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第29回 ゼミ論文発表会

今年度の最終回となった今回のゼミでは,ゼミ論文発表会が行われました。

提出された論文の要約は以下の通りです。

○「自炊」からの権利者保護制度(秋吉)

昨今「自炊」が流行している。「自炊」とは書籍を裁断しバラバラにし,スキャナを通しデジタルデータ化する行為である。この自炊行為については私的利用の範囲において,自らが行うのであれば例外的に複製権の侵害とならず,無許諾で行いえるのが原則である(著作権法30条1項)。しかしここに業者(自炊支援事業者)が関与すると当該複製を行う主体は業者ということになり自炊支援業者の複製権侵害となる可能性が高い。では自炊支援事業者を存続させていくことはできないのであろうか。本稿ではこの自炊支援事業者について,著作権者の保護を別途図ることによって自炊支援業者を認めていくことはできないか,その方策を探るものである。また自炊行為そのものについては現行法上適法なものであるが,その行為が著作者に与える影響は,大きいものといえる。したがって通常の自炊からも著作権者のこれまでの利益を確保することも不可欠であろう。本稿ではこの自炊行為からの権利者保護制度もあわせて検討を加えた。本稿での一応の結論としては,自炊支援業者を届出制のもと,行政の監督下に置き,現在ある私的録音録画金制度類似の制度を自炊支援業者について導入し,自炊については補助金による助成を行うのが良いのではないかと考える。

○政党助成制度に関する憲法上の要請の内実(棚町)

わが国では,「政治改革」の一部として政党助成制度が導入されて以来,当該制度に対してさまざまな憲法上の問題点が指摘されてきた。たとえば,政党助成制度は政党の「私的な結社」としての性格を侵害しうる,政党助成制度は憲法の平等原則に反する,などの点がそれである。このような問題を考えるにあたっては,ドイツの連邦憲法裁判所の判例理論が一つの参考となりうる。これを参照するにあたっては,ドイツ基本法が政党の憲法上の地位について規定している点で政党はその公的性格を基本法上承認されており,この点において,政党に関する明文の規定を持たないわが国とのあいだに決定的な差異が生じうる点に注意しなければならない。しかし,連邦憲法裁判所の1992年判決が「政党の国家からの自由」という性格を重視した判断を下しているように,政党は,憲法に編入されてもなお,本来的には私的な性格を有するものと捉えられる限りにおいて,ドイツとわが国とに決定的な差異はないといえるであろう。とりわけ92年判決が示した政党助成制度に関する憲法的要請については,わが国においても具体的な制度設計における一つの指針となりうる。議論をわが国に戻すと,わが国の政党助成制度は,政党の国家からの自由(結社の自由),民主政の原理,平等原則などの観点からみて違憲の疑いがあるといわなければならない。わが国の憲法は,政党助成制度に関していえば,政党を実質的に国家機関化するほどの過度な資金助成を禁じ,平等原則にしたがって自由で開かれた政治的競争を保障するような制度であることを要請しているというべきである。かような憲法上の要請を実際の制度設計の場において具体化しようとするならば,現行の制度を軸に考えた場合の改善点としては,現職の国会議員を有することを必要条件とする現在の「政党」の要件を緩和すること,配分基準を比例代表選挙における得票率に一元化すること,政党交付金に関する一定の上限額を設定すべきことなどを挙げることができる。

○法科大学院の認証評価制度(小磯)

「法科大学院の認証評価制度」は,大学院の教育活動の水準の維持向上を目的として導入された制度である。この認証制度は,国家による事前規制・監督といった手法ではなく,第三者が事後的に教育活動をチェックするという「自主規制」としての制度であり,従来の教育活動への介入に比べて,柔軟で個別的なチェックが可能となっている。  しかしながら,このような特徴を持つ制度であるはずの認証評価制度が,今日においてさまざまな問題が表れ始めている。すなわち,最低基準遵守の偏重と自己点検評価の機能不全である。詳述すれば,評価機関としては「適格認定」を担保として基準の順守を求めている一方で,各大学側の独自の工夫・個性を伸長しようとする動きが見られないことと,自己点検評価が「認証評価」の重要な地位を占めるにもかかわらず,この点検書の提出が形骸化しつつあるという指摘である。  この問題点に関し,本稿は2つの解決策を講じることとした。一つは,評価基準の2分化であり,いま一つは,自己点制度の創設である。「評価基準の2分化」とは,各評価機関の評価基準を法令由来で「適格認定」判断としての基準である「消極的評価基準」と,各大学院の独自の工夫を評価する「積極的評価基準」に2分し,前者については原則法令由来のものに限ることとすることである。この手法により,「消極的評価基準」については公法上の諸原則が及び,その介入は厳格に統制されることとなる。そして「自己点検制度の創設」とは,認証評価制度の枠組みの中に「自己点検評価」制度を取り込み,各大学にどのようなことを行うべきなのかを明確に示すことが必要であるとの主張である。また大学院教員の負担軽減のためには,学内にアメリカのIRのような常設組織を置くことで解決が図れるのではないかと考える。

○ツアーバスの功罪(加藤)

今日,格安高速バスが台頭している。この格安バスは「ツアーバス」と呼ばれ旅行業法の規制下にある「募集型企画旅行」である。従来の道路運送法の規制を受ける路線バスとは異なる。この台頭の背景には,道路運送法改正による規制緩和がある。従来は参入規制をすることで需給調整を行なっていたが,改正により新規参入を促進し競争原理を取り入れた。この規制緩和により,参入への障壁が路線バスに比べて低い貸切バス業界への参入が活発になった。この増加した貸切バスを旅行業者が「ツアーバス」として活用しているのだ。問題点としては,適用される法律の違いによる規制のレベルの差による問題とツアーバスの安全性への疑問がある。規制のレベルの違いとは,路線バスが路線計画の届出義務があるのに対してツアーバスはツアーとして自由に運行ができるということなどである。一方安全性の問題とは,コスト削減の為の労働環境の悪化,バス停が設置できないツアーバスによる路上駐車,無理なダイヤによる制限速度違反などが挙げられる。このような弊害があるものの,ツアーバスは高速バス業界の発展に寄与した。単に安さだけを追求するだけではなく,サービス面で創意工夫を凝らしている。それに高速路線バス側も対抗し,高速バス業界全体のサービス競合が達成されている。ツアーバスの弊害の是正のために国は「新高速乗合バス事業」という枠組みを2012年3月までにまとめるとしている。乗合バス事業を自社保有の車両を使うだけではなく,外部の車両や運転手に委託して運行ができるようにするという形である。この枠組を含めて,ツアーバスの利点を生かしながら,問題点を解消することで高速バス業界全体の発展が望まれる。

○都市部における待機児童問題(上山)

本稿は,児童福祉法24条1項のいう「保育に欠ける」状態にあるが,保育所の定員超過などの理由で認可保育所へ入所することができない,いわゆる「待機児童」の問題についてとりあつかうものである。待機児童問題は主に人口の集中する都市部において未だ深刻となっている。待機児童の多い自治体は,問題を解消するために,毎年保育所の定員を拡大しているが,それによって保育に欠ける児童以外の入所も増えてきており,なかなか解消には至っていない。また人件費等のコストが高いといわれる公立保育所を企業等の民間に委託(民営化)することでコスト削減をはかり,その剰余分でさらなる定員の拡大をはかろうとする動きもみられる。しかし,これには問題がある。民営化を極端に推し進めた場合,公立保育所が減り,私立保育所が増えることになるが,経験の浅い保育士が多い私立保育所は「保育しやすい」児童ばかりを入所させ,保育する際に経験やノウハウが必要とされる障害をもった児童や虐待のおそれがある児童は,コストもかかるために公立保育所に偏ってしまう可能性がある。そうすると本来の福祉政策としての保育が縮小してしまうおそれがあるのである。また,待機児童の数を減らすことや,コスト削減ばかりを重視しすぎて,肝心の保育の「質」が低下してしまうおそれも指摘されている。そのような事態は避けなければならず,保育の「質」は維持したうえで,認可外保育所の活用や,東京都のような認証保育所の設置により待機児童数を減らす取り組みが求められている。

○必置規制に対する条例制定権(前原)

大阪府は平成23年の9月議会において「大阪府教育基本条例」を提出した。これが,従来出されるような条例案とは異なり,物議を醸すこととなった。最も多く言われる指摘点としては,従来国の法律によって一種の聖域化されていた地方教育行政に真っ向から切り込んだことが挙げられる。教育関係者はこの点を大きく取り上げて議論している。しかしながら,この条例案について細かく見ていくと条例制定権の範囲の問題としていくつか問題も見えてくる。地方公共団体内の長及び行政委員会の規則制定権との関係等がその例である。その中で教職員の処分に関しての審査基準を条例で定めることが可能であるかという点を具体的に検討していく。 教職員の人事管理については,地方教育行政における組織の設置及び管理に関する法律(以下,地教行法とする。)23条において教育委員会の権限に属する事項とされている。教職員をめぐる法律は地方公務員法,地教行法,教育公務員特例法である。処分に限定すると地方公務員法と地教行法の2つの法律だけである。一般的規定である地方公務員法は公立学校の教職員を特例規定として別の法律で定めるとしていることから,実質的には地教行法によることになる。先に示したように,地教行法は教育委員会を教職員の任免権者としており,その審査基準が本稿の問題である。 審査基準を条例で定めることを否定する学説は「法律の法規創造力」によって許されないとする。つまり,「審査基準」を法律で求めていることまでが当該法律の範囲内である,ということなのである。条例で審査基準を変更することはその意味で,法律に反することになるため許されない。要件・効果の双方を条例によって規定し,条例だけのシステムによって規定をし,それが法律の範囲内かどうか判断すべきであると考えるのである。他方,条例制定権を広く解する立場からは,憲法92条と地方自治法の分権諸原則が条例による地域特性に適合的な対応を保障していることを根拠とする。地方自治法の大原則として分権諸原則を掲げているのであるから,これは最大限尊重されなければならない。そうであるにもかかわらず法律で条令に関する規定を置いていないことは,前提である分担諸原則に立ち戻り認められるのである。自治条例に関する一般的規定が条例制定を想定しており,にもかかわらず法律が条令の規定を置いていないのは,当然条例を予定しているとみるべきである。

○行政型ADRの特徴と機能(安井)

本稿においては,裁判外紛争処理制度(ADR)のなかでも,特に行政機関が主催する行政型ADRに着目して,その特徴や機能を考察している。本稿の構成は,まず,行政型ADRを行う諸機関の制度を紹介している。実際に取り上げたのは,①環境問題に関するもの(公害等調整委員会など),②労働問題に関するもの(労働委員会など),③消費者問題に関するもの(消費生活センターなど),④建築問題に関するもの(建築工事紛争審査会など)である(第1章)。つぎに,ADRの特徴などを見た。具体的には,ADRに共通する特質,特徴を見て,そののちに,スパイクタイヤ粉じん事件を題材にして,行政型ADRの特徴として,特に紛争解決後のルール化機能があることを述べた。その理由は,①行政型ADRが関与する問題は,特に広域的かつ多角的な検討を要する問題になりがちであり,そのような問題においては政策的な判断も求められることがあること,②紛争解決主体が行政機関であるから,他の行政機関との連携がとりやすいことを挙げている(第2章)。最後に,これら行政型ADRの特徴を前提に考察をした場合,ADRの特徴を生かしつつも,その後のルール化機能も行政型ADRの機能のひとつであると結論している。

○再生可能エネルギーの固定価格買取制度(阿部)

日本は2020年までの温室効果ガス削減目標を1990年比で25%削減するとし,この目標を達成するための地球温暖化対策や,エネルギー需要の高まりに伴い,エネルギー自給率を上げる必要に迫られている。地球温暖化やエネルギー自給の問題を解決していくうえで,「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に基づく固定価格買取制度は,必要な制度である。 この固定価格買取制度が,再生可能エネルギーの導入促進という成果をあげる制度であるために,どのような制度設計や運用がなされるべきか考察するにあたって,従来のRPS法下での買取制度,太陽光発電の余剰電力買取制度,そして最も固定価格買取制度が成功し,再生可能エネルギーの導入が進んでいるとされるドイツの制度を取り上げた。 RPS法は,その導入目標の小ささや,費用負担のありかたについて問題があったことから再生可能エネルギーの利用拡大のためには,改正では足りず,制度の変更が必要であり,太陽光発電の余剰電力買取制度については,省エネのインセンティブが望めるため住宅用発電設備については継続され,その他の発電設備については,余剰買取では経済的インセンティブが小さくなるため,固定価格買取制度に移行される。 ドイツの制度については,1990年の電力供給法から再生可能エネルギーの導入促進が始まり,度重なる改正を経て,今日の詳細な制度が構築されている。ドイツの制度とこれから施行される日本の固定価格買取制度での差異は,費用負担や接続義務のように,発送電分離体制と発送電一貫体制の違いから生じるものもあるが,導入目標の明記,買取価格の設定,電力の多消費者への減免措置においてはドイツの制度がより優れていることから,日本の固定価格買取制度でも大いに参考にすべきであり,本法の施行前に見直しが必要であると考える。

○長崎県における市町村合併(田代)

 「市町村を主体とした事務の再配分による地方公共団体の地域行政の自主的かつ総合的な実施」をスローガンに掲げる地方分権改革に伴い,市町村の規模・能力を権限移譲に対応できるように適正化するため市町村合併の積極的な推進が行われた。全国の都道府県で合併が進む中,長崎県では金銭的な合併支援制度の創設など政府や県の働きかけの甲斐もあって平成に入っての市町村数減少率全国第1位の県となった。このように一見すると長崎県では合併が順調に進んでいるように見られたが,県内の市町村では「市町村合併の推進が一部の市町村にとって合併の事実上の強要になっている」「実際に合併した市町村では合併により周辺地域となった地域に配慮した行政運営がなされていない」という2つの大きな問題点が生じている。  一つ目の問題点についてはそもそも合併を推進する際に,市町村に対して「合併をしない」という選択肢を明示する必要があったように思われる。また市町村が単独で存続する具体的な案として事務の共同処理,中でも一部事務組合と事務の委託が考えられよう。一部事務組合はごみ処理や病院の維持管理など事務の処理にコストがかかるものについて有効であり,事務の委託は市町村の事務を都道府県に補完してもらう「垂直補完」の形式が離島の市町村など小規模市町村には効果的だと思われる。  二つ目の問題点の解決策としては「地域自治組織制度」の導入が考えられる。地域自治組織には組織の独立性が高い順に「合併特例区」「地域自治区(特例)」「地域自治区(一般)」「地域審議会」の4つがあるが,(地域自治区は合併市町村に限らずすべての市町村が期間を定めず導入できる組織で,特例は合併市町村のみが期間を定めて導入できる組織)長崎県ではこのうち地域審議会以外の組織はほとんど用いられていない。合併市町村は周辺地域も含めた一体的な行政運営を図るためにももっと地域自治区の制度を活用すべきであり,また離島地域を含む市町村では当該地域に配慮した政策決定を可能にするためにも合併特例区のような独立性の高い組織の導入を検討する必要があると考えられる。

○原発作業員の労働問題(礒部)

 原発での労働環境は劣悪を極めており,安全管理のずさんな現場で,これまで何万人もの労働者たちが被ばくに苦しんできた。労働者は重層的下請構造の中で違法な中間搾取や労災隠しに遭っており,被ばくにより放射線障害に罹患しても,放射線障害の特殊性により救済されづらい状態である。  そこで本稿では多岐にわたる問題点に対し,労働災害予防の面と,労働災害が起こってしまった場合の経済的調整の2つの面から解決策を模索するものである。労働災害予防の面では,まず違法な雇用形態を適法なものとした上で,行政の安全規制や被ばく線量の管理が行われる必要がある。そして労働災害が起こってしまった場合の経済的調整の面では,まずは労災隠しをなくし労災申請できるようにした上で,労災認定がなされるよう基準を下げる。加えて労災保険で得ることのできない慰謝料などは損害賠償請求をすることで得る。この場合は原子力損害賠償法によるものと民法415条によるものと国家賠償法によるものが考えられる。原子力損害賠償法によるもののみ判例が2つあるがどちらも救済されておらず,民法415条や国家賠償法によっても,十分な補償を確実に受けられるとは限らない。  すなわち結局労働災害予防の面も,労働災害に対する経済的調整の面も十分とはいえず,結局原発は労働者の命と健康を犠牲にした上で成り立っているものである。よって今すぐには不可能でも,他のエネルギーに頼ることにより最終的には原発を止めるのが望ましい。その場合原発労働者への補償として,炭鉱の閉山の際,炭鉱離職者に行ったような補償が必要になるであろう。

○ロードプライシング導入に関する法的課題(上野畑)

 自動車の排気ガスによる大気汚染は高度成長期に深刻化し,1970年代に入ってから排出規制の導入により,劇的な改善を見せた。その後1992年に窒素酸化物対策として自動車NOx法が,2001年にはそれに浮遊粒子状物質が加えられてNOx・PM法となり,全国の多くの地域で環境基準が達成された。しかし,大都市圏においては未だ環境基準を満たしていない地域が多く存在しているのが現状であり,排出規制のみならず,交通量そのものを抑制していくような手法をとることが重要である。 ここで注目されるのが交通需要マネジメント(TDM)というものである。TDMとは,道路利用者の利用時間の変更,経路の変更,手段の変更,自動車の効率的利用,発生源の調整等交通の需要を調整することによって,道路交通混雑の緩和を図るという施策をいう。 そして,このTDMの中でも,特に交通量抑制に有効であるとされているのがロードプライシングである。ロードプライシングとは特定の道路や地域,時間帯における自動車利用者に対して課金することにより,自動車利用の合理化や交通行動の転換を促し,自動車交通量の抑制を図る施策であり,経済的なディスインセンティブを自動車の利用者に与えることによって混雑地域への進入を抑制しようというものである。 ロードプライシングを導入する際の大きな問題点の一つとして,どのようにして利用者に課金するかというものがある。考えられる方法としては,地方自治法に基づく分担金・使用料・手数料,地方税法に基づく法定外税,賦課金がある。本稿はこのロードプライシングを導入する際の法的課題,特に課金方式について検討を加えていくものである。

○議決不要型住民投票に関する一考察(木下)

 本稿は,議会の議決を必要としないタイプの住民投票,すなわち住民から一定の請求があった場合には議会の意思にかかわらず必ず住民投票を実施しなければならない旨の規定を持つ法律又は条例に基づいて行われる住民投票(以下,議決不要型住民投票とする)について,その妥当性を検討するものである。近年,住民投票条例を制定しそれに基づく住民投票を実施することで住民自治を推進しようという動きがみられるが,その条例制定請求を議会が否決し,結果として住民投票の実施が困難になるケースが非常に多いのが現状である。こうした状況を打破すべく,自治体レベルで制定され始めたのが,本稿の考察対象である議決不要型住民投票条例である。だが,間接民主制を基本とするわが国において,議会の存在を無視しかねないこの議決不要型の制定及び運用には慎重な議論が必要であると考える。  本論文では,この議決不要型住民投票条例が地方自治制度においてどのように位置づけられているかについて考察した。そもそも地方政治の下では,間接民主制を基本としつつも,その欠陥を補うために直接民主主義的な制度が導入されている。このような両者の相補関係を前提としたうえで,議決不要型住民投票も従来の住民投票制度と同様に,住民自治制度の一つとして位置付けられているということを確認した。そのうえで,住民投票の対象事項を個別設置型よりも厳しく制限したり,その他の論点(発議権,投票資格者,投票の成立要件,投票結果の取り扱い)について検討を加えるたりすることで,議決不要型住民投票条例の妥当性を肯定した。

○原発訴訟(中山)

 本稿は,もんじゅ訴訟差し戻し後控訴審判決および上告審判決を素材に,原発訴訟における原告勝訴の可能性について審査方式の観点から検討を行うものである。  伊方最高裁判決により,原発訴訟における司法審査の方式として判断過程統制方式を用いることが確立している。しかし,伊方判決は,実体的判断代置方式を否定し,判断過程統制方式を採用することは明白にしているものの,それ以外には何も述べていないため,具体的な審査方法は明らかではなかった。そして,当該伊方最高裁判決を引用したもんじゅ訴訟両判決は,判断過程統制方式を行うという建前を取りながらも,実際には実体(安全審査の結論)にかなり踏み込んだ判断を行ってしまっているように思われる。  このように,伊方判決が示した基準の理解とは異なった形で,実体判断に傾いた判断過程統制方式が行われることにより,裁判官は自分の判断に自信が持てない,もしくは安全性について裁判官が判断すべきではないという意識を持ち,結果的に行政庁の主張を大幅に取り入れた判断がなされている。これが原発訴訟における原告敗訴の原因になっていると考える。  以上の分析を踏まえ,どのような判断過程統制方式がとられるべきなのかという点につき,実体判断に踏み込む程度により三つの方式が考えられる。その中でも,筆者は,原告勝訴の可能性をできる限り大きくしたいという考えから,安全審査の結論に影響を与えるか否かという実体判断にできる限り踏み込まず,安全審査における調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤,欠落がある場合には,違法となるという高橋説を支持する。違法となる可能性が高くなる分,実質的に結論が変化しない場合も多くなると考えられるが,原発訴訟の現状をかんがみると,できる限り勝訴判決を出すメリットの方が大きいと解する。

○公益通報制度の実効性確保(福地)

 近年,企業等の不祥事が内部の労働者の通報を発端として,明らかになる事案が多く見られる。行政の側にとっても,そのような企業等の法令違反を自らの力で発見するのは困難な場合もあり,内部の労働者からの通報は消費者全体の利益の保護するために,大きな意味を持つものであるといえる。平成18年には公益通報者保護法が施行され,公益通報者は通報を理由とする使用者からの解雇等の不利益取り扱いから保護されることが明確に定められることとなった。このように,公益通報者保護法が制定されたことに加え,多くの事業者・自治体が内部通報制度を創設したことにより,公益通報制度が一応は整った。しかし,現行制度においても,通報者と事業者間で紛争が発生したり,通報受理者の側で不適切な処理がなされたりするなどの事例が発生し,通報者の範囲,通報対象事実の範囲,外部通報要件などに関して,問題点が指摘されている。本稿では,第1章で公益通報者保護法制定前の状況を確認し,第2章で公益通報者保護法の概要をみる。そして,第3章で内部通報制度の導入状況,第4章で現行制度における事例と問題点を概観する。最後に,第5章で公益通報制度の実効性を確保へ向けて,公益通報者の保護の徹底,手続規定の明確化・消費者庁への新たな権限の付与による行政の権限不行使の防止,内部通報制度設置の義務化を提案する。

○わが国の国際航空自由化政策の検討(栄留)

本稿は,2007年のアジア・ゲートウェイ戦略会議に端を発し提言された,わが国の国際航空市場の自由化政策について検討を試みるものである。第1章では,これまでの国際自由化の基本的ルールであった,二国間協定に基づくシカゴ=バミューダ体制について紹介し,航空市場に関する法的権利について検討する。その後,航空自由化政策は米国内の航空市場の規制緩和によって生じたものであり,それが世界へ広まったことによって,新たな空の自由(航空権益)が認められるようになったことを指摘する。合わせて,国際航空市場の自由化によって,どのような効果が生まれたのかを,EUの航空市場を例に若干言及する。その上で,第2章では,わが国の航空自由化政策に移るのであるが,わが国の航空自由化はそれによって航空市場の活性化を目指すことが第一の目的とされている訳ではなく,冒頭で述べたアジア・ゲートウェイ戦略という国家の成長戦略の一手段として用いられているに過ぎないため,まずは,本成長戦略がどのようなものであるのかについて概観する。その上で,日本の航空自由化がどの程度進んでいるのか,すなわち,オープンスカイ協定をいかなる国と締結しているのかを紹介し,どのような航空権益が認められているのかについても言及する。そして,わが国の国際航空自由化を推進していく上での課題を,首都圏空港の整備不足と国際航空運賃の独占禁止法適用除外制度の2つに分けて検討を加える。

○学校統廃合問題における条例と司法審査(丹下)

 近年学校選択制を導入する自治体は増えており,その結果小規模化する公立校の統廃合が活発に成されている。学校選択制の性質上,その帰結としての統廃合の規模や数は以前のものとは比べ物にならない。こうした現実を尻目に司法の態度は消極的である。唯一の最高裁判決である小学校判決においても,学校の利用者である保護者は,学校で授業を受けさせる権利ないし法的利益を有するが,特定の学校の利用についてまで具体的権利,利益が生ずるものではないため廃止条例は一般的規範に過ぎないと訴えを退けた。このような判例の硬直的な思考は実効的権利救済の観点から看過できない問題である。また一方では行政の専門性を尊重すべきであるから,このような事案は司法に判断を委ね,統廃合監視機関としての機能を期待することが適当であろう。  同様に条例の処分性が認められた判例(保育所判決)では,条例を処分と同視し得る要件として①条例の処分との同質性と②取消訴訟の対象とする合理的な理由の2点を求めていた。この基準を小学校判決に援用して本稿では検討する。まず合理性の問題については,保育所判決の理解は小学校判決においてもそのまま当てはまり問題にはならない。一方処分との同質性の問題については検討を要する。保育所判決においては①条例の内容的特質②法効果の具体性③法効果の及ぶ対象者の特定性④権利侵害性の4点をその基準とするが,小学校判決との相違は④権利侵害性の前提となる権利の有無であった。両判決の乖離が法律上の権利ないし利益にあることに鑑み,原告適格の理論,特に小早川光郎が示した分類に基づいてこの点を検討すると,問題は保護範囲要件と個別保護要件にある。前者については行政事件訴訟法改正後,関連法令は比較的緩やかに解されることから,就学指定制度はその範囲内であると言って良い。一方個別に保護されていると解する基準は保育所判決より①入学の際の申込み(申請)の機会と②保護者の選択の制度上の保障の2点を導くことができる。就学変更制度において申請が認められているため前者の要件は満たす。また同制度において変更が認められる事例を行政が広く認めていることや学校選択制により二重の参画の機会を与えていることから推察すると後者の要件も満たすと考えられ,廃止条例に処分性を認めることは可能である。そうすると本案にて違法性が審査されるため,統廃合に対する一つの牽制になろう。

○北九州市のリサイクル事業における財源確保(小木野)

 本論文は環境政策に積極的な北九州市の,特にリサイクル事業に焦点をあて,その財源の確保を目的として作られた環境未来税について分析・検討を加えていくものである。  まず第1章では北九州市に関する説明と北九州市で実際にどのような環境政策が行われてきたか,また今回主にとりあげるリサイクル事業について概観するとともに,そこにある課題を考察した。ここでは特に財源の調達・確保のために制定された北九州市独自の法定外目的税である環境未来税の税収が減少していることを取り上げ,次章以降につなげている。  次に第2章では第1章で環境政策に重点を置いている北九州市においていまだに残っている課題として挙げる財源確保の面に不可欠である環境未来税について取り上げ,環境未来税そのものに内包する問題を提起した。また法定外目的税についても詳しめに説明している。 そして第3章では環境未来税と同じく法定外目的税である福岡県の産業廃棄物税との対比の中から,環境未来税の税制度について再検討を行った。ここでは第2章で挙げた環境未来税の問題の所在を明らかにし,なぜ納税義務者の範囲を限定したのかを説明した後で,その問題を解決するために産業廃棄物税の制度の導入及び応用を考えた。また第2章で触れている,環境未来税の再検討を行う上で考えなければならない消極要件や二重課税の問題に私見の制度が該当していないかどうかを考察した。 なお今回のゼミ論文では財源の調達・確保の面に重点を置いたため,もう一方の課題である環境維持,環境保護といった面は度外視しており,2回目の報告で書いていた不法投棄等の問題については全て削除した。

○放射性物質に汚染された廃棄物の処理(鵜篭)

本稿は,東日本大震災によって発生した廃棄物行政における新たな問題を分析し,その対応策を模索していくものである。 2011年3月11日,東日本大震災が発生した。この震災は単なる震災被害のみではなく,福島第一原発事故を発生させ,これによって飛散した放射性物質が付着した廃棄物(以下,汚染廃棄物と呼ぶ)の処理問題を同時に発生させた。今回の原発事故では,まず福島第一原発周辺の地域の廃棄物が放射性物質に汚染された。さらに,原発から離れた地域の廃棄物についても微量の放射性物質が付着し,その汚染廃棄物の収集,処理を行った結果,それらが凝縮され,高濃度の放射性物質に汚染された焼却灰が発生している。行政はこれらの事態に対して事後的に対応策を示し,8月末に放射性物質汚染対策特措法を制定して,この特措法と従来の廃棄物処理法を用いてこれに対応するとした。しかしながら,放射性物質に対する科学的知見が未発達なこともあって,その法制度は未だ不十分であり,我々国民の廃棄物行政に対する不信感は高まるばかりである。 この事態に対して本稿では行政のこれまでの対応の不十分さを指摘した上で,汚染廃棄物処理における最大の問題である処分場の確保を円滑に進めるための施策について検討していく。処分場の確保を円滑に進めるためには汚染廃棄物,そして廃棄物行政全般に対する国民の不信感を払しょくする必要がある。そのために本稿では廃棄物の監視体制の強化と住民理解の促進のための施策について検討する。

○冤罪被害者に対する賠償(甲斐)

本稿では,裁判官や検察官の誤った判断によって,無罪の者が拘束され起訴されたり,有罪判決を下されることによって生じる様々な損害に対する賠償・補償を拡充することで,このような冤罪被害者の救済につながらないか検討する。その方法としては,まず,第1章で刑事司法権の行使に伴う損害の補償を定めた刑事補償法,被疑者補償規程,費用補償の制度について概観し,次に第2章で,そのような補償の中心的な役割を担う刑事補償法に関する学説,さらに第3章で,刑事補償法による補償では不服な場合に利用される国家賠償法に関する学説を概観した上で,最後に第4章で,それぞれの補償の制度がもつ問題点とそれに対する私見を述べている。 刑事補償法と国家賠償法で求められる補償内容は主に逸失利益と慰謝料であるため,両者を一体的に検討する必要があると思われる。そして,現実には,刑事補償法による補償内容では不十分であり,それを補うものとして想定されている国家賠償法による救済が冤罪事件では認められたものがないという問題が存在する。そこで,私見では,現行法を維持したままで解決を目指す解釈論によるアプローチと,法改正して刑事補償法に救済方法を一本化する立法論によるアプローチをとった。 被疑者補償規程については,無罪判決を得たものと違い,不起訴処分を受けたところで再逮捕等の可能性があり補償が認めにくいことや,法律ではなく訓令という法形式であることから国民が主張できる権利とは言い切れない点にも問題があるが,その性質上やむを得ない点があることを指摘した。 費用補償については,再審裁判を求める再審請求の段階に費やされた費用の補償が認められていない問題がある。これは法律にこの部分の補償を明示していない立法の問題もあるが,法律の文言を形式的に解釈し請求を認めなかった裁判所にも問題があると考える。法解釈を柔軟に行い,再審無罪判決を勝ち取った冤罪被害者が最も費用がかかる再審請求段階についての費用補償も認められるべきである。 論文としては,刑事補償法の法的性質や国家賠償法の違法性の性質を検討したが,当初の目的であった冤罪被害者の救済において重要となる過失についての検討を行うことができなかった。今後の課題としていきたい。

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