例解 行政法
10月25日に東京大学出版会『例解 行政法』を出版させていただきました。本書は,近時刊行がなされてこなかった行政法各論を中心とする単著の基本書で,第2部において4つの参照領域(租税法[税法]・社会保障法・環境法・都市法)を取り上げています。また,第1部では行政法総論の概要(行政過程論・行政救済論)をコンパクトに説明しています。本書の構成や刊行に至った経緯については,本書の「はしがき」「本書のねらいと学習方法」に書かせて頂いています。
行政法を学び始めた学部2年生の頃,行政法は難解でつかみどころがないという印象を持っていました。そう感じた理由はおそらく2つありました。1つは,行政法総論の全体像を把握するのが難しいということでした。当時は行為形式論で行政過程論を説明することが今ほど一般的ではなく,基本書によって行政法総論の目次自体がばらばらでした。体系論をどのように組み立てるか自体に論争があるのは理論的には興味深いですが,行政法を勉強し始めた学部生にとっては何やら敷居が高いように感じられました。もう1つは,行政法の授業を聞いても具体的な行政法規を読解する力が付いた実感が涌かなかったことです。行政法の授業では具体的な行政法令の共通要素を取り出して説明するため,具体例としてある法制度のごく一部がしばしば切り出されます。その部分のみは理解できますが,そのしくみが埋め込まれた法制度が全体としてどうなっているのかはよく分かりませんでした。
本書は,こうした初学者の段階での経験を踏まえ,行政法を分かりやすく説明するのはどうすればよいか試行錯誤する中で生まれました。第1の,全体像の把握については,自分自身が学習していた当時には高木光先生の『ライブ行政法』や石川敏行先生の『はじめて学ぶプロゼミ行政法』があり,こうした入門書の力を借りて行政法の全体像を何とか把握し,基本書を曲がりなりにも読み進めることができる基礎的な知識を得ていました。これらはいずれも現在においても秀逸な入門書ですが,どちらも改訂がなされておらず,現在の初学者には勧めづらくなっています。そこで本書第1部では,行政過程論・行政救済論の現在の輪郭をなるべくシンプルに説明することにしました。また図解を多用し,行政法の複雑な構造をなるべく視覚的に捉えてもらえるように工夫しました。頁数の制約から詳しい説明をすることはできませんでしたが,この点については現在出版されている行政法総論の基本書との併読を前提に執筆しています。
第2の,具体的な行政法規の読解力を獲得するには,いくつかのステップが必要になります。まず,行政法規の文法というべき行政法総論の知識が必要です。しかしそれだけでは読解力は身につきません。英語の読解においても単語・イディオムの理解に加え,テキストの背景知識を知っておくことが重要であることは,しばしば指摘されます。行政法規の読解もそれと同じであり,単語・イディオムにあたる個別法分野の概念・基本用語の理解や,背景知識にあたる個別法分野の基本原則・基本構造・典型的な法的しくみの理解が求められると思います。本書第2部ではこうした諸要素を4つの分野にわたって説明することで,具体的な行政法規の読解力の獲得を図ろうとしています。
本書は2006年度以降に九州大学法学部・同法務学府(法科大学院)・京都大学法科大学院で開講してきた授業の実践をまとめたものであり,試行錯誤の中間総括としての性格も持っています。行政法総論だけでなく,4つの法分野もカバーすることは困難な作業であり,思わぬ誤解もあろうかと思います。お気づきの点をご指摘頂ければ大変ありがたく存じます。また,本書の刊行を区切りとして,新たな授業実践にも取り組みたいと考えています。
本書の刊行にあたり,東京大学出版会の山田秀樹さんに大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。
補遺(行政不服申立)
2014年に改正された行政不服審査法に対応する補遺を公開します。『例解 行政法』の89~97頁と208~209頁(■国税不服審判の特色)に対応する部分全てが含まれます。
引用している教科書の改訂等に応じて,今後とも補遺のファイルのアップデートを行う予定です。
正誤表
これまでに確認できた誤植は以下の通りです。大変お手数をおかけしますが,訂正をお願い致します。増刷時にこれらの点を修正したいと思います。
頁数 | 行数 | 誤 | 正 |
---|---|---|---|
xx頁 | 12行目 | 木村琢磨『プラクティス行政法』(信山社・2010年) | 木村琢麿『プラクティス行政法』(信山社・2010年) |
xxi頁 | 2行目 | 有斐閣 | 弘文堂 |
xxii頁 | 3行目 | 日本評論社 | 弘文堂 |
41頁 | 下から4行目 | 決済 | 決裁 |
223頁 | 下から13行目 | 『租税行政と権利保障』 | 『租税行政と権利保護』 |
277頁 | 7行目 | 併合提起し,仮の義務付けを求めた | 併合提起した |
294頁 | 下から2行目 | Xがこの処分の違法性をどのように主張すればよいか検討しなさい。 | この処分の違法性主張の内容を検討しなさい。 |
314頁 | 下から3行目 | 95頁。1010 | 95頁。 |
316頁 | 8行目 | X市に転入 | Y県X市に転入 |
371頁 | 下から10行目 | 経済産業省 | 資源エネルギー庁(同省の外局) |
467頁 | 10行目 | X市は | Y市は |
467頁 | 12行目 | 対象区域内のマンション | 対象区域内の高さ30mのマンション |
495頁 | 下から1行目 | 2つが規定されている | 2つが条例で規定されている |
500頁 | 下から1行目 | Aは住居地域内の自己所有地に | Aは自己所有地に |
刊行後の出版・改訂等に伴う引用情報の変更は以下の通りです。増刷時にこれらの点を修正したいと思います。
頁数 | 行数 | 刊行時の引用情報 | 最新の引用情報 |
---|---|---|---|
xix頁 | 8行目 | 藤田宙靖『行政法入門[第5版]』(有斐閣・2006年) | 藤田宙靖『行政法入門[第6版]』(有斐閣・2013年) |
xix頁 | 15行目 | 大橋洋一『行政法Ⅰ 現代行政過程論』(有斐閣・2009年) | 大橋洋一『行政法Ⅰ 現代行政過程論[第2版]』(有斐閣・2013年) |
xix頁 | 下から4行目 | 藤田・Ⅰ 藤田宙靖『第4版行政法Ⅰ(総論)[改訂版]』(青林書院・2005年) |
藤田・総論 藤田宙靖『行政法総論』(青林書院・2013年) |
xxi頁 | 2行目 | CB 高木光=稲葉馨編『ケースブック行政法[第4版]』 |
CB 稲葉馨他編『ケースブック行政法[第5版]』(弘文堂・2014年) |
xxi頁 | 12行目 | 谷口勢津夫『税法基本講義[第3版]』(弘文堂・2012年) |
谷口勢津夫『税法基本講義[第5版]』(弘文堂・2016年) |
xxi頁 | 下から3行目 | 西村健一郎『社会保障法入門』(有斐閣・2008年) | 西村健一郎『社会保障法入門[第2版]』(有斐閣・2014年) |
8頁 | 14行目 | 藤田・Ⅰ15頁以下 |
藤田・総論16頁以下 |
14頁 | 10行目 | 藤田・Ⅰ86頁 |
藤田・総論88頁 |
14頁 | 下から2行目 | 大橋・Ⅰ34頁 |
大橋・Ⅰ36頁 |
20頁 | 25 | CB1-9 |
CB1-8 |
21頁 | 6行目 | 大橋・Ⅰ56頁 |
大橋・Ⅰ71頁 |
25頁 | 4行目 | 大橋・Ⅰ77頁 |
大橋・Ⅰ86頁 |
32頁 | 下から11行目 | 大橋・Ⅰ211頁 |
大橋・Ⅰ401頁 |
36頁 | 16行目 | 大橋・Ⅰ246頁 |
大橋・Ⅰ436頁 |
39頁 | 9行目 | 判Ⅰ111/118 |
判Ⅰ111/118 CB3-9 |
50頁 | 4行目 | 藤田・Ⅰ20頁 |
藤田・総論21頁 |
52頁 | 下から8行目 | CB1-6 |
CB1-5 |
52頁 | 下から5行目 | CB1-7 |
CB1-6 |
53頁 | 6行目 | CB1-10 |
CB1-9 |
53頁 | 9行目 | 判Ⅰ177 |
判Ⅰ177 CB1-10 |
56頁 | 下から9行目 | 大橋・Ⅰ308頁 |
大橋・Ⅰ177頁 |
57頁 | 下から9行目 | 大橋・Ⅰ26頁 |
大橋・Ⅰ27頁 |
59頁 | 1行目 | 判Ⅱ161 |
判Ⅱ161 CB2-10 |
59頁 | 下から9行目 | 判Ⅱ75 | 判Ⅱ75 CB2-9 |
64頁 | 下から5行目 | 大橋・Ⅰ331頁 |
大橋・Ⅰ204頁 |
65頁 | 1行目 | 藤田・Ⅰ109頁 |
藤田・総論96頁 |
65頁 | 下から3行目 | 大橋・Ⅰ334頁 |
大橋・Ⅰ207頁 |
85頁 | 4行目 | 曽和俊文「行政法の全体的なイメージ」法学教室367号(2011年)59~66頁 |
曽和俊文「行政法の特色(1)行政法の全体的なイメージ」同『行政法総論を学ぶ』(有斐閣・2014年)1~14頁 |
85頁 | 下から12行目 | 深澤龍一郎「行政基準」法学教室373号(2011年)17~22頁 | 深澤龍一郎「行政基準」同『裁量統制の法理と展開』(信山社・2013年)141~154頁[初出2011年] |
100頁 | 9行目 | 藤田・入門114頁 | 藤田・入門117頁 |
106頁 | 下から10行目 | CB18-9 | CB18-10 |
112頁 | 下から8行目 | 判Ⅱ45 | 判Ⅱ45 CB12-12 |
117頁 | 14行目 | 藤田・Ⅰ446頁 |
藤田・総論480頁 |
123頁 | 下から4行目 | 藤田・Ⅰ451頁 |
藤田・総論491頁 |
129頁 | 下から4行目 | 判Ⅱ59 |
判Ⅱ59 CB15-6 |
132頁 | 4行目 | CB16-7 |
CB16-5 |
138頁 | 下から6行目 | CB16-4 |
CB16-3 |
143頁 | 下から10行目 | CB18-11 |
CB18-12 |
145頁 | 6行目 | CB18-12 |
CB18-13 |
146頁 | 1行目 | CB18-13 |
CB18-14 |
148頁 | 7行目 | CB18-8 |
CB18-9 |
149頁 | 5行目 | CB18-7 |
CB18-8 |
149頁 | 5行目 | 判Ⅱ161 |
判Ⅱ161 CB2-10 |
153頁 | 下から1行目 | CB18-14 |
CB18-15 |
176頁 | 下から9行目 | 谷口391頁 |
谷口404頁 |
178頁 | 6行目 | 谷口117頁 |
谷口116頁 |
179頁 | 下から6行目 | 谷口121頁 |
谷口122頁 |
181頁 | 4行目 | 谷口64頁 |
谷口65頁 |
181頁 | 下から6行目 | 谷口27頁 |
谷口26頁 |
186頁 | 下から5行目 | 谷口35頁 |
谷口36頁 |
189頁 | 下から1行目 | 谷口343頁以下 |
谷口353頁以下 |
196頁 | 3行目 | 谷口114頁 |
谷口115頁 |
200頁 | 11行目 | 谷口131頁 |
谷口133頁 |
202頁 | 7行目 | 谷口143頁 |
谷口153頁 |
203頁 | 下から3行目 | 谷口161頁 |
谷口164頁 |
204頁 | 5行目 | 判Ⅰ111/118 |
判Ⅰ111/118 CB3-9 |
206頁 | 17行目 | 谷口159頁 |
谷口161頁 |
207頁 | 13行目 | 谷口91頁 |
谷口91頁(※第4版では89頁) |
221頁 | 4行目 | 大橋・Ⅰ155頁 | 大橋・Ⅰ364頁 |
224頁 | 8行目 | 渕圭吾「租税法と私法の関係」学習院大学法学会雑誌(学習院大学)44巻2号(2009年)13~48頁 | 渕圭吾「租税法と私法の関係」同『所得課税の国際的側面』(有斐閣・2016年)309-341頁[初出2009年] |
265頁 | 下から6行目 | 大橋・Ⅰ54頁 | 大橋・Ⅰ139頁 |
283頁 | 3行目 | 西村・入門77頁 | 西村・入門85頁 |
291頁 | 8行目 | CB1-7 | CB1-6 |
292頁 | 下から10行目 | 西村・入門72頁 | 西村・入門102頁 |
299頁 | 4行目 | CB18-10 | CB18-11 |
300頁 | 2行目 | 大橋・Ⅰ238頁 | 大橋・Ⅰ428頁 |
310頁 | 註96) 2行目 | CB10-7 | CB10-6 |
330頁 | 13行目 | 西村・入門112頁 | 西村・入門125頁 |
333頁 | 2行目 | CB18-13 | CB18-14 |
333頁 | 下から3行目 | 板垣勝彦「保障行政の法理論(8・完)」法学協会雑誌(東京大学)128巻8号(2011年)1951-2034(2011-2017頁) | 板垣勝彦『保障行政の法理論』(弘文堂・2013年)543-548頁[初出2011年] |
368頁 | 下から7行目 | 通知には処分性が認められる( | 通知には処分性が認められる(CB11-17 |
383頁 | 7行目 | CB16-6 | (削除) |
459頁 | 12行目 | CB18-12 | CB18-13 |
465頁 | 5行目 | CB15-6 | CB15-4 |
刊行後の法改正等に伴う変更箇所は以下の通りです。
頁数 | 行数 | 刊行時 | 改正後 |
---|---|---|---|
182頁 | 下から15行目 | 裁時1576号2頁 | 民集67巻3号375頁 |
268頁 | 下から8行目 | 同法24条2,3項 | 同法24条4,5項 |
269頁 | 3行目 | 同条4項 | 同条7項 |
270頁 | 13行目 | 生活保護法28条4項 | 生活保護法28条5項 |
271頁 | 8行目 | 生活保護法24条1項 | 生活保護法24条3項 |
276頁 | 3行目 | 2013年の生活保護法改正案には,就労自立給付金制度が含まれていた。 | 2013年の生活保護法改正で,就労自立給付金制度が導入された(同法55条の4)。 |
276頁 | 7行目 | 目的としたものであった | 目的としたものである |
282頁 | 14行目 | 2015年10月から | 2017年4月から(※消費税10%引き上げ時期の延長に伴うもの) |
2013.10.25 | Comments(0) | Trackback(0)
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