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第28回 ゼミ論文発表会

提出されたゼミ論文の要旨は以下の通りです。

○大相撲問題(内田)

2008年に始まった新公益法人制度に伴い,既存の法人と同じく日本相撲協会も2013年までに新たな公益法人制度に移行する必要が生じた。しかし,野球賭博問題をはじめとした多くの問題を抱える相撲協会は,公益性が認められず新たな公益法人を設立できなくなるおそれがある。長い歴史を持ち,日本の国技たる相撲を効果的に維持発展していくためには,新たな公益法人に移行するこ とが望まれる。本論文では,協会が抱える様々な問題の原因となった相撲界の諸制度を分析し,新たな公益法人へ移行する妥当性を検討し,公益認定のために協会が改善すべき主なポイントについて考察を加えている。第1,2章では相撲協会の仕組み,諸制度の概要およびその問題点について論じ,年寄株の高騰や部屋制度,維持員制度などの相撲界特有の制度が,暴力団が相撲界に関与する原因であると結論付けている。第3,4章では現行の公益法人制度と新しい公益法人制度を概観し,新しい公益法人に移行することによるメリット,逆に一般社団法人・財団法人に移行することによるデメリットについて論じ,協会が新しい公益法人へ移行する必要性を述べている。第5章ではそれまでの検討を踏まえて,協会が公益認定を受ける際の主要な点について検討している。そして,本場所事業費などの事業費が「公益目的事業」として認められること,そのためには行政庁の裁量の観点から暴力団との関係根絶が必要であると結論付けている。

○地域主権改革と地方財政(前原)

地域主権改革によって2000年に地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(以下,地方分権一括法という。)が制定され事務の配分において劇的な改革がなされた。しかしながらこれを担保する財源の移譲は非常に限定的なものにとどまっている。「一括交付金」はこれを改善するために掲げられたものであるが,これについても不十分である。現在の地方財政において地方交付税の占める役割というのは非常に大きい。交付税額が増加傾向にあるとともに,地方財政の依存傾向も強まってきている。交付税額の決定は基準財政需要額と基準財政収入額の差額である。この算定基準が地方財政を拘束し,地域主権と逆行する結果となっているというのが批判の的になっている。 地域主権の実現のためには権限と財源の移譲がセットで行われることが必要である。自分たちが行うことについては自己の財源でまかなうことが最適な在り方である。しかしながら,実際にこのようにすれば徴税力の地域間格差非常に大きい日本において頓挫する地方公共団体も現れてくる。そこでこのギャップを修正することが地方交付税である。ここでは国の裁量が及ばないようにする必要がある。そこで,交付税額が機械的に確定できるような算定基準を導入すべきである。財源保障の観点と財源調整の観点を両方含んだ算定基準である。この財源的裏付けにより本当の意味での地域主権が出来上がっていくのである。

○虐待する親へのケア・支援(久保田)

平成21年度,児童相談所における児童虐待の対応件数は,44,210件にも上った。多くの子どもたちが,児童相談所によって保護され,親と離れて生活している。この子どもたちを再び親元に帰すことを,家族再統合という。 家族再統合の実現には,親へのケア・支援が欠かせない。虐待をする親は,親自身の虐待体験,周囲からの孤立,子育て不安といった様々な悩みを抱えており,これらを解決しなければ,子どもを家庭に帰しても,虐待が再発するおそれがあるからである。 しかし,多くの親が,虐待の事実を認めず,ケア・支援を拒否してしまう。ケア・支援を実施するにしても,その技術が確立されていない,児童相談所の慢性的な人手不足でケア・支援まで手が回らないといった問題がある。そのため,家族再統合をあきらめなければならないケースが多い。 この現状を変えるためには,①家庭裁判所が親にケア・支援を受けるよう命令できるようにすること,②ケア・支援モデルを作成すること,③児童相談所職員の増員とその専門性を確保し,さらには,関係機関との連携を強めることによって虐待対応全体を改善していく必要があるだろう。

○「悪魔ちゃん」事件と名づけ(安井)

昨今の親の価値観の多様化に伴い,子の名の多様化が見られる。その中で,一時社会の耳目を大いに集めた「悪魔ちゃん」事件(東京家裁八王子支審平成6年1月30日)のように,子がその名によって人格を害されるおそれも出てきた。本稿は,そのような社会情勢のもとで,どのような命名の制限が望ましいかについて論じるものである。 現行の戸籍法は,子の名には常用平易な文字を用いることとしている(戸籍法50条1項,同法施行規則60条)。活字等の公的福祉に着目したもので,ほかの観点からの制限は,現行法上採られていない。しかし,「悪魔ちゃん」事件をみていると,現行法の制限に加え,子の福祉の防衛という観点の制限も必要であると思われる。 命名の制限には,①意味の制限,②文字の制限,③読みの制限があるが,①と②の制限を行うことが妥当である。それにより,子の福祉を担保し,かつ公共の福祉に適合することができる。その具体的方法として,行政が,子又は公の福祉に反する名の受理を拒否できる根拠となる一般条項を定め,また,現行法の文字制限の枠組みを維持した制度が望ましい。 現行法より厳しい制限を課す制度であるので,当事者救済として,家事審判による不服申立て制度(戸籍法121条)や,国家賠償制度をより活用する必要がある。また,子が戸籍のない状態を作らないために,出生届を「名未定」として受理する取扱いが,名について問題のある出生届についてはされるべきである。

○年金支給開始年齢と定年年齢を接続させるために(木村)

日本では急速な高齢化に伴い,年金制度改革が行われ,年金支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられることとなった。そこで,高齢者雇用政策に変化が迫られることなり,平成16年「高年齢者等の雇用の安定に関する法律」(以下,高年法という。)が改正され,65歳までの雇用の確保が事業主に義務付けられることとなった。高年法の影響は大きなものがあり,定年制を設けない事業所が2割強,雇用確保措置をとる事業所が9割を占めるに至ったのである。しかしながら,高年法は雇用確保措置の導入はもたらしたが,60歳以降継続して雇用を行う者の選定基準を設けることを許容しており,実態として,希望者全員の雇用がなされているわけではないのである。 この状況の解決策として本稿では,高年法9条2項に雇用確保措置を行わない場合には法違反を行ったことに伴う制裁的効果として,定年制の定めのないものとみなすか65歳定年を実施したものとみなす私法的効果を有する規定を設けること,また,継続雇用の選定基準設定にあたっても65歳までの雇用確保という高年法の基本目標,理念・目的,高年法9条1項にいう希望者全員雇用の原則を踏まえるならば,基準対象者の選抜は整理解雇に準ずるものとして整理解雇が有効とされる4要件を踏まえて手続的規制を明確にすることを提案する。

○非正規雇用者と住宅のセーフティーネット(とろろ)

本稿は,現在日本増加している非正規被用者について,住宅のセーフティネットとしてどのような施策が必要かを検討するものである。 非正規被用者は,正社員と比べて相対的に賃金が低いために住居の確保が難しく,また不安定な雇用形態から,職を失うことが住居の喪失に直結しやすい。日本では,2008年末の「年越し派遣村」が注目を集めるまで,住居に焦点をあてたセーフティネットは構築されてこなかった。その背景として,日本の住宅政策や企業福祉が,正規被用者を中心に据えていたことが挙げられる。住宅政策は,中間層の持家取得を促すことに重点をおいて行われたため,低所得者向けの公営住宅や民間の賃貸住宅に関する施策が手薄であった。また,正規被用者と非正規被用者,大企業と中小企業で大きな差があった。すなわち,非正規被用者は,賃金が安いことに加えて,住宅政策や企業福祉の恩恵を十分に受けられないことから,正規被用者に比べて住居の確保が難しくなっているのである。 「派遣村」以降,従来セーフティネットとして考えられてきた雇用保険と生活保護の間を埋める「第二のセーフティネット」と呼ばれる各種補助制度が創設された。しかしながら,これら第二のセーフティネットは,失業,離職していることがその主要な要件である。そのため,不安定な非正規被用者として働いている人に直接には機能しない。非正規被用者が,生活保護に陥る前に使える制度が必要である。その対策として,筆者は,①民間賃貸住宅の買い上げによる公営住宅数の増加・公営住宅の入居条件を緩和させること②就労しているか否かを問わない家賃補助の創設が必要だと考える。

○地上デジタル化問題(権藤)

日本では2011年7月24日に地上デジタル放送が完全実施され,アナログ放送が一斉に終了する。その目標として「電波の有効活用」をして周波数を空けるということがあるという。他にはゴースト(二重映り)がなくなること等がメリットとして挙げられている。地上デジタル放送視聴のためにはテレビやチューナー購入など国民は負担を負うが,このことに対しては不満の声も上がっている。総務省は低所得者層等を主な対象とした支援を行っており,独自の取り組みを行っている自治体もある。この地上デジタル 放送完全移行の経緯を見ると,法律としては2001年に施行された電波法改正法が挙げられるものの,その条文には「地上デジタル放送化」や「アナログ放送終了」という言葉はなく,直接的には周波数割当計画によってアナログ放送終了が決められたのだと言える。手続きという面からこの地上デジタル放送完全移行について考察すると,法律の留保原 則に従っているのかどうかが問題となる。重要事項留保説の立場をとるとこれは「アナログ放送の終了」が国民に大きな負担を強いることにより重要事項であるから,法律の留保原則に抵触していることになる。また同時に内容の面から考察すると,周波数割当計画の変更公示から10年というアナログ放送の終了期日の設定は,テレビの性質等やデジタル放送が開始された時期を考慮すると短いように思われる。国は更なる支援を行う等して国民の負担を減らすか,法律を改正してアナログ放送終了の期日を延長すべきである。

○福岡市とオリンピック招致(林田)

本稿では,オリンピック のもつコンセプトに着目した。時代により推移してきたオリンピックのコンセプトのから,福岡オリンピックの意義について考えたい。第1章では,これまでのオリンピックの変遷をそのコンセプトから見ていき,そして今回の福岡案について紹介する。福岡案では福岡の中心から近い場所にメイン会場を設けるとしたが,その対象となったのが須崎であった。須崎埠頭の再開発が進まなければ福岡案の成立は難しい。第2章では,その福岡案の正否の鍵となる須崎埠頭の問題について個別に考える。第3章では私見として,各オリンピックのコンセプトに照らした福岡オリンピックについて論じる。また,21世紀型のオリンピックの開催というコンセプトを表した福岡案が20世紀型のオリンピックから抜け出せられたのかをみていく。

第27回 ゼミ論文経過報告10

通常のゼミの形式では今回が最後となりました。

・「『悪魔ちゃん』命名事件と名づけ」(安井)では,一般条項を設けて子の福祉を害する場合には届出を拒否できるという私案が示されました。最終的な訴訟の局面をより深く検討することが今後の課題となります。

・「地上デジタル放送移行に伴う問題の考察」(権藤)では,地デジの決定過程と負担の問題を中心に議論を整理していく方向性が提示されました。まだ調べ切れていない部分があるので,時間との戦いになりそうです。

第26回 ゼミ論文経過報告9

新年初回のゼミとなった今回もオープンゼミでした。

・「大相撲改革」(内田)では,新しい公益法人制度に相撲協会が移行する際の問題となりそうな論点が取り扱われました。条文上の要件との対応関係をもう少し詰めるべきだとの意見が出されました。

・「年金型生命保険二重課税問題」(福嶋)では,還付手続の問題が主として議論されました。国家賠償の利用可能性や,源泉徴収の法関係の解明が今後の課題となります。

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