公共紛争解決の基礎理論
『公共紛争解決の基礎理論』と題する論文集を,弘文堂より出版させていただきました。伝統ある『行政法研究双書』の40巻目に加えていただきました。
本書は,国家がこれまでになってきた作用が私人に委ねられたり(複線化),国際機構や自治組織に拡散したり(多層化)する現状を『多元的システム』の概念で把握した上で,行政法学の変容可能性を主として制度設計論の観点から模索した『公共制度設計の基礎理論』の続編として,行政救済法の分野でこのような見方を用いた場合に,どのような理論的変革が要請されるかを検討したものです。全体は2部構成で,合計7章からなります。構成は,行政救済法の基本書・体系書とほぼ同じですが,その中に上記の問題意識からの論攷を整理することで,理論的なインパクトを印象づけることができればと考えました。2014年から2021年までに公表された行政救済法に関連する論文をベースに,関連するものを一本化したり,初出時に十分でなかった言及を追加したり,最新の文献までの引用に改めたりしています。
本書の刊行にあたっても,塩野宏先生と,弘文堂の北川陽子さんに大変お世話になりました。また,本書刊行に際して,科学研究費JP21HP5106(研究成果公開促進費)を利用させて頂きました。ありがとうございました。
本書の構成と,初出論文との対応関係は以下の通りとなっています。
はじめに 本書の問題意識──「公共紛争解決」とは何か
(書き下ろし)
第1部 行政争訟
第1章 行政上の不服申立て
第1節 行政不服審査法の改革
「総括コメント【個別行政法からみた行政争訟制度のあり方(2)】」自治研究95巻3号(2019年)27-34頁
第2節 行政不服審査会の機能―特別弔慰金を受ける権利
「特別弔慰金を受ける権利」論究ジュリスト32号(2020年)104-108頁
第2章 行政事件と民事事件
第1節 行政訴訟と民事訴訟
「行政訴訟と民事訴訟」自治研究93巻11号(2017年)44-63頁
第2節 団体訴訟の制度設計
「団体訴訟の制度設計──特定商取引法を具体例として」論究ジュリスト12号(2015年)150-155頁
第3節 団体訴訟の実際―消費者契約法の「勧誘」要件
「新聞折込チラシと消費者契約法の『勧誘』」メディア法判例百選[第2版](2018年)134-135頁
第4節 国際消費者法への展望
「国際消費者法への展望」浅野有紀他編『グローバル化と公法・私法関係の再編』(弘文堂・2015年)282-300頁
第3章 行政事件と刑事事件
第1節 行政法学から見た強制処分法定主義
「行政法学から見た強制処分法定主義」犯罪と刑罰29号(2020年)93-108頁
第2節 警察法学の発展可能性
「警察法学の発展可能性」大橋洋一=仲野武志編『法執行システムと行政訴訟』(弘文堂・2020年)179-199頁
第4章 行政訴訟の訴訟要件
第1節 行政訴訟の諸問題―生活保護法を具体例として
「『生活保護法』の適用」法学教室408号(2014年)29-34頁
第2節 処分性論の現在―社会保障法を素材として
「行政法解釈と社会保障制度」社会保障法研究8号(2018年)43-66頁
第3節 訴訟類型論の現在―処分なき行政訴訟の理論的課題
「処分なき行政訴訟の理論的課題」法学論叢(京都大学)186巻5=6号(2020年)107-144頁
第4節 原告適格論の現在―環境法を素材として
「産業廃棄物処理施設の設置許可申請者が県条例に定める周辺住民への周知義務を履行しなかったとしても,廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適正配慮要件・設置許可取消事由に該当するものではないとして,その取消処分を取り消した環境大臣の裁決の取消請求が棄却された事例(名古屋高判平30・4・13)」判例評論732号(2020年)169-175頁
第5節 訴えの利益論の現在―じん肺管理区分決定の法的性格
「じん肺管理区分決定の法的性格」行政法研究24号(2018年)139-151頁
第5章 行政訴訟の審理と判決効
第1節 行政訴訟の審理と法の一般原則
「平等原則と比例原則」法律時報90巻8号(2018年)16-21頁
第2節 行政訴訟の審理と行政裁量
「本案審理の充実に向けて」判例時報2308号(2016年)13-18頁(*脚註を完全版に変更)
第3節 政策実現過程のグローバル化と行政争訟
「政策実現過程のグローバル化と日本法の将来」浅野有紀他編『政策実現過程のグローバル化』(弘文堂・2019年)351-376頁
第2部 国家補償
第6章 国家賠償
第1節 グローバル化時代の公法・私法関係論
「グローバル化時代の公法・私法関係論──ドイツ「国際的行政法」論を手がかりとして」社会科学研究(東京大学)65巻2号(2014年)9-33頁
第2節 投資協定仲裁と国家賠償
「投資協定仲裁と行政救済法理論」社会科学研究(東京大学)69巻1号(2018年)177-201頁
第7章 損失補償
第1節 投資協定仲裁と損失補償
「投資協定仲裁と損失補償」『エネルギー資源確保に関する国内外の法的問題の諸相』(日本エネルギー法研究所・2021年)所収(2016年脱稿)
第2節 所有権の内在的制約論の発展可能性
「所有権の内在的制約(上)(下)」NBL1122号(2018年)28-38頁,1124号58-66頁
2021.12.12 | Comments(0) | Trackback(0)
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