが,理論的な問題から立法化はされない方針でした。しかし,国会審議で自民党から修正案が提出され,確認訴訟の規定であることが確認されたのです。このことによって,これまで行政指導や行政計画,行政契約など,これまで抗告訴訟では争いづらかった訴訟も提起できるのではないかとされており,今後の裁判の動向が気になるところです。
後期
後期は例年通り,ゼミ論文構想の発表が行われました。
- 第13回(10/7) 西田・中山・清見 (行政と企業)
- 第14回(10/14) 杉野・菅原・野辺 (教育法・環境法)
- 第15回(10/14) 堀之内・古賀・宮崎(行政法総論)
- 第16回(10/21) 山口・福本・高瀬 (警察法等)
- 第17回(10/28) 藤澤・梅丸・木村 (都市法等)
- 第18回(11/4) 小野・西田
- 第19回(11/11) 中山・清見
- 第20回(11/25) 杉野・菅原
- 第21回(12/2) 野辺・堀之内
- 第22回(12/2) 古賀・宮崎
- 第23回(12/9) 福本・高瀬
- 第24回(12/16) 藤澤・木村
- 第25回(1/13) 篠原・中尾
- 第26回(1/20) 梅丸・山口
- 第27回(1/27) ゼミ論文発表会
最終的に提出されたゼミ論文の要旨は以下の通りです。
- 公益通報保護と企業倫理の構築―企業運営の適正化のために―(西田香菜)
近年,内部告発への理解は進んでいる。その世相を反映して,昨年6月,公益通報者保護法が制定された。このような法律がなかったことから考えると,りっぱな進展といえるが,内容は完全なものとは言い難い。
更に,企業内部での独自の取組みも多く見られるようになってきた。「コンプライアンス」という言葉をキーワードに,多くの企業が,社内通報制度や,相談窓口を作っている。このような制度自体がこれから企業の一つの売り物として,企業には必須なものとなってくるだろう。よって,これからは,制度だけではなく制度の中身を十分なものにして,法令遵守と言う当たり前のことをより確実に実行に移させるべきである。
そして,最も今の日本にかけているのは,市民自体のマンパワーである。だからこそ,今までは内部告発等がなされない限り,企業の市民に対する不正は明らかにされてはこなかったといっても過言ではない。今やっと消費者保護に注目が集まっており,市民がその論点の中で中心的に行政や企業に圧力をかけていく必要がある。このような問題の中で,進みだした内部告発を通報者保護・消費者保護の観点から発展させるために,行政-企業-市民の三位一体となって改革していくべきであり,本稿では新しい独自案としての公益通報者保護法を提案していくことで,これからの行政・企業・市民がどのようなアクションを起こしていくべきかと言うことについて考えていくものである。 - 食の安全―食育について考える―(中山明子)
今回テーマを「食の安全」にしました。実はこのテーマは昨年度のゼミ論が終わったときからあたためていました。なぜ食の安全かということですが,BSE事件や鳥インフルエンザ事件,そして食品不正表示問題など食をめぐる事件が続けて起こり,そのせいで消費者の信頼が失われてしまいました。自分も例外ではなく,輸入牛肉についても食品の表示についてもどこか不信感が拭えなくなっていました。そこで,こういった現状を踏まえて,食というものを根本から見直し,いろんな意味での食の安全を考えたいと思いました。
本論文では,第一章で食がかかえる問題や食品安全行政などをもとに食の安全について,第二章では教育的側面から食を見直すための食育について,第三章では食品不正表示問題をきっかけに失われた信頼とそれを取り戻すために必要な情報について,といった3章構成にしています。この食に関する問題は比較的新しいものであり,今専門家や関係府省も必死に対策を講じようとしている段階です。とても新鮮な話題ですので,難しく考えることなくなるほどと思って読んでいただければ,それで十分です。食というものは誰でも例外なく,生まれてから死ぬまで一生寄り添っていくものなので,現在の自分の食生活や食に対する価値観と比較しながら読んで見ると,結構面白く読んでいただけると思います。 - 郵政民営化(清見太一)
本論文は郵政民営化の流れの中で起こった,ヤマト運輸と日本郵政公社の訴訟を扱ったものである。私のもともとの独占禁止法などに対する知識不足,さらに勉強不足により大変わかりにくい内容になってしまったが,読んでいただければ幸いである。
構成としては,まず事実概要の概観をし,実際の訴訟上論点の分析,さらに今回の争いにおける他の紛争処理についても分析した。
また,今回ヤマト運輸は第24条の差止請求請求権,独占禁止法の私訴制度を活用した。本来,独占禁止法違反の疑いがある場合は,公正取引委員会が乗り出して解決の道を探るというのが一般的である。それに対してこの私訴制度は公正取引委員会を介さず,被害者が直接裁判所に訴えることにより,早期解決をめざすという制度である。この制度は近年創設されたものなのだが,なぜこの制度が必要だったのかなども検討してみた。
今回の訴訟は日本郵政公社が民営化されるか,という状況のなかで大きな意味をもつと考えられる。極端に言えば,日本郵政公社が勝訴すれば大きな力を持ったままの民営化を,ヤマト運輸が勝訴すればそれに歯止めがかかる,というような流れが起きるのではないだろうか。
論文執筆は終了したものの,この問題はこれからも注目に値するであろう。 - 自動車リサイクルと循環型社会(菅原礼)
現在日本では,環境に配慮した政策や法律が注目されている。これまでに循環型社会構築のために作られた法律は多々あり,今年から施行される自動車リサイクル法もその一つである。自動車リサイクル法は,これまでのリサイクル法とは異なり一見出来の良い法律に思われる。しかし中身を具体的に見ていくと,日本のリサイクル法の現状を表すかのような問題点が多々あることが分かった。
今回のゼミ論では,今までのリサイクル法の 変遷を辿りながら,自動車リサイクル法がどのように位置づけられるのか,また,運用面で注目されているエコタウン内の自動車リサイクル事業とどのように関わってくるのかを考えてみた。
具体的には,第1章で循環型社会について簡単に述べ,第2章ではリサイクル法の変遷としてこれまでに作られてきた法律を挙げ,そして特に自動車リサイクル法との関係で比較しやすい,容器包装リサイクル法と家電リサイクル法について述べてある。 そして第3章では自動車リサイクル法について細かく調べ,その問題点を挙げてみた。第4章では自動車リサイクルの現状として,北九州エコタウン内にある自動車解体事業を調べ,そして第5章では,法律とリサイクル事業との関係を自分なりに考えてみた。最終的には法律とエコタウンのようなリサイクル事業は相互に相反するものだと結論付けて,その上で行政はどのように関わるのが良いのかを提案してみた。 - 水俣病関西訴訟と行政認定(宮崎智恵)
2004年に長い水俣病訴訟の最高裁判決がなされ,行政の責任が認定された。歴史的にもたいへん画期的な判決だと評価された関西訴訟最高裁判決を契機に,水俣病の歩んだ歴史とその数々の訴訟における行政の責任や認定業務について考察しながら,これからの行政の救済について考えていきたいということで,水俣病訴訟,行政認定,関西訴訟の3本立てで構成している。 第1章では水俣病全体の訴訟等について概略的に考察しており,特に国賠訴訟については行政の法的責任の考え方を,判決における認容理論,否定理論に分けて整理した。 第2章では行政認定ということで,認定制度の変遷と現行の認定基準とその問題点について検討を加え,さらに現状を表を用いて説明している。 第3章は今回の論文を書くきっかけとなった関西訴訟について特記し,判決の分析を行っている。また判決の問題点,今後の行政の対応に関して私見を述べている。 水俣病について考えていく中で,今回非常に感じたことは行政や法規とは何のためにあるのかということである。法規を厳格に判断することを重視しすぎ,本来守るべき国民の利益を最優先しない事態を繰り返すことないように行政は重い腰を今こそ上げるべきだと考える。また,行政は今回の最高裁判決で加害者として認められたのであるから,もう一度現行の基準や救済措置について考えを改めるべきだと思われる。 - 裁判員制度―行政裁判への応用可能性の検討―(堀之内豊)
平成16年に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立した。
この法律は,今までにない大規模な司法への国民参加を定めた法律である。また,同年「行政事件訴訟法」が約42年ぶりに大改正された。ともに,司法制度改革の一環として立法化あるいは改正されたものである。司法制度改革は,事後監視・救済型社会で,かつ国民が統治主体意識を持つ21世紀型の社会を目指して行われたものである。その中で生まれた裁判員制度については,憲法に全く規定がない以上,合憲性が問題となる。本稿は憲法学の議論が不足してはいるものの,憲法は白紙であるという議論から出発し,さらに条文解釈を行った結果,合憲であると結論づけた。
一方,行政訴訟制度は機能不全に陥っているため,その原因を探るとともに,今回の改正での改善点を検討した。また,行政救済全体を参考にするために,行政権への国民参加を検討し,情報公開審査会の有効性を証明した。
しかし,行政一般に関する紛争では,行政権に所属する組織では限界があるとわかり,やはり司法への国民参加として裁判員制度の必要性を主張するに至った。そのメリットは,国民の社会常識の反映,訴訟要件や保護範囲などの法律の規定の限界をどう解釈するかに国民の意識を取り入れることで解釈が緩和すること,国民が入ることでの裁判所組織の変革である。そして,これとともに行政法を専門的に扱える裁判官の増員も必要である。 - 自治体行政における行政契約の役割―まちづくり協定―(古賀智子)
社会全体が成熟し,市民のニーズが多様化・多元化する一方,都市計画は新たな段階 を迎えている。これまでの経済成長に支えられた大幅な開発利益や公共投資に頼る都市計画が通用しなくなった今,住民自らが「投資に値する」と判断できる市街地を作ることが必須であり,市町村・住民・企業がまちの将来像に関して合意し,「参加型まちづくり」が本格化することが望まれるにいたっている。その結果,都市計画の主体としてより住民に近い自治体の活躍が認められるようになり,「まちづくり」の担い手として住民自らが計画策定に参加する手段が拡充されつつあるが,それらはどれも場当たり的である印象が否めない。そのような状況下で活用されているのが協定方式であり,住民と行政とが合意形成に携わることで住民参加,住民ニーズの把握を推進するものである。
今回はこのまちづくり(まちなみ形成,住環境保全)に関する場面での協定方式の活用に焦点を当て,実際の福岡市の運用に関するヒアリングを中心に制度的・法的問題点を再確認する。建築協定と地区計画の制度比較や使い分けの実際,建築協定の法的性質についての議論をもとに,そこから協定方式の意義を見出し,今後の活用とよりよいまちづくりのあり方について若干の考察を加えることとする。 - 地球温暖化問題―排出量取引について―(野邊文香)
この論文では,地球温暖化対策について排出量取引を中心に検討した。
これまで地球温暖化についてさまざまな取り組みが行われてきたが,依然として温室効果ガスの排出量は1990年比で7.6%上昇しており(2002年度),京都議定書の目標達成は疑問視されている。地球温暖化問題の不確実なリスク,規模の大きさなをど考慮すると,今後は,経済的手法の中でも費用効率性の高い市場メカニズムを利用する手法の活用が重要になってくる。
その中でも排出量取引は京都議定書にも採用され,制度の柔軟性や利潤創出の可能性からも注目を集めている。排出量取引の最大の利点は,市場原理を導入することで排出量の削減費用を低減しながら,排出量の削減も実効的に行うことができる点である。
一方で,制度設計やモニタリングの難しさなどが問題であり,海外の導入事例についての検討や,実験的取り組みが必要である。すでに海外では,いくつかの排出量取引制度がスタートしている。その中でも,世界ではじめて産業全体をカバーする温室効果ガスの排出量取引を導入したイギリスの制度についてとりあげ,その特徴や問題点を検討した。
そして最後に,国内への排出量取引制度の導入については,排出源を広くカバーするため排出量取引と税を組み合わせた手法を提案する。今後は,これまでのような産業界中心の政策に加えて,この提案のように私たちひとりひとりが地球温暖化問題に取り組むことのできる対策が必要であると考える。 - わが国の初等・中等教育について(杉野綾子)
教育政策や教育に対する考え方・態度は,非常に世論や社会の影響を受けやすい。それは,教育が次代を担う人材をつくり出すものである以上,今後社会がどのような人材を必要としているのか,私たちが未来に向かって身につけていくべき力とは何なのかが,今,国民に必要とされている教育とは何かを大きく決定づけるからである。一方で教育にはいつの時代も変わらない普遍的部分も存在している。
そこで,私は,今回,このゼミ論文を通してわが国の教育政策について考えてみることにした。ここで「教育」と一言でいっても,その範囲は非常に広いのであるが今回は特に学校教育に焦点をあてている。
まず,第1章ではわが国の教育政策がどのように進められてきたのか,そして,今,何を目指して進んでいるのかを見ていく。次に,第2章で,近年わが国の教育政策に影響を与え続けてきた「学力低下論」について述べ,最後に学力低下論争がもたらしたものとして「習熟度別指導」について考察していきたいと思う。しかしながら,現在,わが国の教育政策は,この両者のバランスを見失ってしまっているように思う。学校教育が,学ぶことの楽しさを教える場であるためにはどうあるべきか,自分なりの答えを見つけていきたい。 - 21世紀型地域社会の構築(高瀬祥子)
この論文では,教育行政の義務教育に焦点を絞って書いている。現在財政状況の悪化と共に,政治改革,行政改革が進行し,その波は教育行政の分野にも訪れている。今まではまるで聖域のようであった教育行政にも市民のニーズへの対応や採算性・説明責任といったことが求められるようになってきているのである。そのような改革によって子供達や市民をよりよい方向に導くために,今回の行政改革がどのようなものであり,また今後どうなっていくべきなのかを考えた。第1章では現在に至るまでの教育制度について学び,日本が今までどのような理念と状況のもとで教育改革を行ってきたのかを理解した。第2章では教育財政制度についてとりあげ,現在進行中の教育財政改革と教育制度改革が切り離せない関係にあることがわかった。第3章では現在の教育行政改革について自治体の活動にも触れながらのべ,第4章ではそれを踏まえて今後の展望として考えなければならない問題について述べた。 - 民事不介入(山口悠紀)
民事不介入の原則とは,誰もが知っている言葉である。しかし,この言葉とは裏腹に,近年,ストーカー事件や家庭内暴力事件が増加し,警察が民事に介入する機会が増えている。一体,民事不介入原則とは何なのであろうか。今回の論文は,この素朴な疑問から出発し,今後の民事不介入原則のあり方を探るものである。
論文の内容は,以下の通りである。第1章では,伝統的な行政法の理論を基に,民事不介入原則がどのようにして成立したかを調査し,それによって,この原則が必ずしも普遍の原理ではないということを述べる。第2章では,民事不介入原則に対する警察実務の態度の変遷を追うとともに,現代社会で起こっている民事不介入原則が問題となる事案についても研究する。最後に,第3章では,第1章・第2章を踏まえ,今後の民事不介入原則のあり方を考える。具体的には,民事不介入原則の意義とデメリットを,理論上・実態上に分けて論じて,デメリットが多いことを証明する。その上で,民事不介入原則の意義は比例原則でカバーできることから,この原則は廃止すべきであると提案する。さらに,民事不介入原則の廃止案が,公法私法二元論に与える影響についても考察している。 - 都市再整備と住民(梅丸裕子)
この論文は,地域に根付いた中小商店街の活性化策を考察したものである。商店街の類型,あるいは同じ類型でも周辺環境の違いによって,商店街の姿は全く異なる。この論文では日常生活に密着した地元商店街を考察対象とし,論じ挙げた。まず小売業の形態の変遷,小売業への行政介入の法制度を学んだ上で,実際の事例を上げながら商店街の現状を検討した。商店街から大規模店舗へ,人の流れが移り変わってしまったことが,地元商店街の衰退の大きな要因となっていることが挙げられ,商店街に活気を取り戻すための法制度を概観した。消費者が考える,商店街の利点と,商店街側が考える商店街の利点の食い違いがあることを示すデータを取り上げ,商店街が消費者のニーズ,意向を把握できていない現実が判明した。商店街が消費者ニーズを分析し,今までどおりの営業手段では今以上の環境は望めないことを指摘し,消費者の目線からの商業を営む必要性を述べた。現在ある商店街活性化策を概観した上で,新しく地域通貨導入と都道府県条例の制定という提案をした。府県条例は,行政の支援と商店街の取り組みを広域的に調整するシステムの提案となっている。今後商店街には,少子高齢化社会を支える,新しい時代を担う機能を期待したいとして,論文を締めくくった。 - 治安を守る行政法(福本典子)
近年,昔から「安全な国」と呼ばれていた日本に危機が訪れている。毎日流れる犯罪ニュースはもはや人事ではなくなり,日本国民は治安に対して大きな不安を感じ始めている。 そのような社会情勢の中で執筆した本論文「治安を守る行政法」とは,「防犯」という題材を用い,今まで学んできた行政法のアプローチを試みようとするものである。行政法の手法で日本の治安は守っていけるのか,安全な社会を構築できるのかについての考察を行っていく。
その中で,キーワードは「環境」である。つまり,犯罪防止の方法として,犯罪者の逮捕,教育等ではなく,犯罪者が犯罪を起こさない,起こせない「環境」を整備することに着目していく。 その防犯のための「環境」の要素は3つある。それは,「物」,「人」そして「情報」である。まず「物」については,物理的な環境を整えることで防犯を行う「防犯環境設計」を取り上げ,行政契約や行政計画(都市計画,地区計画)を用いてのシステム作りを行う。次に「人」の要素では,「地域安全活動」と題し,住民や地域組織主導の下,行政,警察,民間企業(事業者)等が協働して防犯活動を行える制度を考える。 最後に「情報」については,犯罪に関する情報の中でも「安全情報」と呼ぶ類型のものに絞り,情報の取り扱い(公開,提供,保護)について模索する。ここでは,近年注目されている防犯カメラの問題も取り扱う。 論文のまとめとしては,先進的な例を踏まえながら独自の提案を盛り込む形で条文の作成を試みる。 - 景観保護(木村真理子)
戦後の成長時代には,大量の需要を満たすために急速な都市化が求められ,景観の視点が入る余裕がなかったが,近年では,美しい街並みなど良好な景観への関心が高まり,都市に求める価値は転換期を迎えようとしている。景観法制定以前の景観関係法制は,転換期に対応できるだけの十分な内容とはなっていなかった。そのため,景観を形成・保護したい地域住民と開発行為に乗り出すマンション事業者との間でしばしば紛争が発生した。
本稿では,景観の形成・保護を図るためには,どのような法制度を活用すべきか,また,景観が侵害された場合には,司法判断での救済を図ることができるのかなどを検討していった。第1章では,景観法制定以前の都市計画法制,文化財保護法制,自然景観保護法制そして条例の問題点について把握した。第2章では,景観を巡る今までの判決を調査し,司法判断において景観が法的保護に値する利益であるか,そして,景観の侵害に対して差止,損害賠償請求が認められるか否かを検討した。第3章では,昨年度制定された景観法において創設された制度や景観法に規定された景観形成・保護に対する住民参加のあり方について検討した。第4章では,景観を阻害する大きな要因の一つである屋外広告物の規制について改正屋外広告物法を基に検討した。 - 危機管理体制の発展の軌跡と今後―新潟県中越地震で試された日本の危機管理能力―(藤澤義貴)
2004年は災害の年とも呼ばれるほど,豪雨被害や台風被害が相次いで発生し数多くの人命と財産が失われた。そして,10月23日,新潟県中越地方を震度7クラスの地震が襲う。
阪神淡路大震災では6400名の人命が犠牲になるなど,10年たった今でも住民の方々に残した傷跡はいえていないという。私達は,この10年何を学んできたのだろうか。この論文は,新潟県中越地震での政府の対応などに焦点を当てて,危機管理体制の整備がどの程度進んだのかを検証してみたい。
第1章では,日本の危機管理体制の構築と題して災害対策基本法の仕組みや内閣の機能強化について検討を加えている。災害対策基本法は,ネットワークを志向した制度設計でできており,既存の行政機関の機能を防災会議で調整する形を採用している。また,内閣の機能強化の点では,内閣に危機管理センターが新設され,24時間監視体制が整備されるなど,危機管理に対する初動体制が整備された。
第2章は,新潟県中越地震の記録をもとに,阪神淡路大震災と比較して,どの程度初動体制の構築が進んだのかを検証している。新設された緊急消防援助隊などを始め,広域から被災地を支援する仕組みは,かなり整備されており,自衛隊が情報収集をすることすらスムーズにいかなかった状況に大きな改善が見られた。
第3章は,国民保護法との比較である。自然災害と類似する点が多い中,国民保護法が定めた国民保護計画との差異を検討した。
ゼミ参加者
- 幹事:山口悠紀(4年生),梅丸裕子(4年生)
- 4年生:梅丸裕子,木村真理子,清見太一,古賀智子,菅原礼,杉野綾子,高瀬祥子,中山明子,西田香菜,野邉文香,福本典子,藤澤義貴,堀之内豊,宮崎智恵,山口悠紀