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第26回 論文発表会

今年度最終回となった今回は恒例の論文発表会が開催されました。

提出された論文の要約は以下の通りです(要約の提出順に掲載しています)。

○児童扶養手当と父子世帯(CHINATSU)

本論文では,母子世帯に支給される児童扶養手当の制度を検討し,そこに存在するいくつかの問題の中から,父子世帯が支給対象から除外されている不平等な点に問題点を絞っている。ひとり親世帯の現状をデータ化して母子世帯と父子世帯を比較・検討したうえで,父子世帯にも児童扶養手当が支給されるべきと結論付けた。実際に父子世帯にも児童扶養手当を支給するに当たり,現行制度を利用して,生活保護と一本化する案,児童手当と一本化する案の2つを提案した。この案は,両者とも家庭の経済状況に着目して支給すべきとし,世帯主によって支給対象が変わる児童扶養手当の問題点を解決するとともに,問題視されなかった両親世帯の低所得者も救済できるという利点を持つものである。以下,第1章で制度の概要,問題点の指摘,第2章で現状分析,第3章で今後の制度の提案・検討を行う。

○雇用による障害者の自立をめざして(とろろ)

本稿は,障害者が雇用によって自立をするためにどのような施策が必要かについて,障害者の一般就労と福祉的就労の実態を踏まえながら,障害者雇用の法制度と諸外国における障害者雇用施策を概観しながら考察していく。日本では,障害者雇用施策として,割当雇用制度が実施され,就労支援として職業訓練やジョブコーチ等が導入されている。しかしながら,障害者の実雇用率は未だ低い水準にあり,民間企業等で働きたいと思いながらも福祉的就労に従事している障害者は多い。また,これら福祉的就労の平均工賃は低く,その工賃と障害年金を合わせた額で生活を営むのは難しいため,障害者の生活は家族の収入に依存している傾向がある。このような現状を打破するには,労働法の適用が認められている一般雇用を進めることが重要である。具体的には,①障害の等級では中・軽度に区分されているが職業的には重度に相当するためにダブルカウント制の対象とならず,不利益を受けている者を,職業上の重度障害者として労働能力によって認定すること,②量的な雇用の機会を確保するだけでなく,雇用の質を高めるために差別禁止法制の整備すること,③福祉的就労から一般雇用に移行するために福祉的就労と割当雇用制度の連携を進めること,が必要だと考える。

○意見公募手続における諸問題に関する考察(田野田)

昨今は政治や行政の透明性の向上,市民参加が重視され,後者の潮流は司法にまで押し寄せている。本稿では,国家の行政活動の中核をなす行政立法に着目し,その中でも平成17年の行政手続法の改正により新設された意見公募手続を取り上げる。 当制度は,従前の民主的正当性を欠く行政立法手続とは異なり,広く一般に意見を求め立法過程にこれを反映させることができる点で優れている。しかし,当制度は認知度,利用度が非常に低く,制度の空洞化,アリバイとして利用される虞がある。さらに,手続的瑕疵を是正するシステムの不存在や違法とまではいえないが問題のある手続への対処をどうするか考える必要がある。 第一点目の問題には,インターネットを基軸とした広報を行い,さらに民間との協力関係が不可欠である。第二点目の手続的瑕疵に関していえば,従来の判例の傾向や法の関係上,救済は困難であることから,意見公募手続によって立法された命令等を対象とする取消訴訟を創設することが考えられる。問題のある手続に対しては,文部科学省のGP制度を参考にした,案件を良し悪しで振り分ける方法が考えられる。今後は,意見公募手続に固執せず,その他の制度と組合せ補完しあうことが重要であり,行政も民間との協力関係をいかに築いていくかが課題となろう。

○原告適格の拡大可能性について(ほうく)

本稿は,行政訴訟において訴訟要件となる原告適格を判断する際に用いられる,「個別保護要件」について検討を加え,それを消去することによって原告適格を拡大することを主張するものである。 行政訴訟法は第9条において原告を「法律上の利益を有する者」に限定している。この「法律上の利益」の判断を巡ってさまざまに議論がなされてきたが,判例に対しては従来からあまりにも狭くこれを解していると批判されてきた。学説からの批判を受け,判例も次第に「法律上の利益」の要件を緩和する方向に向かい原告適格の範囲を拡大してきた。これをうけて,2004年に行政事件訴訟法は改正され,9条2項として「法律上の利益」を判断する際の考慮要素が挙げられた。これを受け,いわゆる「小田急訴訟」では原告適格を実際に拡大させる判決が出された。 しかしながら,これらの展開を受けてもなお,憲法32条の「裁判を受ける権利」からすれば原告適格の範囲は狭いと言わざるを得ない。その原因となっているのが「法律上の利益」の有無を判断する際に用いられる「個別保護要件」であると考える。判例理論によると「法律上の利益」の有無を判断する際には,「不利益要件+保護範囲要件+個別保護要件」の3要件が必要だとされるが,その一つである「個別保護要件」は,法令が原告の利益を個別かつ直接に保護していることを要求し,それが認められない利益は「公益」であるとして原告適格を否定するものである。しかし,この要件は,「公益」の捉え方や法令による列記主義など,いくつかの点において妥当性を欠くものである。 したがって,原告適格の範囲を狭めている「個別保護要件」を消去し,「不利益要件+保護範囲要件」の2要件で原告適格の有無を判断することで原告適格の範囲を拡大すべきだ,と主張するものである。

○ワークシェアリング(松井)

昨今の不況によって失業率が悪化している。その一方で,正社員は長時間労働を強いられている。そこで,我が国では労働時間の短縮によって雇用機会を維持・創出するワークシェアリングの導入が検討され始めた。 しかし,そこでの議論では,長時間労働短縮に向けた取り組みや均等待遇への移行など,ワークシェアリング実施に必要と考えられる施策が論じられていない。これでは,雇用不安は解消されず,それどころか劣悪な雇用を増やすだけである。不況下では,雇用不安の解消によって消費を回復させ,企業収益の改善と雇用の増加を通して景気を回復させる,という循環を作り出すようなワークシェアリングとしなければならない。 そこで,本稿では多様就業促進型のワークシェアリングを「賃金切り下げ」をともなわないで導入する可能性を考察する。 まず,第1章ではワークシェアリングの定義について述べ,日本と海外のワークシェアリングの捉え方の違いを明らかにする。第2章では日本での実施例を述べ,その問題点を指摘する。第3章では海外の事例を,特にオランダを中心に紹介する。オランダでは1982年に政府,経営者団体,労働組合連盟の三者による「ワッセナー合意」が成立した。そして,労働者側は賃上げ抑制に協力し,企業側は雇用維持と労働時間短縮に努め,政府側は減税と社会保障水準の切り下げによる財政支出の抑制を図ることとなった1。さらに,フルタイム労働者とパートタイム労働者との間で,社会保障や税制などでの均等処遇を保障し,労働者がフルタイムとパートタイムの相互転換ができる権利を法制化した。これらの施策によって,オランダでは多様就業型ワークシェアリングを推進し,失業率の改善や経済成長,財政赤字の解消に成功し,ワークシェアリングの成功例としてよく知られている。第4章では日本で多様就業促進型のワークシェアリングを導入する際の問題点を指摘する。ここでは,長時間労働,企業の雇用管理,労働組合の姿勢,国の規制の不十分さを指摘する。最後に,第5章で私見を述べる。上記のように「賃金切り下げ」なしの多様就業促進型ワークシェアリングの導入を目的とし,そのために,政労使の3者による社会的な合意が必要となること,そして,労働時間短縮と雇用創出に向けた法改正や均等待遇のための法整備,国による支援措置など導入に際して必要な総合的な施策を考察していく。

○「弱い」日本が生き抜くために―日本におけるODAの意義とそのあり方の再検討―(あま党)

本稿は,国際社会における日本の地位を維持・向上させ,さらには日本全体の将来の発展にも大きく影響すると考えられる国際協力行政,その中でも特にODA (Official Development Assistance,政府開発援助)に焦点を当てて,日本にとって国際協力が持つ意義,及びそのあり方について考察するものである。 かつて拠出額で世界第1位を誇り,日本外交の大きな武器であった日本のODAは,日本経済の停滞や国民の不信・批判などを背景に拠出額が削減され,今では拠出額世界第5位にまで転落している。また,今後は少子高齢化の進行による労働人口の減少や国内市場の成熟が避けられず,今より国際的に「弱く」なることが予想される日本の将来にとって,現在及びこれからの国際協力は大きな利益をもたらしうるものでもある。さらに,途上国が直面している問題が多様化している今,従来は円借款を中心とし東アジア重視であった日本ODAにも,支援地域・支援形態や支援体制等の変化が求められていると言えよう。かかる状況に鑑みて,今後の国際社会において日本が存在感や影響力,国としての魅力を維持,あるいはより高めていくために,日本の国際協力のあり方について今一度見直されることが必要であろう。 以上の問題について検討するため,本稿では,まず第1章において,ODAを中心とした日本の国際協力のしくみとその歴史についてまとめ,さらに日本のODAを取り巻く現状を「国民の理解」という面から考察している。続けて第2章では,開発途上国等への援助の国際的動向を概観し,国際比較的に日本のODAの特徴を考察した。第3章では,日本がODAを行う意義について,「日本産業の活性化」「かつての被援助国,先進国としての責務」「友好関係の深化」という3つの側面から検討し,さらに,国際社会において日本が存在感を示すには如何なる理念を掲げてODAに取り組むべきかという点等の考察を試みた。そして最後に,ODAに対する国民の理解を一層深めるために,「国際協力庁」の創設を提言し,結びに代えている。

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